三つ巴
「これからどうするんだ?」
「特には変わらないわ。とりあえず、貴方の武器を完成させる事を優先ね」
「そういえば、元々そのつもりだったけな。……む?」
全員を屋根の上から下ろし、そんな話をしているとこちらにとある集団がやってきた。
御輿を担ぐ男性プレイヤーばかりの集団。そんな奇特な集団は多数のプレイヤーがいるこのゲームの中では一つしかない。
「ガーデン」
マーネが御輿の上に視線を向けると、そこから一人のプレイヤー飛び降りてきた。
フワフワとしたアイドル風の衣装に身を包み、小柄な体に不釣り合いな豊かな胸を揺らして現れたのはマーネと並び称される魔法使い、ローズ。
「久しぶりだね、お兄さん♪」
「久しぶりか?」
笑顔で話しかけてくるローズ。そんな俺の隣にマーネは並び、割り込むように話に入ってくる。
「わざわざ何か用かしら?」
「えー?お兄さんを見かけたから挨拶に来ただけだよ♪」
「そう。なら、用事は終わったわね。さっさとどこかに行ったら」
「えー!冷たーい!もしかして機嫌でも悪いの?カルシウム取った方がいいよ。特に牛乳とか。飲んだら大きくなるとも言うしね♪」
と、笑顔を浮かべながらマーネの胸へ視線を向ける。
「喧嘩を売りに来たのかしら?」
言外の意味にこめかみをピクピクとさせ、睨むように鋭い視線を向ける。
「怖ーい。お兄さん助けてー」
わざとらしく怯えた表情を浮かべ、豊かな胸を俺の腕に押し付けるようにして抱きつき、背中に隠れる。
「ロータス退きなさい。いえ、やっぱりどかなくていいわ。そのまま捕まえておいて。燃やすから」
「街中はセーフティエリアだから燃えないと思うぞ」
「たぶん、突っ込むところはそこじゃないと思います」
「む?」
とりあえず、このまま放っておいてもいい事にはならなさそうだとローズの抱きつく腕を引き抜き、マーネを宥める。
「あれ?」
「落ち着けマーネ」
「私は冷静よ」
「なら、その魔杖を下ろそうか」
「……わかったわよ」
渋々といった様子で魔杖を下ろしたマーネだったが、その表情は不機嫌そうなままローズを睨む。
「で、結局何の用なのよ」
「うーん、喧嘩を売りに来たっていうのはあながち間違いじゃないかな♪宣戦布告に来たんだから♪」
「宣戦布告?」
「そっ。次のイベント勝負しよ♪本当の一番がどっちか証明するためにね♪」
笑顔のローズだが、その瞳にはマーネに対する対抗心が見える。
「前回のイベントじゃ戦えなかったからね。今度は逃げないでよ♪」
「逃げた覚えはないけれど、いいわ。その勝負──」
「あらあら、面白そうな話をしているわね」
その時、艶やかな声と共に新たな闖入者がやって来た。
女性としては身長が高めのマーネよりもさらに背が高く、手足はすらりと長い。それでいて出ている所は出ていて引っ込む所は引っ込んでいる。
体のラインがはっかりと出るマーメイドドレスに身を包んだ妖艶な雰囲気の女性プレイヤー。
「フレイアね」
「あら、有名な魔女王さんに知っていてもらえるなんて光栄ね」
「誰だ?」
どこかで聞いた事がある気もするんだけど……。
「堅牢なる荒野のエリアボスを初討伐したプレイヤーよ」
「ああ、言われてみれば」
たしかにワールドアナウンスで聞いた名前がそんなだった気がする。
「それにしても……」
フレイアはマーネを上から下まで見回し、口元に手を当てて微笑を浮かべた。
「何かしら?」
「いえ、魔女王と呼ばれているからどんな子なのかと思っていたのだけれど……。うふふ、ずいぶん可愛いらしいと思って」
あからさまに自身の胸を強調してみせるフレイア。
あー、せっかく宥めたのにまた再燃してるな。今日はマーネにとって厄日か?
「ねー、今はローズちゃんが話してるんだから割り込まないほしいな♪」
「あら、ごめんなさい。貴女は……誰だったかしら?」
「あはは、そっちは知ってるのにローズちゃんの事は知らないんだー」
「うふふ、ごめんなさい。あまり他プレイヤーに興味がなくて。本当に有名なプレイヤーしか知らないのよ」
「あはは、そっかー♪」
かろうじて笑顔を保つローズだが、マーネに対する対抗心を的確に突かれたローズは内心かなり荒ぶっているように見える。
「それで、なんの用なのかしら、おば……フレイアさん?」
「おばっ……い、今なんて言おうとしたのかしらー?」
「あら、聞こえてしまった?つい口が滑ってしまったわ」
「うふふ、私まだそんな歳ではないのだけれど」
「ごめんなさい。老け……とても大人っぽく見えたもので」
「ふ、老け……」
ふむ?なんだか空気がピリついてきた気がするな。
「いいから答えてよおばさん♪何しに来たのかをさ」
「イロモノ小娘が、調子に乗るんじゃないわよ」
「イロモ……!」
「醜い争いね。ああはなりたくないわ」
「色気皆無の小娘に言われたくないわ」
「あは、たしかに♪」
「ふふふ、潰す……!」
「できるかな♪」
「相手になるわよ」
それぞれ自身の武器を取り出す三人。街中でこれ以上はまずいか。
「はい、そこまで。それ以上は住人に迷惑がかかるからな」
俺は三人の間に割り込み、待ったをかける。
「ローズは宣戦布告に来たんだよな」
「……うん」
「フレイアは?」
「……似たようなものよ。同性で同じ魔法使い系の職業として私も負けられないと思って」
「マーネ?」
「ナンバーワンという呼び名に興味はないけれど、負けるつもりはないわ」
マーネはこれで結構負けず嫌いだからな。まあ、ゲーマーともなればみんなそうなのかもしれないが。
「いいよ、二人まとめて倒してあげる♪」
「小娘には負けないわ」
「話は纏まったな。なら、詳しい事は三人で話し合ってくれ」
対抗心はあるが、三人共落ち着きを取り戻したのを確認して俺はマーネの後ろに下がった。
「イベントで勝負とは言ってもどうするのかしら?個人成績だとテイマーの私が有利よ」
「パーティ成績が無難かな?それなら平等だし」
「クラン成績でいいわ」
「本気で言っているのかしら?それ、貴女が一番不利なのよ」
「薄明ってここにいる五人で全員でしょ?」
「だから、いいんでしょ。力の差を見せてあげる」
「言うじゃない」
「負けて泣いても知らないよ♪」
「その時を楽しみにしているわ」
「あはは」
「うふふ」
「ふふふ」
三人で笑い合う姿を後ろから見て俺は一つ頷いた。
「仲良くなったようでよかったな」
「正気ですか?」
「む?」