飛竜の季節:一日目③
結奈の家からログインした俺達は改めて亡霊湿地へとやってきた。
「じゃあ、頼むわねロータス、ミナス」
「ああ」
「……ん」
頷き、空を飛び回るワイバーンを遠視を使って観察する。
「見つけた。尻尾の付け根だ」
「……あった」
俺の見つけた逆鱗をミナスも確認し、構えた弓を引き絞る。そして、そこから放たれた矢は一直線に空へと駆け上がっていく。
まるでその未来が視えていたかのように矢の軌道上にワイバーンが現れ、的確に逆鱗を撃ち抜く。
「グギャアァァァ!!」
優雅に空を飛んでいたワイバーンは突如苦痛の声をあげ、真っ逆さまに落下する。
「どうやら予想は当たっていたみたいね。とりあえず、このまま倒すわ」
ドンッと目の前に落ちてきたワイバーンに対し、俺達は一気に攻撃を叩き込み、素早く倒す。
「落とすまでの時間が丸々カットできたからだいぶ早くなったな」
「倍以上早くなったんじゃないでしょうか」
「まだ遅いわ」
「遅いって、これでもか?」
「さっき私達が一時間で倒せたのは五体くらいよ。仮に倍倒せたとしても十体。ガーデンとかは私達のクランよりも十倍以上の規模があるのよ。仮に、一パーティが一時間に二体しか倒せないとしても十パーティあれば二十体。到底追いつけないわ」
言われてみればその通り。パーティ単位で考えればミナスのいる俺達に勝てるパーティはいないはずだ。だが、これがクラン単位になると話は別だ。まだ数の差を覆せる程じゃない。
「とりあえず、新たにわかった事は地上に落ちてからの逆鱗への攻撃は意味がないという事ね。まだ他にも色々検証したいところね」
「例えば?」
「空中と地上じゃHPが別というのはわかったけれど、どのタイミングでそのHPが切り替わるのかとかよ」
「なるほど。今までは地上に落ちてから攻撃をしていたが、落下中にもダメージが入るならいくらか時間短縮になるか」
「ええ、そういう事を一つ一つ調べていくわ」
落下中のワイバーンにマーネとミナス、それにルナがが攻撃を叩き込み、地面に落ちてからは俺も攻撃に加わる。
「倒すまでの時間が短くなっているわね。これで、落下中にもダメージが入る事は確認できた。なら、次はこういうのはどうかしら?バブルボム」
魔法を唱えると、人一人が入れそうな巨大なしゃぼん玉が五つ現れる。
「これは一つ一つが爆弾になっているの。動きは遅いのだけれど、その分威力は高めに設定されているわ」
ふわふわと宙を移動し、縦一列にしゃぼん玉が並ぶ。
「ミナス、これに当たるように落とせる?」
「……ん」
コクリと頷き、これまでと同じように矢を放つ。今さら矢が外れる訳もなく、矢は首元にあった逆鱗を撃ち抜く。それによってワイバーンは落下し、狙い通りマーネが縦に重ねたしゃぼん玉に直撃する。
しゃぼん玉が一つ割れる度に激しい爆発が起こり、それが連続して五回。全ての爆発を受けたワイバーンはそれだけで満身創痍に陥り、落下ダメージも合わさって俺達が手を出すまでもなく光の粒子に変わる。
「今のいいんじゃないか?」
「駄目ね」
「なんでだ?」
「連続して使えないというのが一番。それに、しゃぼん玉の動きが遅すぎて時間がかかるわ。これじゃあ数は稼げないわ」
「でも、落下地点に攻撃を置いておくというの自体は悪くないんじゃないか?」
「ええ、それは悪くないわ。広範囲に持続的なダメージを与えるものから数も稼げるだろうし」
「なら、次はその辺りを検証してみるか」
次の実験のためにワイバーンの逆鱗を探すが残っていたワイバーンには逆鱗が見つからない。
「ミナス、あったか?」
「……ない」
「となると、背中側か」
いくら弓の天才であるミナスとはいえ、どこにあるのかわからない物は狙えない。この辺りもどうにかしなければならないポイントか。
「直接見てくればいいんじゃないかい?」
「なるほど、その手があったわね」
ユーナの言葉に全員の視線が俺に集まる。
「む?」
「そういう訳だから行ってきて」
「ああ、いつもの奴か」
俺は納得して頷いた。
「アースアロー」
現れた土の矢が空に向かって一定間隔で設置される。
俺はそれを足場にフロントステップを使い、空へ登っていく。
「よっと」
ワイバーンが飛び回る辺りよりも上まで登った俺は上から逆鱗を探す。
「あった」
タイミングを見計らって空歩を使い、宙を蹴ってワイバーンの背に降り立つ。そして、見つけた逆鱗に陽炎を振るう。
「ついでだ」
落下するワイバーンに片手で掴まり、陽炎を振るっていく。
「そろそろか」
チラリと地面までの距離を確認し、ワイバーンの背を蹴って空中に身を投げ出す。
「ウィンドバースト」
その直後、俺の落下地点で暴風が撒き散らされ、落下の勢いを殺す。
「お帰りなさい」
「ただいま」
その後も検証していくが、なかなかマーネは満足がいかない様子だ。
「これ以上は無理かしらね」
「無理?」
「戦闘時間を縮めるのは限界という事よ。もっと別の部分を見直す必要があると思うの」
「別の部分というと?」
「探索の時間よ。ワイバーンは数頭の群れで行動しているようだけれど、それを倒すとまた探さないといけないでしょう?その時間が意外とかかっているのよ」
「でも、それってどうにかなるのか?」
「一応手はあるわ」
「うん?」
そう言ってマーネはユーナに視線を向けた。