鉱石採取
「ルナの進化もできたし、本来の目的を果たしに行きましょうか」
「目的というと鉱石採取か」
「ええ、そうよ」
「また鉱山があるのか?」
「いえ、この先にあるフィールド『豊かな岩石群』はフィールドに点在する岩山が採掘ポイントになっているわ」
という事は採掘中もモンスターを警戒しておかないといけないか。
「それでなのだけれど、ちょうどパーティから外れている事だし、そのまま外れたままにしていてくれるかしら。あと、ミナスもロータスの方のパーティに入ってくれる」
「……ん」
「護衛役という事か?」
「そういう事よ」
前に鉱石採取をした時にわかったが、採取スキルのない俺だとあまりいい鉱石が取れないうえ、量も少ない。それはミナスも同じだ。
だからこそ、マーネ、ユーナ、ユーカの三人と俺とミナス、それにルナでパーティを分けて役割を分担しようという訳だ。
まあ、マーネも採取スキルは持っていないのだが、そこは持ち前の強運で補える。大図書館の時もそうだったけど、スキルなしでスキルがあるのと変わらない事ができるのだから運営泣かせだな。
「わかっているのはそれくらいね。貴方達なら大丈夫だと思うけれど、どんなモンスターが出るとかはわからないから一応気をつけて」
それから街を出た俺達は豊かな岩石群へと移動した。そこは西側の特徴でもある殺風景で物悲しい景色が広がっている。
「この岩山ならどこからでも鉱石が取れるのか?」
「いえ、採取スキルがあると採掘できる場所がわかってそこでだけ取れるわ。だから、私はどこにあるか教えてもらう必要があるわ」
「ざっと岩山を見て回ったけど、この岩山には採掘ポイントが三つあるねぇ。近くの岩山が二つだったから一つの岩山につき、二、三ヶ所といったところかな?」
取れる場所が限られているというなら全員で採掘していたら余る人が出ていただろうし、俺達では効率も悪い。俺達が護衛に回されたのは正しい選択と言えるだろう。
「じゃあ、そっちは任せたわよ」
「ああ、任された」
ロックウルフLv25
種族:魔獣
体に岩を纏った狼、ロックウルフ。それが六頭の群れで持って俺達を取り囲み、威嚇している。
「役割はいつも通りでいくか」
「……ん」
(挑発!)
前に出た俺がアーツを発動し、ヘイトを集める。そうして俺がモンスターを引きつけ、後衛からミナスが狙う。加えて空中からルナも魔法を放つ。
マーネがいない分火力は落ちるが問題はないだろう。
次々と飛びかかってくるロックウルフを躱し、蓮華を振るう。
「硬いな」
だが、その身に纏う岩は伊達ではなく、その体を捉えた蓮華からは硬い感触が返ってくる。
とはいえ、その分体が重いのか動きは狼型のモンスターにしては速くない。
そして、そんな相手は弓の天才であるミナスからすればいい的でしかなく、次々と岩に覆われていない部分を撃ち抜いていく。
さらに、空中にいるルナも進化した自分の力を試すように次々と魔法放ち、ロックウルフにダメージを与えていく。
「む?」
その時、残っていたロックウルフの一頭が身を屈め、背中を俺に向けるような体勢を取る。
「っ!」
本能が告げる警告に従い、咄嗟に跳びのいた直後、ロックウルフの纏う岩が一斉に放たれ、散弾のように押し寄せる。
直前で回避行動を取っていたおかげでなんとか躱す事はできたが、流石は第三エリアのモンスター。こんな隠し球があったとは。
今の有効範囲から空中にいるルナも決して安全ではないとルナに警告し、岩がなくなって防御の薄くなったロックウルフに素早く肉薄して斬り裂く。
その間に他のロックウルフも岩を飛ばそうと構えていたが、それをさせまいと飛来した矢がその身を捉え、先にHPを削り切る。
「少し危なかったわね」
声に振り返ると、そこにはマーネ、ユーナ、ユーカの三人が立っていた。
「まあ、貴方なら大丈夫でしょうけれど」
「油断はできないさ。それより、鉱石採取はもういいのか?」
「ここで取れるのは取り尽くしたわ。また移動しないと」
「どんなのが取れたんだ?」
「多いのは銅に鉄ね。後は少ないけれど銀に魔鉄よ」
銅や鉄は前にも取れていたが、銀と魔鉄というのはなかった気がするな。
「銀はアンデッド系に強い装備が作れるわ。代わりに鉄製に比べると重くて扱いにくいわね」
「魔鉄は?」
「鉄の上位互換鉱石ね。性能的には普通の鉄よりもずっと優れているわ。年月をかけて鉄が魔力を帯びたという設定みたい。今回の目的はこれよ」
「ですが、量があまり取れないので集めるのは時間がかかりそうです。失敗や満足いく物ができない時のためにたくさんほしいので」
「基本は俺のための武器になる訳だし、俺としては是非お願いしたいくらいだけど……」
だからといってこればかりに時間をかけていいのかと他のメンバーの顔を見回す。
「元よりそのつもりよ。慌ててやる事も今はないしね」
「僕は飽きそうだけどねぇ」
「今度貴女が満足行くまで素材採取に付き合ってあげるわ」
「そういう事なら頑張るのもやぶさかではないねぇ」
いつものニヤニヤとした笑みをさらに深めるユーナ。
そんなユーナの様子にマーネはわずかに後悔した表情を浮かべていた。