飛竜の季節:二日目
イベント二日目。初日をトップで終えた俺達は学校終わりにすぐにログインし、再び亡霊湿地にやって来ていた。
「今日もやるか」
空中を飛び回る無数のワイバーン。最早何体いるのか数えるのも困難なワイバーンの上を逆鱗を斬りつけながら跳び回っていく。
さらに、下からはミナスの放つ矢が次々とワイバーンの逆鱗を捉えて撃ち落としていく。
本来数体の群れでしかないはずのワイバーンこれだけ集まっているのは当然理由がある。それこそが俺達が初日トップになった理由でもある。
それはユーナの作った誘引薬。以前に一度使った事のあるそれは魔物を引き寄せる効果があり、それはワイバーンにも効果があった。これによって大量のワイバーンを引き寄せる事ができ、捜索する時間が短縮する事ができた。
だが、そこで新たな問題が発生した。それが逆鱗を探す時間がないという事だ。
それを解決したのは弱点看破のアーツ。このアーツを使うと逆鱗の位置が光って見えるのだ。しかも、俺とミナス両方がこのアーツを使える。これによって即座に逆鱗を発見し、ワイバーンを落としていく。そうすれば、あとはマーネの仕事。
チラリとワイバーンの上から下を見下ろせばマーネの放つレベル10水魔法タイダルウェーブによって起きた津波がワイバーンと集まってきていたアンデッドをまとめて飲み込む。
続けて放つレベル8水魔法ボルテックスによって発生した渦潮がさらにダメージを積み重ね、水と風の複合属性の氷魔法によるブリザードで吹雪が吹き荒れる。
さらに、その魔法の全てにはマーネの横に立つ闇精霊アリスによってMP吸収効果が付与され、休む事なく魔法を放っていく。
おそらく、他のパーティでは真似する事のできない方法によって俺達は大量のワイバーンを狩っていった。
「順調か?」
一通りワイバーンを倒し終えた俺は一旦地上に戻り、マーネに話しかけるが、その表情は満足いっていない様子。
「微妙なところね」
「いいペースだと思うけど」
「数日はトップを走れるでしょうね。でも、おそらくこのままトップ独走とはいかないわ」
「どうしてだ?」
「私達が人数的に不利なのは変わらないからよ。たぶん、三日目くらいには逆鱗の事も一部のプレイヤーは気づくはずよ。人数の少ない私達がトップにいるのは明らか不自然だもの」
「ですが、私達程倒せるとは思えないのですが」
たしかに、やり方は真似できたとしても俺達と同じようにできるとは思えない。特に、ミナスの弓の腕とアリスの存在は決して他では真似できないだろう。
「もちろん私達程効率よくはできないでしょうね。弱点看破もおそらくは眼と集中を両方レベル10にしなければ覚えられないわ。この二つを上げているようなプレイヤーは弓使いくらいでしょうけど、そもそも弓を使うプレイヤーは限られるわ。ミナス一人で普通のプレイヤー二十人分くらいの働きはできるでしょうね」
「なら──」
「でも、それならプレイヤーを二十人用意すればいい。それは私やロータスにも言えるわ。ミナス程ではなくてもアリス込みなら私も十人分くらいにはなるし、弱点看破と狙いづらい背中側を攻撃できるロータスも十人分以上の働きはできる。だけれど、逆に言えば人数さえ集めれば太刀打ちできるのよ。それに……」
「僕達は時間も限られているしねぇ」
俺達のプレイ時間は休日を除けば学校が終わってからのおよそ六時間といったところだ。それ以上は次の日に支障が出るからと自重している。
「大手クランともなれば常に誰かしらはログインしているでしょうけど、私達にはそれができない」
「学生のつらいところどねぇ」
「まあ、社会人もそう変わらないだろうけど」
「一部の猛者にもなればイベント中まるまる有給を取ったするそうよ」
「僕達にも有給があればいいんだけどねぇ」
「そもそも、給料を貰ってないけどな」
人数、時間と不利な俺達で有利な点といえばあとはユーナの作る誘引薬くらいだが……。
「貴女、あまり品質のよくない物を市場に流していたそうね」
「持っていてもいらないからねぇ。売れば次の素材の費用くらいにはなるしねぇ」
「まあいいわ。とにかく、そうなると誘引香の存在は他のプレイヤーも知っている可能性が高いわ。それに目をつけたなら自分達でも作ろうとと考えるはず」
「そんな簡単に作れるのか?」
「素材自体はそんなに珍しい物ではないよ。レシピも僕は自力で見つけたけど、大図書館に行けばあるかもしれないしねぇ」
「つまり、私達のアドバンテージはほとんどないという事よ。勝ち目があるとするなら序盤で大量に稼いでの逃げ切りしかないわ」
「なら、やる事は一つだねぇ」
そう言ってユーナは以前とは違っていくらか水で薄めて効果を落とした誘引薬を取り出した。
「仮に原液だったらどうなるんだ?」
「前の事を考えれば考えたくないわね。たぶん、キャパオーバーになるわ」
「考えたくない話だな」
空を埋め尽くすワイバーンと地上を埋め尽くすアンデットを想像し、俺は顔をしかめた。
「とにかく、今は数を稼ぐだけ。行くわよ」