統括者:VSガーディアン・マスター②
◇◆◇◆◇◆
倒れる柱の下敷きになり、ガーディアン・マスターのHPがついに三割を切る。
「このまま行ければ楽なんだがな」
まあ、そうは行かないだろう。
瓦礫を押しのけ、ガーディアン・マスターが起き上がる。
だが、今までならすぐに動き出すのにその場に立ち尽くしたままなかなか動かない。
明確な隙ではあるが、通常攻撃はほとんど効かず、あの位置ではもう当てられる柱もシャンデリアもない。およそ十分間のチャージが必要な光線も使ったばかりで今は撃てない。
現状、見ている事しかできない。
「何が来るか」
その時、ガーディアン・マスターの纏っていた装甲が外れ、ガシャンッと音を立てて次々と落ちていく。
普通のボスモンスターはHPが三割を切ると強化状態に入る。だが、ガーディアン・マスターは今までよりも一回り小さくスリムな姿になった。
硬い装甲もなくなり、一見すればむしろ弱体化したようにも見えるが……。
「チッ」
ガーディアン・マスターの赤い目が動き、ある場所で止まる。その視線の先を理解した瞬間、俺は即座にその場から駆け出す。
それに遅れてガーディアン・マスターが緩慢な動作で動き出す。
だが、気づいた時には瞬く間に距離を詰め、マーネの前で右の巨剣を振り上げていた。
(流水の剣!)
寸前で間に割って入った俺は流水の剣を発動する。流れる水のエフェクトを纏った蓮華が巨剣を飲み込み、受け流した。
しかし、それで終わりではなく、続けざまに左の巨剣を薙いでくる。
「アースウォール」
その巨剣を地面から盛り上がった土の壁が下から押し上げ、強制的に軌道を変えた。
その隙を突くべく踏み込もうとするが、それよりも早くガーディアン・マスターは後退。さらに右の巨剣を振って斬撃を飛ばしてくる。
俺は素早く身を翻し、マーネを抱えて離脱。
「装甲が外れた事で格段にスピードが上がっているな」
「その分耐久力は下がっているでしょうけど、攻撃力はそのままね」
「攻撃力の高さはわかってた事だ。それよりも、あの速さ厄介だぞ」
一回り小さくなったとはいえ、それでも変わらず巨体。にも関わらず、そのスピードは俺達よりも速い。
「あのスピードで動き回られては追いつかない。しかも……」
次々と遠距離から放たれる斬撃をマーネを抱えたまま躱していく。
「距離を取られたまま遠距離攻撃を続けられると俺には打つ手なしだな。できるのはこうやってお前を抱えて逃げ回るくらいだな」
「役に立たないわね」
「降ろすぞ」
「そんな事をされると避けきれなくて死んでしまうわね。貴方はそれを許容できるのかしら?」
悪戯っぽく微笑を浮かべるマーネに俺は視線をそらした。
「ちょっ!イチャついてないでなんとかしてほしいッス!こっちにも流れ弾が来たッスよ!」
「別にイチャついてはないと思うが?」
イチャついているかどうかは置いておくとして、この状況をなんとかしなければならないというのは変わらない。
だが、俺にできる事は限られている。なら、マーネなら……。
「無理ね。動きが速いだけならなんとかなるけれど、あの斬撃が邪魔ね。あれのせいで下手に魔法を撃っても当たらないでしょうね」
打つ手なし。
少し前の俺達だったなら。
「……わたしが……引きつける」
逃げ回る俺達に近づいてきたミナスの言葉に俺達は迷いなく頷いた。
「ああ、頼む」
「お願いね」
「……ん」
コクリと頷き、ミナスは弓を構えながら離れていく。
そして、放たれた矢が乱れ飛ぶ斬撃を掻い潜り、高速で動き回るガーディアン・マスターの目を捉えた。
柱を当てた時に比べればそのHPの減りは微々たるもの。だが、それでも今までに比べればそのダメージは遥かに大きい。装甲が外れた事で通常攻撃も問題なく通るようになったようだ。
その一撃によってガーディアン・マスターの狙いがミナスに移り、ミナスに向けて次々と斬撃を放っていく。
遠距離からの撃ち合い。威力も手数もガーディアン・マスターの方が上ではあるが、正確性という一点においてミナスは遥かに上回っている。
斬撃を躱しながら放たれる矢がガーディアン・マスターの体を次々穿ち、ダメージを与えていく。
ガーディアン・マスターもただやられるだけではない。躱すような動作を見せるのだが、ミナスはそれすらも読んで……いや、視えている。
決して外す事なく的確に矢を当てていった。
このまま遠距離の撃ち合いが続けばミナスは完封してみせるだろう。
だが、相手はボスモンスター。そう簡単に倒されてはくれない。
遠距離攻撃は不利と悟ったガーディアン・マスターは一直線にミナスへと向かっていく。
その間にもミナスの矢はその身を捉えるが、まるでお構いなしに距離を詰め、近距離で巨剣を振り下ろす。
接近戦ならミナスを倒せると考えたならそれは甘い考えだ。
振り下ろされた巨剣をミナスは跳んで躱し、ガーディアン・マスターの腕に着地するとそのまま駆け上がる。
ダダダンッとその間も連続で頭部に矢を当て、肩を蹴って背後に跳躍。クルリと空中で回転しながら上下逆さまな体勢からさらに矢を当てていき、猫のようなしなやかさで危なげなく着地する。
何度も矢を受けていながら、それでもガーディアン・マスターは怯まない。着地際を狙いすましたように振り返りながら両手の巨剣を薙ぐ。
「やらせはしない」
(流水の剣!)
割って入った俺は体を回転させながら流水の剣を発動させる。
右の巨剣を受け流し、さらに迫ってくる左の巨剣を体を回転させた勢いを利用して連続して飲み込み上へとそらす。
「ウィンドバースト」
それによって体が流され、体勢を崩したガーディアン・マスターの肩にマーネの魔法が炸裂する。
体勢を崩したところに直撃した暴風によってその巨体が浮き上がる。
「そのまま倒れろ!」
(ヘビースラッシュ!)
その体に飛び乗り、頭にアーツを叩き込む。
激しい音を立ててガーディアン・マスターは背中から地面に叩きつけられる。
「ラピス!」
「準備できてるッスよ!」
魔法陣からの光線は威力があるがその軌道はあくまで直線的。チャージは終わっていたようだが、あれだけ高速で動き回られると狙いがつかない。
だが、こうして動きを止められれば当てられる。
俺が離れた瞬間に光線が放たれ、立ち上がりかけていたガーディアン・マスターに直撃した。
装甲がある状態でもそれなりのダメージを与えられた光線だ。装甲が外れた今の状態で直撃すれば……。
ガーディアン・マスターのHPは一気に減っていき、一割を大きく切ったところで止まる。
「残り少し。このまま──」
攻め切ろうとした瞬間、立ち上がったガーディアン・マスターが黒いオーラを纏う。
警戒する俺の横でミナスが矢を放つが、当たる直前に振り抜かれた巨剣によって弾かれる。
「ここに来てさらに強化か」
「……危険」
「そうだな」
もっとHPを減らしてから光線で一気に倒し切るのが正解だったかもしれない。
それ程までに今のガーディアン・マスターからは危険な気配がする。
「来る!」
瞬く間に距離を詰めてくるガーディアン・マスターに対し、水流の剣で迎え撃とうと構える。
だが、巨剣の間合いに入る寸前、最高速から急激に止まり、間合いの外から斬撃を放ってくる。
発動する直前だった水流の剣を中断し、即座にその場から横に跳びのく。
すぐ横を通り過ぎていった斬撃に肝を冷やしながらも前へ。
しかし、ガーディアン・マスターは距離を詰めさせまいとするように後ろに下がりながら斬撃を放ってくる。
「む」
今までにはなかった動き。
ギリギリで躱したすぐ横を背後から放たれた矢がガーディアン・マスターに向かっていくが、今まで当たっていたそれは振るわれた巨剣によって弾かれる。
ミナスの矢も防がれるとなると攻撃を当てるのはかなりの困難。
「ロータス!中心に誘導して!」
聞こえてきたマーネの声に一瞬振り返り、その視線から察して頷いた。
「ミナス」
「……ん」
ミナスと一瞬視線を交わし、頷き合って動き出す。
次々放たれる斬撃を掻い潜り、ミナスと連携してガーディアン・マスターを誘導していく。
そして、ガーディアン・マスターを中心に誘導させた瞬間。
「流石だねぇ」
しばらく姿の見えなかったユーナの声が聞こえたと思った直後、床から光の鎖が飛び出し、ガーディアン・マスターに巻きついてその動きを縛る。
「今よ!」
その拘束から逃れようと暴れる度に鎖は軋み、ヒビが入っていく。長時間の拘束はできないだろう。だがらこそ、ここで決める。
「狂化!天地斬り!」
「……スパイラルシュート」
「ボルケーノ」
漆黒な斬撃が両断し、螺旋を描く三本の矢が穿ち、地面から噴き出した燃え盛る火炎が飲み込む。
そして、ガーディアン・マスターのHPは完全に消え去った。




