陽炎
《お知らせします。豊かな岩石群のエリアボス『キャッスルタートル』がジークフリート・シグルズ・エドモンド・アロマ・レントによって討伐されました》
「またか」
イベントの発表があってから五日。ユーカが刀を打っている間ホームで待機しているとアナウンスが流れてきた。
「昨日は北。一昨日は東のエリアボスが攻略されてたよな。北なんてこの前第三エリアのエリアボスが倒されたばかりなのに」
「次のイベントに向けてそれぞれ動いているんでしょうね」
「それがエリアボス攻略と何か関係あるのか?」
「今回のイベントは各エリアにワイバーンが追加されるものよ。難易度の低いエリアだとどうしても人が多くて奪い合いになる。だから、先に進む事で奪い合いを避けるつもりなのよ」
「なるほど」
だからここに来て各エリアの攻略が進んだのか。
「俺らはどうするんだ?」
「私達も第四エリアには行くわ。ただ、どこのエリアも問題はあるの」
「問題?」
「単純に戦うなら開けた地形の東か西がいいの。でも、東は難易度が低い分やっぱり人が多くなるでしょうし、ワイバーン以外にも通常のモンスターがいる事を考えると西は難易度が高い」
ああ、そうか。ワイバーンだけを考えていたけど、通常のフィールドにワイバーンが追加される形なんだから普通にモンスターもいるんだよな。
「穴場としては北や南ね。森だったり、足場が悪かったりで空中にいるワイバーンを相手にしづらいから」
実際に戦ってみない事にはわからないが、たしかに空を飛ぶ相手を森の中から相手にするのは大変か。
「第一案としては南ね」
「北じゃない理由は?」
「モンスターの多さね。北は総じて出てくるモンスターが多い規模の大きいクランならそういうのを相手する役割を作れるのでしょうけど、私達は人数が少ないから」
「北に比べれば南は数が少ないか」
「ええ、その分状態異常系の技を持ったモンスターが多いけれど、そこはユーナが頼りね」
「大船に乗った気でいるといいよ」
ユーナは自信満々の様子で胸を張る。
「まあ、どこに行くにしろ貴方の武器ができてからね」
と、そんな話をしたちょうどその時、奥の部屋の扉が開いてユーカが出てきた。
「すみません。時間がかかってしまいましたが、ようやく納得のいく物が完成しました」
俺の前までやって来たユーカはその手に握っていた刀を俺に差し出してきた。
「どうぞ。私の今できる最高の物です」
「ああ」
[陽炎]品質A+
優れた鍛治師が全身全霊をかけて鍛え上げた渾身の刀。ただ一人のために作られた故に他の者では扱いきれない。最適な配分率の魔鉄と銀の合金で作られている。
ATK+150 SPD+35
スキル:アンデッド特攻:小
「魔鉄と銀の最適な配分率を見極めるのに時間がかかってしまいました。ですが、かけた時間に見合うだけの物にはなったと思います」
鞘から刀を抜き放ち、ジッとその刀身を眺める。
「今回もいい刀だ。ありがとうユーカ」
重さや長さ、そして手に馴染む感覚も蓮華の時と変わらず、それなのにその性能は倍近く上がっている。
「そう言ってもらえて安心しました」
そこでユーカは肩の力が抜けたのかその場にペタリと座り込んだ。
「大丈夫か?」
「はい……気が抜けただけです」
そう言うユーカに手を貸して立たせてやる。
「現状その刀は最高レベルの物でしょうね。それと同レベルの物を打てるとしたらヘパイストスのリーダーくらいかしら」
「ヘパイストスのリーダーか。まだあった事ないな」
「鍛治にしか興味がない人だから表には滅多に出てこないのよ。クラン運営はミャーコが担っているし」
「ふふ、ユーカもトッププレイヤーの仲間入りだねぇ」
「人に恵まれた結果です。いい素材がすぐに手に入る環境にありますから」
「何よりもユーカの努力の結果だ。改めてありがとう」
「そ、そんなに褒めないでください……」
ユーカは顔を赤く染め、照れたように顔を俯かせた。
「どうだい?うちの妹は可愛いだろう?」
「そうだな」
「や、やめてください!」
照れるユーカの様子にひとしきり笑い合った後、俺は改めて新たな刀──陽炎に視線を向けた。
「ふふ、早く試したいと言った顔ね」
「わかるか?」
「何年の付き合いだと思っているのよ。準備は整っているわ。南側の第四エリアに向けて行きましょうか」