飛竜の季節:三日目
イベントが始まって三日目。俺は高校の休み時間に昨日までの順位を見ていた。
「差が縮まっている?」
未だ俺達はトップを保っているが、昨日見た時に比べて差が縮まっている。俺達は学校があるせいでプレイ時間は初日より少ないとはいえ、初日のように試行錯誤の時間がない分数は初日よりも稼いでいた。だというのに、この結果という事は……。
「貴方も見たようね」
「凛も見たのか?」
「ええ」
凛は頷いて見ていたスマフォの画面を俺に見せてきた。そこには、今俺が見ていたのと同じイベントの順位が表示されていた。
「明らかに差を縮めてきているのはニーベルンゲンと浮雲の二つ。おそらくだけれど、この二つのクランは逆鱗に気づいているわね。私の予想よりも一日早いわ」
たしか、凛の予想では今日くらいに気づくクランが出てくると言っていたか。
「たぶん、偵察していたんだと思うぞ」
「偵察?」
「ああ、昨日戦っている時にいくつか視線を感じた」
「それ、私聞いてないのだけれど」
「言ってなかったか?」
「聞いてないわ」
そういえば、そんな暇がなくて言ってなかったかもしれないな。
「でも、聞いたところで何も変わらないだろ?」
「……まあ、そうね」
初日の結果で俺達が何かをしているのは他のクランも気づいているはずだ。それを調べようとするのは当然の事。
そして、偵察を送ったであろうニーベルンゲンも浮雲もNWOで最大級のクラン。身内だけで構成された俺達のような小規模クランと違い、大量の人を抱える両者は偵察を出す余裕もある。これは十分に予想できた事だ。
だからといって、偵察を警戒して逆鱗を狙わないという事はできない。圧倒的に数で不利な俺達にはそんな余裕はないのだ。
「自力で気づくだろうとは思っていたけれど、偵察にまで頭が回っていなかったわ。元々序盤で引き離して逃げ切りを狙っていたのだけれど、それも厳しいわね」
「これに関してはもう仕方ないだろ」
「……そうね」
「ちなみになんだけど、ニーベルンゲンと浮雲って今どれくらいの人数がいるんだ」
「詳しくは私もわからないわ。ただ、確実に百は超えているでしょうね」
「それはまた、ずいぶんと差があるな」
「キングダムやガーデンで五十くらいね。アニマルランドは十人くらいだけれど、あそこはプレイヤーの人数だけじゃ計れないわね」
全員がテイマーという変則クラン。テイムモンスターを数に入れるのならギングダムやガーデンにだって負けてはいない。
「逆鱗の事が知られたらどれくらい早くなると思う?」
「空を飛び回るワイバーンの一つしかない逆鱗を狙うのは簡単ではないわ。それに、どうしたって背中側は狙えない。それでも、1.5倍は早くなると思うし、慣れてくれば倍は早くなるでしょうね」
これがパーティレベルの話なら大した差はない。一が二になったところで大局に影響しないだろう。だが、クランレベルともなれば十や百の数字が1.5倍されるのだ。多少のリードなど簡単に逆転されかねない。
「まあ、全員が戦闘員な訳でもないし、常に参加できる訳でもない。その分、常に誰かが数を稼ぐ事はできるでしょうけど、それだけじゃ大きな数は稼げない。いきなり逆転されるという事はないでしょうけど……」
それも時間の問題か。
「最悪、ニーベルンゲンと浮雲には負けてもいいのよ。問題は……」
「ガーデンとアニマルランドか」
現在ガーデンは四位。アニマルランドが六位ですぐ下につけている。まだ差はあるけど、逆鱗の事を知ればこの差も縮まってしまう。
「厄介なのはアニマルランドね。テイムモンスターによる航空戦力は脅威よ。他のクランが狙えない背中側も狙えるもの。それに、テイマーは一部を除いて魔法職からの転職ばかりだから私のポジションは出来るでしょうし」
「だからといって俺達がやる事は変わらないか」
「そうね。もっと時間を使えたら余裕もあるのだけれど。学校、爆発しないかしら?」
「物騒な事を言うな」
キーンコーンカーンカーン
「と、チャイムが鳴ったな。あとは帰ってからだな」