イベント発表
それから一週間は豊かな岩石群とホームとを往復する日々を過ごしていた。それでも、なかなかユーカの満足行くものはできないらしく、今日もまた鉱石採取のためにホームを出た。
「む?何か騒がしいな」
「広場の方かしら?」
「行ってみるかい?」
「そうね」
頷いて歩き出したマーネに続き、俺達は広場に向かった。
「人が多いですね」
「……あう」
人混みが苦手なミナスは俺の服の裾を掴んで顔を埋めてくる。
仮面でそれをやると余計に目立つ気がするが、まあいいか。
「見えないわね」
「肩車でもするか?」
「する訳ないでしょ」
「冗談だ」
どうにか見えないかと周囲を見回す。
「ふむ。できるか」
「なんの話?」
「ちょっと失礼」
「え?きゃっ」
ヒョイッとマーネを抱え、建物の壁を蹴って屋根の上に登る。
「ここなら見えるか」
「あ、貴方ねぇ」
「他に方法が思いつかなかったんだよ」
「だからって人前でいきなりはないでしょ。まったく……」
そう言ってマーネは呆れたようにため息を吐いた。
「こうなったら仕方ないわ。他も連れてきて」
「ああ、わかった」
一度地上に飛び降り、何度か地上と屋根を往復して全員を屋根の上に運ぶ。
「私も目立つのはあまり得意ではないんですけど……」
「上から見ていた限りだと、みんな中心に意識を向けていて最後方にいた私達は案外目立っていなかったから大丈夫よ」
「だといいんですけど……」
それ程目立っていなかったというのは本当だが、いくつか視線が向けられていた事は黙っていた方がいいか。
「こうして見ると見知ったプレイヤーが結構いるねぇ」
「そうね」
この街を拠点にするミャーコ達や情報屋のラピス。他にも闘技大会に出場していたプレイヤーの姿もある。
中でも目立つのは集団の一画を占める男性プレイヤー達とそのプレイヤー達が担いだ神輿に乗るローズの姿。
「結局これってなんの集まりなんだ?」
「見ていればわかるわ」
掲示板から情報を集めていたマーネはそう言って広場の中心を見るように促した。
「ふむ?」
「おや、誰か来たみたいだねぇ」
と、その時、広場の中心に白銀の鎧を身に纏った二十歳くらいの金髪の美女が護衛らしき騎士を引き連れて現れた。
金髪の美女は周囲にいるプレイヤーを見回し、口を開いた。
『集まってくれた冒険者達よ!今年もあの季節がやってきてしまった!そう!飛竜達が繁殖のために大量に集まってくる季節がだ!放っておけば大きな被害が出る事だろう!我々も被害を抑えるべく戦う!だが、どうしても我々だけでは手が足りない!故に冒険者諸君にも手を貸してほしい!どうか我が国のために力を貸してくれ!』
〈運営からのメッセージが届きました〉
「む?」
「今の話に関係する事だと思うわ」
「なるほど」
俺は納得して頷き、届いたメッセージを開く。
『第二回公式イベントのお知らせ
イベント名〜飛竜の季節〜
リアル時間一週間後から一週間の間、各地のフィールドにワイバーンが出現するようになります。このワイバーンを討伐または撃退する事により、ポイントが加算されます。また、ポイントによる個人、パーティ、クラン毎のランキングが公開され、ランキング上位者には特別な賞品が贈られます。それとは別に獲得したポイントに応じて個人毎に景品と交換する事も可能です。生産者の皆さんは貢献度に応じてポイントが加算されます。賞品、景品の詳細については別途お知らせします』
「やっぱりイベントだったのね」
「知ってたのか?」
「冒険者ギルドでそれらしい話があったらしいの。時期的にイベント関連じゃないかってそれを聞いた人が掲示板に書いて人が集まって、さらにその人だかりを見てさらに人が集まったというのがあの騒ぎの正体みたい」
「なるほど」
しばらくざわついていたプレイヤー達だったが、金髪の美女が去っていくと徐々にプレイヤー達もそれぞれ散っていった。
「私達も行きましょうか。一週間後までにやっておきたい事もあるし」
「まあ、当面はまた鉱石採取だろうけどな」
「とりあえず、屋根から降りるわよ」
「という事はまたあれですか……」
「お、降りるだけなら自力で降りられない事もないけれど……」
「街中はセーフティエリアだから飛び降りてもダメージは受けないから飛び降りるという選択肢もありだねぇ」
「そ、それはその……だ、ダメージを受けないと言っても飛び降りるのは少し怖いので……」
「そ、そうね」
「理由は本当に怖いからかねぇ?」
ユーナはいつも通りのニヤニヤとした笑みをマーネとユーカへ向ける。
「そ、そうよ」
「あ、当たり前です!」
「僕はロータス君にお姫様抱っこしてもらいたいからそっちを選ぶけどねぇ。そういう訳だからよろしく頼むよ」
「ん?ああ」
言われるままユーナを抱きかかえ、屋根から飛び降りる。
「ふふ、もうしばらくこうしていたいねぇ」
「ロータス!早く戻ってきなさい!そんなの放っておいていいから!」
「そうです!早く戻ってきてください!」
「だそうだ」
「嫉妬してる二人は可愛いねぇ。やっぱりもう少しこうしていたいよ」
「嫉妬?」
何に嫉妬してるのかはわからないが、マーネを放っておいてもいい事はないだろう。俺はユーナを下ろしてもう一度屋根の上に上がった。