一対五
「ミナスはまだ王都に行ってなかったんだな」
「……こっち……人多い……から」
「ああ、なるほど」
ミナスが南側を主戦場にしていたのも人が少ないからだしな。
今もまた仮面をつけて顔を隠しているし。
「それで、このまま向かうのか?」
「そのつもりよ」
「以前よりも人数が少ないですけど、大丈夫でしょうか?」
「ミナスもいるし問題ないわ」
これから向かうダンジョン、試練の洞窟・絆は二パーティでなければ入れない。だが、人数の指定はないから最悪二人でも入れる。
まあ、フルパーティ二つを想定した設定になっているようだから苦戦は免れないだろうが。
そのため、今の俺はルナと一緒にパーティから外れている。そのせいだろうか?
「なあ、ダンジョンに潜るんだろ?俺達と組もうぜ」
王都を超えて試練の洞窟・絆の前までやってくると、そこには何組かのパーティが他のパーティに声をかけていた。
そのうちの一組、二十代半ばくらいの男の五人組が声をかけてきた。
「結構よ。パーティならそろっているわ」
そのまま素通りしようとするが、男達はしつこく食い下がってくる。
「いやいや、そう言わずにさ」
「俺達、これでも結構強いんだぜ」
「強い、ね……。ロータス」
「仕方ないな」
決闘システムには一対一だけでなく、パーティ対パーティという設定がある。
俺はそれを利用して男達に決闘を申し込む。
「貴方達が勝てたならパーティを組んでもいいわ」
「へぇ、面白いじゃん」
「いいぜ、やってやるよ」
「可愛い女の子達を傷つけたくないんだけど、しかたないなー」
男達はそう言いながら決闘を受ける。
「何か勘違いしているようね」
「勘違い?」
「相手するのは俺一人だ」
パーティ戦だが申請したのは俺。パーティから外れているマーネ達は決闘に参加できない。一応ルナは参加できるが、ミナスに抱えられて行ってしまった。
まあ、問題ないか。
「舐めやがって!」
「女の子の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ!」
「ぶっ潰してやる!」
男達の顔に苛立ちが浮かび、睨みつけてくる。
ぶつけられる感情を受け流し、俺は構えるでもなく開始を待ってボーッと立つ。
脱力。
そして、カウントが0になった瞬間、一瞬で加速する。
開始直後に脱力した状態から瞬く間に肉薄。
「速っ」
意識の隙間を突いた不意打ちによって相手が反応するよりも早く先頭の剣士の首へ一閃。さらに、返す刃でもう一度。
「回復だ!」
突然のダメージに剣士は怯んで動けず、周りの男達も遅ればせながら動き出すが、遅い。
それよりも早く、袈裟斬りによって肩から腰までを斬り裂き、残っていたHPを削り切る。
「まず一人」
「よくも!」
振り下ろされた両手斧を躱し、立ち塞がる盾持ちを掻い潜って後衛へ向かう。
「この!ファイアボール!」
魔法使いから放たれた火球を斬り裂く。
「なっ!」
そのまま距離を詰め、心臓を一突き。からの逆袈裟斬り。
魔法使いは当然ながら剣士よりも耐久力もHPも低い。それだけでHPはなくなり、地面に倒れ伏す。
「二人目」
「オラァ!」
背後から突き出された盾を突き出された分だけ前に出て躱し、その盾に体を隠しながら盾持ちの背後に回り込み、鎧の隙間を連続で斬りつける。
タンク役だけあってやはり硬い。前者二人に比べてHPの減りは少ない。しかも、ヒーラーが回復しようとしている。
やはり、先にヒーラーを潰した方がいいか。
「死ねぇ!パワースイング!」
両手斧が薙ぎ払われ、盾持ちも振り返りざまに剣を振るってくる。
(水流の剣)
蓮華が纏う水のエフェクトが両手斧と剣を纏めて飲み込み、その過程で握る武器を弾き飛ばす。
「ギャッ!」
聞こえてきたのは離れた場所にいるヒーラーの声。
狙い通りその肩には弾き飛ばした剣が突き刺さっている。
これで回復は妨害できた。
俺は武器を失った二人を無視し、ヒーラーへと肉薄する。
「来るんじゃねぇ!ホーリーレイ!」
放たれた光線を躱し、肉薄して胴を薙ぐ。
そして、トドメ。
「これで三人」
「この!ぶっ潰してやる!」
叫び声に振り返ると両手斧を拾った男が見覚えのある黒いオーラを纏っていた。
「狂化か?という事は職業は狂戦士か」
狂化ー狂戦士専用の強化スキルだが、正気を失い、敵味方問わず暴れ回る事があるというデメリットがある。
そして、どうやら今回それが起こったらしい。
「ウォォォォ!!」
「ガハッ!」
力任せに振るわれた両手斧が本来仲間であるはずの盾持ちに叩きつけられ、俺の攻撃でHPが減っていた事もあってそのまま倒れてしまう。
「ふむ……まあ、結果的に残り一人か」
叫び声をあげながら真っすぐに肉薄してくる狂戦士。黒いオーラを纏い、デタラメに両手斧を振るう姿はまさに狂戦士と呼ぶに相応しい。
それが脅威かと言えば別問題だが。
大振りの一撃を見極め、両手斧に蓮華をそわせて受け流す。それによって体勢が崩れたところに一閃。
それだけでHPは大きく削られる。
それにも怯まず両手斧を振るおうとするが、遅い。
返す刃が首を捉え、残っていたHPを削り切った。




