北の森
「また荒野に行くのか?」
再びログインしてマーネと合流し、これからの予定について尋ねた。
「いえ、今日は北の森に行ってみましょうか」
「む?今日は荒野じゃないのか?」
「同じ場所ばかりだと飽きるでしょ?」
「まあ…そうか?」
俺自身は同じ事の繰り返しを苦に思わないが、マーネには何か考えがあるのだろう。
「じゃあ、まずは冒険者ギルドで依頼を受けてきましょうか。ランクを上げるためにも数をこなさないとね」
そう言ってマーネは冒険者ギルドに向けて歩き出した。
「こっちは結構プレイヤーがいるんだな」
北の森に着くと、荒野では全く見かけなかったプレイヤーがあちこちで戦いを繰り広げていた。
「荒野と比べればそうでしょうね。難易度的にもそうだけど、ここは荒野と違ってモンスターが色々な素材を落とすの。だから、ここでレベルを上げながら素材を集めて装備を作るっていうのが常道ね」
そういえば、昨日に比べて装備が変わっているプレイヤーが増えたと思ったが、そういう事だったのか。
「で、ここにはどんなモンスターが出てくるんだ?とりあえず、狼みたいなのがいるのはわかるけど」
とあるパーティが狼のようなモンスターと戦っているのを眺めながらマーネに尋ねた。
「色々よ。荒野と違ってここはモンスターの種類が多いから。受けた依頼にも複数のモンスターの名前があったでしょ?」
俺達が受けた依頼は『フォレストウルフの牙五個納品』『フォレストボアの毛皮三枚納品』『ビッグホーネットの針十本納品』の三つだ。
とりあえず、狼と猪と蜂がいるのはわかるな。
「ここは荒野と違って見晴らしも悪いから奇襲に気をつけるのよ。入り口付近は基本的に一匹でしか襲ってこないから気をつけていれば問題ないわ」
「ああ、わかった」
「じゃあ、もっと奥に行きましょうか。この辺りは人が多いから」
「さっきの口振りだと奥に行くと同時に複数のモンスターが襲ってくるんじゃないのか?」
「ええ、そうよ。効率的でしょ?」
「まあ、問題ないか」
複数出てきたところでゴブリンのように連携してくる訳でもないし、スケルトンのように延々と湧き出てくる訳でもない。
奇襲にさえ気をつけていればなんとかなるだろう。
「あ、それと、もし薬草を見つけたら採取してくれる?」
「薬草?」
「こういう草よ」
そう言ってマーネはアイテムボックスからギザギザの葉っぱをした草を取り出した。
「わかった。見つけたら採取するようにするよ」
「お願いね」
「面倒だな」
森の奥地に向かって見つけた薬草を採取しながら移動していると、何度もモンスターの奇襲にあった。
とはいえ、敵はほとんどが一匹。たまに二匹で出てくる事もあるが、初手さえ防げば問題はない。
それでも、常に先手を取られるというのはなかなか面倒だ。
「なら、新しくスキルを取ったらいいんじゃないかしら。SPは貯まっているのでしょう?」
「まあ、使ってないから6ポイントあるけど」
「なら、そのポイントで『気配察知』のスキルを取るのをオオスメするわ」
「気配察知か……」
悪くない。常に後手に回らなくて済むというのは戦闘が今以上に楽になるだろう。あって困るスキルでもないだろうし。
メニューを開き、スキルの項目から『気配察知』を探す。
「これか」
取得に必要なSPは5。問題なく取得する事ができる。
マーネのオススメという事は有益なのだろうし、俺自身も必要だと思っている。
ならば、迷う必要はないか。
〈気配察知Lv1を取得しました〉
インフォが流れ、俺のステータスには新しく気配察知Lv1が追加されていた。
「これでいいのか?」
「レベルの低いうちはあまり広い範囲探る事はできないけど、レベルが上がればかなりの範囲がわかるようになるわよ」
「なるほど。む……」
早速気配察知が反応し、俺は咄嗟にマーネの前に出て背に隠して剣を抜いた。
「三匹か……」
フォレストウルフLv3
種族:魔獣
草むらから飛び出してきたのはここまで何度も戦ったフォレストウルフ。数はここまでで一番多い三匹だが、問題はない。
草むらから飛び出してきた勢いそのままに飛びかかってきたフォレストウルフの首を切り上げて押し戻す。
ここまでの経験からこのアーツ抜きの通常攻撃では一撃で倒せないのはわかっている。これが二匹なら一匹をマーネに任せて追撃に行くのだが、今は後回しだ。
左右に分かれ、挟み込むように向かってくるフォレストのうち一匹に狙いを定め、突きを放つ。
(スラスト!)
アーツによって放たれる鋭い突き。やはり、この自分の体が勝手に動く感覚は慣れないが、使える物はなんでも使うべきだ。
放たれた突きはフォレストウルフの目を寸分違わず貫き、アーツによって威力の上がった一撃はフォレストウルフのHPを削り切った。
もう一匹はとマーネの方を見れば、水球を直撃したフォレストウルフがちょうど光の粒子に変わっていくところだった。
魔法使いの弱点は発動までに詠唱が必要な分、攻撃が出遅れてしまう事だ。
本来なら奇襲を仕掛けてくる相手は苦手なはずだが、マーネは俺が接近に気づいた時点でその様子から敵が来るのを察して魔法の準備をしていた。
そうなってしまえばこの程度の相手はマーネの敵じゃない。魔法使いの攻撃は俺の攻撃よりもずっと強力なのだからフォレストウルフくらいは一撃で倒せる。
余談だが、マーネの使った水球は昨日新しく取得した水魔法だ。マーネはこれともう一つ、土魔法も取得していて今日はこの二つをメインに使っている。
「さて、残りは一匹」
残った一匹もすでにHPは残りわずか。こちらから距離を詰め、追加の一撃でもってトドメを刺した。
「結構奥に来たから出てくるモンスターの数も増えたみたいね」
「みたいだな」
それにしても、気配察知はかなり使えるな。たしかに範囲はまだ広くない。さっきの感覚からしておよそ半径10メートルといったところか。
なければ苦戦とは言わずとも、もう少し倒すのに手間取っただろう。
「過信は禁物よ。『気配隠蔽』のスキルがあるとレベルの低い気配察知じゃわからない可能性があるから」
「気をつけるよ。っと、次が来たみたいだ」
気配察知と耳に届いた地響きで把握したモンスターに備え、剣を構えなおす。
「ブォォォォォ!!」
フォレストボアLv4
種族:魔獣
現れたのは大型の猪。フォレストボアだ。
フォレストボアは地響きを立てながら一直線に俺へと向かってくる。
俺に向かってきてくれるのなら好都合。わざわざ挑発でヘイトを集める必要もない。
フォレストボアの突進を横にずれて避け、躱しざまに剣を薙ぐ。
しかし、フォレストウルフに比べて耐久の高いフォレストボアには然程大きなダメージは与えられない。
だが、それは初めからわかっていた事。ここまでの道中でフォレストボアも何度も倒してきたのだ。
突進の外れたフォレストボアは反転し、再びこちらに向かってくる。
だが、その足にマーネの放った土球が直撃し、バランスを崩す。
勢いよく走っていたフォレストボアはそれによって一回転して転び、動きを止めた。
そこに俺は駆け寄りながらスラッシュを叩き込み、硬直が解けると同時に一歩横へ移動する。
その直後、俺の横を通り抜けた水球がフォレストボアに直撃し、HPを削り切った。
〈レベル5になりました〉
〈歩法術Lv2になりました〉
〈SPが2ポイント加算されます〉
「レベルアップか。案外早いか?」
「昨日の持ち越しがあったんでしょうね」
スケルトンをあれだけ倒したのにレベルは1しか上がらなかったからな。そのあまりがあったという事か。
「それにしても、フォレストボアはやっぱり耐久があるな」
「この森では頑丈なほうだもの。一番頑丈なのは熊だけれどね」
「まだあった事ないよな?」
ここまで遭遇したのはさっき戦った狼と猪は。それと、蜂だけだ。熊はまだ姿すら見ていない。
「もう少し奥に行かないと出現しないモンスターなのよ。ただ、通常モンスターならこの森で一番強いわよ」
「へぇ」
「さ、もう少し奥に行きましょうか」
「ああ」
「何か面白い物があるといいのだけれどね」




