二度目のダンジョン
『YOU WIN』
「お、覚えてやがれぇ!」
「なんだったんだ?」
決闘が終わると同時に逃げ去っていく男達に俺は首を傾げた。
「五対一で完勝かよ」
「あれ、狂剣だろ?」
「ヤバすぎだろ……」
そこに離れていたマーネ達が戻ってくる。
「ここのダンジョンは二パーティ専用だから組むパーティを探していたんでしょうね。ここにいる他のパーティも」
「それを建前にしたただのナンパでしたけど」
「……嫌な……感じ……した」
「下心が丸見えだったからねぇ」
「単純な下心だけでもなかったように俺は感じたけど」
あくまで予想だが、ダンジョン攻略や下心以外にも目的があったように思う。それが何かまではわからないが。
「なんでもいいわ。無駄な時間を使ったし行きましょう」
「……そうだな」
頭を振って思考を断ち切り、俺達はダンジョンに向けて足を進めた。
「そういえば、他にもプレイヤーがいるけど、どうなるんだ?ここって二パーティ専用だろ?」
「ダンジョンはパーティ毎で個別の場所に送られるみたいだから問題ないわ」
「む?」
「入り口は同じでも中は違うという事よ。特に難しく考える必要はないわ」
そんな話をしながら俺達は試練の洞窟・絆に足を踏み入れた。
「入ってすぐはたしか……」
「大量のモンスターが出てきたわね」
その直後、通路の奥から大量のモンスターが押し寄せてきた。
「一度攻略しているダンジョンよ。さっさと突破するわ」
「順調だな」
前回は浮雲のヴェント達がいたが、今回はいない。その分戦力ダウンしているが、代わりにミナスがいる。特に苦戦する事もなく順調に進んでいた。
「たしかこの次でパーティをバラバラに分けられるんだったよな」
「そうね。分かれ方として一番まずいのは私、ロータス、ミナスの三人とユーナ、ユーカとルナに分かれた時ね」
「それはたしかにまずいな」
非戦闘員である二人をルナ一人で守れというのは流石に酷だ。
「まあ、そうなる可能性は低いでしょうけど」
「マーネの強運があれば上手く分かれそうだよな」
「そういう意味じゃないわ。ルナは貴方のテイムモンスターなんだから分かれる可能性は低いという話よ」
「ああ、なるほど」
「それ以外ならどの組み合わせでも問題ないでしょう」
そうして階段を降り、扉だけがある広い空間に出ると、以前にも感じた浮遊感に襲われ、すぐに地面の感触が戻ってくる。
「へぶっ」
二度目となれば特にバランスを崩す事もなく着地できた。のだが、すぐ横から覚えのある声が聞こえてくる。
そちらを見てみればまた顔面から地面に突っ伏しているユーナの姿があった。
「これは、少し時間がかかりそうだな……」
「ホー」
肩にとまったルナを撫で、短く息を吐いた。
「遅かったわね」
「まあ、色々あってな」
再び合流したマーネに俺は安堵の息を吐いた。
「苦労したみたいね」
「戦闘以外のところでな」
「お察しするわ」
こうして合流できたからそれも終わりだが。心苦しいが、あとはユーカに任せよう。
「ボスに挑むにあたってなのだけれど、一体私に任せてもらえるかしら」
ここのボスは二体一対のボス、ツインナイトだ。前回は俺達とヴェント達でそれぞれ一体を受け持って倒したんだが。
「貴方もスキルレベルが10になったと言っていたでしょ。スキルレベルが10になると派生スキルか上位スキルが覚えられるようになるの。それで、私も新しく魔法スキルを取ったから試してみたいの」
「なるほど。そういえば、俺も刀術っていうスキルを取得できるようになっていたな」
「損はないから取っておくといいわ。どうせSPも余ってるでしょ?」
「そうだな」
俺は頷いてメニューを操作し、新しく刀術のスキルを取得した。
「じゃあ、行きましょうか。ミナスは状況を見てフォローしてちょうだい」
「……ん」
先を進むマーネに続き、俺達はダンジョンマスターのいる部屋へと足を踏み入れた。
◇◆◇◆◇◆
私が新しく覚えたのは火属性魔法上位スキルの炎属性魔法と風属性魔法上位スキルの嵐属性魔法。
新しく使えるようになった魔法は各一つの二つ。それを試すためにツインナイトのうちの一体を白騎士をロータスに任せ、私は黒騎士と向き合っていた。
魔法使いの私では近接戦闘タイプのツインナイトとは相性が悪い。それでも、ツインナイトの動きは一度見て覚えている。
振り下ろされた両手剣を躱し、その胴に魔杖を押し付ける。
「インフェルノスフィア」
業ッと燃え盛る炎が黒騎士を包み込み、閉じ込める。
それはまるで突如現れた小さな太陽のよう。
なんとか抜け出そうともがく黒騎士だけれど、炎の牢獄は決して逃さずダメージを与え続ける。
それが収まると、たった一つの魔法で二割近くHPが減っていた。
「流石に上位スキルね。同レベルのボスモンスター相手には破格のダメージ量ね。その分MP消費も多いようだけれど」
チラリとMPを確認すると半分以上減っている。
私はマナポーションを一気に飲み干してMPを回復させ、炎の牢獄から抜け出した黒騎士に次の魔法を放つ。
「ターンブラスト」
迫ってくる黒騎士の足元から上に向かう暴風が黒騎士を空中高くに吹き飛ばし、そこから逆に下向きの暴風が地面へと叩き落とす。
激しい音を立てて地面に叩きつけられる黒騎士。ダメージ量はインフェルノスフィアに劣るけれど、単体専用のインフェルノスフィアと違ってターンブラストは上手くやれば同時に複数を巻き込む事ができる。
どちらも強力な魔法ね。その分MP消費が激しいのは変わらないけれど。




