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囚われし者

「明るいな」

 降りた先は壁にかけられた灯りによって淡く照らされた部屋だった。

「ロータス、あれ」

「あれは……」

 そこにいたのは太い荊によって拘束された幼い少女。金髪に黒いゴシックロリータ風の服。真っ白な肌と作り物めいた肌はまるで最高級のビスクドールのよう。

 荊に拘束され、ピクリとも動かない様子は死んでいるのか、本当に人形なのかと思わされる。



 闇精霊

 状態:衰弱



「闇精霊……」

 精霊といって思い出すのは闘技大会の時にローズが召喚した火精霊。あの少女はあれと同種の存在なのか?

「生きているんですよね?」

「状態が衰弱となっているのだから生きてはいるのでしょうね。でも……」

 少女の頭上にはHPを表すバーがあるがすでに半分以下まで削られ、わずかながら今も減り続けている。

「この荊はどうなっているんだろうねぇ」

「っ!ロータス!」

 無造作に近づいていくユーナ。その手が少女に触れようとしたその瞬間、地面から荊が突き出してくる。

「おおっ」

「無闇に近づくな」

 それがユーナを貫く寸前、マーネの言葉で駆け出していた俺はギリギリでユーナの襟を掴んで引き寄せる。

 さらに次々と突き出してくる荊をユーナを肩に担いで躱しながら後退し、距離を取る。



 カーストーンLv38

 種族:魔法植物



 部屋の中に次々と現れた荊。そして、最後に少女の後ろに巨大な蕾のような物が現れ、ゆっくりと開く。

「不気味ですね」

 四つに分かれて開いたその葉の内側にはびっしりと棘が生え、中心には口のようなものがある。

「簡単に助けられはしなさそうね。ロータス」

「ああ」

 戦闘は避けられない。なら、俺はいつも通りの仕事をするだけ。

 ユーナを下ろし、俺は一人前に出る。


(挑発!)


 挑発を発動してヘイトを集めると次々に荊が俺に向かってくる。それを躱し、斬り裂きながら捌いていく。

「HPが減っていない?」

 だが、いくら荊を斬ろうとカーストーンのHPはまるで減らない。

「どうやら荊はいくら攻撃しても無駄みたいね」

「そうみたいだな」

「ロータスはそのまま荊を引きつけて。本体への攻撃はこっちでする」

「ああ、任せた」

 前とは違い、今の俺達の戦闘要員は俺とマーネだけではない。天才弓使いがいるのだ。俺は安心して防御に専念すればいい。攻撃は頼れる仲間達がしてくれる。

 ミナスは弓に番えた矢を引き絞り、迷いなく放つ。

 放たれた矢は寸分違わずカーストーンの口に突き刺さり、わずかに遅れてマーネの放った火槍も直撃する。

「ギイィィィィ!!」

「っ!」

 動物の口から出る叫びとは違う、黒板を爪で引っ掻いたような耳障りな音が響き渡り、カーストーンは苦しげに身を震わせる。

「効いているわね。このまま──」

 不快そうにわずかに眉を顰めながらも続けて矢を放とうしていたミナスの手が止まる。

「あんな見た目なのに知能があるっていうの?」

 なんとカーストーンは少女を持ち上げ、盾にするように掲げたのだ。

「精霊に物理攻撃は効かないわ。でも……」

 闘技大会でそれは実感している。だが、マーネの懸念はわかる。今は明らかに普通の状態ではない。

 物理的なはずの荊で縛られているのだ。もしかしたらこっちの攻撃が当たるかもしれない。そんな事があればただでさえ少ないHPがどうなるかわからない。

「……大丈夫」

 それでも、うちの天才弓使いは臆さない。続けざまに二本の矢を放つ。普通ならカーストーンからは外れた軌道。だが、わずかに一本目の速度を落として放った事で二本の矢が途中でぶつかり合い、軌道を変えて口に突き刺さる。

「ふっ、心強いな」

「ええ、本当に」

 これで役割分担ははっきりした。俺が攻撃を引きつけ、ミナスが攻撃。マーネが様子を見て両方ののサポートだ。

 マーネなら少女を避けて攻撃もできるかもしれないが、今は確実に当てられるミナスがいる。無理をする状況でもない。

 とはいえ、このまま最後まで行けるかといえば経験上そうはいかない。

「む」

 順調にダメージを重ね、HPを半分以下まで削った時、カーストーンの開いていた葉が閉じる。

「マーネ!」

「っ!ウィンドウォール!」

 俺の声にマーネは準備途中だった魔法をやめ、新たに風の壁を作り出す。

 その直後、カーストーンの葉が勢いよく開き、そこから部屋中を埋め尽くす棘が放たれた。

「よくわかったわね」

「直前の動作が何かを溜めているようだったからな」

 ギリギリでマーネの出した風の壁によって難を逃れた俺は安堵の息を吐いた。

「全体攻撃。厄介ね」

 この場所自体が決して広い空間ではない。マーネの魔法なしに防ぐのは困難だ。

「私も攻撃に回るわ。あまり時間をかけるのはよくなさそうだから」

「ああ、わかった」

 マーネが攻撃に回った事でダメージ量が上がり、今までよりも早くHPが減っていき、三割を切る。

 ボスモンスターであればここで強化状態になるが、カーストーンがどうなるかはわからない。だが、このまま何もないという事はないだろう。

「回復してる?」

「自己再生ね。そういう能力を持つモンスターは結構いるわ」

「それはどうだろうねぇ?」

「どういう意味?」

「見てごらん」

 ユーナの指差す方を見ると、少女が苦しげに顔を歪めている。

『たす……けて……』

 耳に届いた今にも消え入りそうな微かな声。それが誰のものかなど考えるまでもない。

 そして、今までも減り続けていたHPが今までよりも早く減り、それと反比例するようにカーストーンのHPが回復していく。

「まさか、HPを吸っているの?」

「その可能性は高そうだねぇ」

「マーネ!」

「わかっているわ。ミナス、一気に行くわよ!」

「……ん!」

 伸びてきた荊を躱さずにその身で受ける。

 激しい衝撃に俺の体は弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。

「っ……」

 それだけで俺のHPは大きく減り、二割以下まで削れた。

 ここまででおおよその威力は予想できたが思ったよりも減ったな。マーネみたく完璧にはいかないか。

「まあいい。残ってさえいれば」

 HPが三割以下になった事で逆境が発動できた。これによってステータスを強化。さらに、狂化スキル。加えてアーツ修羅道を発動する。

 逆境と狂化で強化したステータスに減っているHPの割合分だけステータスを上乗せする修羅道によって俺のステータスは通常時の倍以上に跳ね上がる。

 近づかせまいと大量に押し寄せる荊を強化されたステータス任せに斬り裂き、距離を詰めていく。

 だが、次から次へと絶え間なく押し寄せる荊は一向に途切れる事なく、俺の行く手を阻む。

「避けなさい!ストームサイス!」

 俺が横に避けた直後、そのすぐ横を巨大な風の刃が駆け抜け、大量の荊を切り開く。

 そうしてできた道を一気に駆け抜け、カーストーンへ肉薄する。

 しかし、見上げたカーストーンは葉を閉じ、今にも棘を放とうとしていた。

 平面全てを埋め尽くす棘の雨。ならば、避ける方向は一つしかない。

 地面を踏み抜く程の勢いで地を蹴り、跳躍。そこから空歩を使ってもう一段跳び上がる。

 平面を埋め尽くすなら宙へと逃げればいい。

 だが、その考えを嘲笑うかのようにカーストーンは発射直前だったそれを地上から空中にいる俺へと向けた。

 そして、放たれる視界全てを埋め尽くす棘。もはや空歩を使ってしまった俺では逃げ場もない。

「と、思ったか?」

 飛来した一本の矢がピンポイントで俺の足の裏を通過し、俺はそれを足場にフロントステップを発動する。

 それによって俺は棘をギリギリで回避した。

 棘を躱すだけならもっとギリギリで跳べばよかった。あえてカーストーンが狙いを変える時間を与えたかといえばマーネ達が攻撃できるようにするためだ。

 あのまま地上に向かって放たれれば俺はともかく、マーネ達は防御に専念しなければならなくなる。だからこそ俺が跳躍する事で狙いを空中に向けさせ、外させたのだ。

 俺はそのままカーストーンの頭上で蓮華を上段に振りかぶる。

「終わりだ」

「ギイィィィィ!!」

 このまま終わってなるものかとカーストーンは俺に向けて荊を伸ばしてくる。

「コンセントレーション」

 俺はそれに構う事なく次の一撃を強化するアーツを発動する。このままいけば俺はあの荊に貫かれてしまうだろう。だが、そうはならない。

「……スパイラルシュート」

 螺旋を描く三本の矢が迫る荊を撃ち抜き、最後の道を作る。

「天地斬り!」

 振り下ろされた漆黒の斬撃がカーストーンを両断。しかし、いくら強化されているとはいえ、三割以上残っていたHPを一撃で削り切れるだけの威力はない。

「ギイィィィィィィィィ!!!!」

「あとは任せた」

「任されたわ」

 怒り任せに俺を飲み込もうと迫ってくるカーストーンの口の前にマーネが割り込み、その口に魔杖を向ける。

「インフェルノバースト」

 放たれた煉獄の炎がカーストーンを体内から燃え上がらせる。

「ギイィィィィ、イィィィィィィィィ!!!」

 断末魔の叫びを最後にカーストーンのHPが消え去り、やがてその体は炭のように黒く染まってボロボロと崩れ去っていった。

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