帰還
地下神殿攻略から一夜明け、俺達は始まりの街のホームに戻ってきた。
離れていたのは数日だというのに久しぶりな気がするな。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ホームに入ると、留守番をしていたユーカが奥の工房から顔を出して出迎えてくれた。
「いない間何もなかったか?」
「はい。こちらは特に何もありませんでした。そちらは違うようですが」
そう言うユーカの視線は俺の背中に隠れるようにしているミナスに向けられた。
「たしかミナスさんでしたよね?闘技大会に出ていた」
「む?」
ユーカの言葉に首を傾げ、俺はユーナに視線を向けた。
「言っていたなかったのか?」
「そういえば、忘れていたねぇ」
と、変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべるユーナ。
ああ、これは……。
「わざとだな」
「わざとね」
「わざとですね」
まあ、いいか。改めて紹介もしなければならないと思っていたし。
「ミナスはリアルでの私の従妹なの。色々あってうちのクランに入る事になったわ」
「ユーカとは同い年だから仲良くしてやってくれ」
「わかりました。ですが、何故仮面をしているのでしょうか?」
仮面をつけたまま俺の背中に隠れるミナスに苦笑を漏らした。
帰ってくる道中は仮面をつけていなかったミナスだが、始まりの街に入る直前につけてしまったのだ。
「ちょっと恥ずかしがり屋なんだよ」
「はあ」
「でも、ホームの中では仮面禁止な」
「……あ」
手を伸ばし、ヒョイッとミナスから仮面を外した。
「ミナス、こっちはユーカ。ユーナの妹だ。これから同じクランでやっていくんだから仲良くな」
「……あう」
横に避けてミナスを前に押し出してやると、ミナスはあたふたと視線を彷徨わせた後、おずおずとユーカの顔を見上げた。
「えっと、ユーカです。よろしくお願いします」
「……よ……よろしく」
頭を下げたユーカにミナスもコクリと頷いた。
「あの、ミナスさん」
「……なに?」
「抱き締めていいですか?」
「……え?」
「いえ、抱き締めます」
言うが早いかユーカはミナスを抱き締めた。
「……あう」
「なんですか、この可愛い生き物は」
「私の自慢の従妹よ」
「話には聞いていましたが、こんなに可愛いのならマーネさんが溺愛するのも納得です」
「ええ、そうでしょうとも」
うんうんと満足そうに頷くマーネ。可愛い従妹が褒められて嬉しそうだ。
「……ローくん」
目で必死に助けを求めてくるミナスに苦笑を漏らし、助け舟を出した。
「ユーカ、それくらいにしてやってくれ」
「あ、すいません。つい我を忘れてしまいました」
ようやく解放されたミナスは逃げるように俺の背中に隠れた。
「……ローくん」
「どうした?」
呼ばれて振り返るとミナスは胸を押さえて悲しげな表情を浮かべ、ユーナとユーカ、それからマーネを順に見回した。
「……これが……遺伝の……力」
「あー……」
同い年ではあるがユーカはユーナの妹だけあってそこそこ大きい。それに対してマーネは……。
「何かしら?何か不快な視線を感じた気がするのだけれど」
「さあ?気のせいじゃないか?」
チラリとマーネに視線を向けると、すぐに鋭い視線が返ってきた。
「……もう……大きく……ならない?」
「それを俺に聞かれても困るんだが……。ま、まあ、まだ可能性はあるんじゃないか?」
「……でも……マーネ……お姉ちゃん……は」
「あくまで従姉妹だからさ。おばさんは……おばさんはー……」
「……ママ……小さい」
「…………」
そもそも、この話を俺にするのが間違いだと思うんだけどな。




