神殿攻略⑤
マーネに言われるまま動かしていくと、十五分程でパズルは完成し、空いている部分にミナスの見つけたタイルをはめた。
その途端、魔法陣が輝き出し、光が収まると魔法陣の中心に宝箱が現れていた。
「これで三つ目。あと一つか」
「本当にあっという間にできたッスね……」
そう言うラピスの顔には驚きを通り越して呆れが浮かんでいた。
「次の階はどうなってると思う?」
「行ってみればわかるわ」
「それもそうだな」
宝箱が現れたと同時に壁の一部がせり上がって現れていた階段を昇り、俺達は八階へ足を踏み入れた。
「八階はまた通路か。六階みたいにまた探せばいいのか?」
「そう単純ではないと思うけれど」
その時、俺達の前を何かが勢いよく駆け抜けていった。
「今のって……」
「……サル?」
「まあ、たしかにサル型だったな。それより、あのサル石板の欠片を持ってなかったか?」
「……持ってた」
「だよな」
つまり、この階は逃げ回るあのサルから石板の欠片を手に入れるという事か。
「どうする?追うか?」
「追いかけたとして追いつける?」
「無理だな。スピードを強化したとしても追いつけない」
「ならいいわ。無駄に体力を消費するだけだから」
まあ、そうだろうな。自分より速い相手を単純に追い回したところで捕まえられるとは思わない。
「なら、どうするんスか?」
「まずはこの階の構造を把握する事からね。ユーナ」
「何かな?」
「あれをミナスに貸してあげてほしいのだけれど」
「構わないよ」
「じゃあ、作戦を話すわね」
◇◆◇◆◇◆
『T字路についた。右側は見える範囲は真っすぐ。左側は二十メートルくらい先でまたT字路になってる』
「とりあえず、右に行ってくれる」
『了解』
『……行き止まり。……十字路……まで……戻る』
「今とは逆方向に行ってみて」
『……わかった』
今この場にいるのはユーナとラピスの二人だけ。ロータスとミナスはある目的のために別の場所にいる。
「そのアイテム便利ッスね」
「そうね」
私は自分の指にはめられている絆のリングに視線を落とした。
これのおかげで逐次ロータスとミナスと連絡が取れ、この階の把握ができる。
元々ミナスは持っていなかったけれど、その分はユーナのを貸している。
この階は普通にモンスターも出るから戦闘力のないユーナに任せる訳にも行かないし。単純にユーナから目を離すのが心配というのもあるけれど。
『あいつがいた。どうする?』
「放っておいていいわ」
『了解』
二人からの通信でだいたいこの階の構造は把握できたし、目撃地点から移動ルートも大まかに予想できる。
「そろそろ捕まえに動きましょうか」
「ようやくかい?マーネがその気になればもっと簡単に捕まえられただろうに」
「そうかもしれないわね」
適当な所にロータスを待機させて私達が追い回せば運よくロータスの所に追い込めるかもしれない。
「でも、それじゃあつまらないでしょ」
これはゲームなのだから結果だけじゃなく過程も楽しまないと。
「それで、どうやって捕まえるんスか?」
「あのサルは特定のルートを回っているわ」
「なら、先回りもできるって事ッスか?」
「そう簡単ではないわ。ルートはいくつもあるの。その中で状況に応じてルートを選んでいるのよ」
「状況っていうのは?」
「ルート上にいるプレイヤーの数ね」
一番最初に見て以来私達三人は一度も見かけていない。個別に行動しているロータスやミナスは何度も見かけているのに私達だけ一度見かけないというのは偶然にしてはおかしい。
なら、そこには理由がある。
見かけない理由は単純。向こうが私達を避けているから。
そうなると、ロータスやミナスは避けずに私達だけを避ける理由として一番ありそうなのは人数の多さ。
もし、五人固まって動いていたら一度も見つけられなかったかもしれないわね。
「あの速さを確実に捕まえるにはロータスかミナスじゃないと難しいわ。だから、ルートを限定してロータスを待ち伏せさせる。加えて、もし引き返しても大丈夫なようにミナスと連携して挟み撃ちにするわ」
私はこれまでに集まった情報から頭の中に地図を描きあげ、最後に目撃した場所からルートを予測する。
「ロータス、二つ前の十字路を左に。その後三つ目のT字路を右。その次を左。突き当たりのT字路まで行ったら右を向いて待機」
『そこに来るって思っていいんだな?』
「ええ。今から八分四十六秒後にそこに追い込むわ」
『了解』
「ミナスは一つ前のT字路を右に曲がって。その後四つ目の十字路を左。そこから二つ目を右。今のペースを変えずに向かってちょうだい」
『……わかった』
「最後の通路を進んでいる時に突き当たりを左から右にあのサルが通ると思うからロータスと挟み撃ちにして」
『……任せて』
これで後は私達が動く事で移動ルートを限定させるだけ。
「行くわよ。時間は限られているわ」
「はいはい」
「了解ッス。あ、でも一ついいッスか?」
「何かしら?」
「ロータスさんとミナスさんが同じ場所に行く事でルートを変更したりはしないんスか?」
ラピスの指摘は正しい。おそらく、ルート上に二人以上いるとあのサルはルートを変える。でも、今回はその心配はいらない。
「問題ないわ。ミナスはまだルートに入っていないから。ルートに入るのはロータスと挟み撃ちにする時よ」
「もしかして、さっきの変な指示って時間調整ッスか?」
「ええ、そうよ」
私がミナスにペースを変えずに行けと言ったのはミナスをルートに入れないため。早過ぎればルートを変更されてしまうから。
「さあ、話は終わり。五分十三秒以内に特定の場所まで行かないといけないんだから急ぐわよ」
◇◆◇◆◇◆
俺は指示させられた場所に辿り着き、メニューで時間を確認すると、マーネの言った時間まであと四十秒ばかり。
言われた方向を向いて待つ事二十秒。曲がり角からこちらに向かってくるサルが現れた。
ガーディアン・ランナーLv30
種族:魔法兵器
いつも一瞬見かけるくらいだったせいでよく視れなかったが、ここでようやくその名前を知る事ができた。
そのガーディアン・ランナーの到達時間はおよそ二十秒。
マーネの予測通りの時間だ。
高速で駆けるガーディアン・ランナーは俺が立ち塞がっているのも構わず真っすぐ向かってくる。
そして、最後のT字路を通り過ぎた時、曲がり角からミナスが現れる。
全てはマーネの予測通り。あとは俺達がこいつを捕まえるだけだ。
向かってくるガーディアン・ランナーを捕まえるべく俺は手を伸ばす。
だが、それを躱そうと素早い動きで横に跳び、壁を蹴って天井まで跳び上がる。
この通路の天井は高い。俺が手を伸ばしたところでまるで届かないくらいに。つまり、そんな高さまで跳ばれると捕まえらないという事だ。
俺一人なら。
『……水平に……して……!』
絆のリングを通して聞こえてきた声に俺は咄嗟に蓮華を抜いて水平に構える。
その瞬間、蓮華に矢が当たり、それによって軌道の変わった矢がガーディアン・ランナーの目の前に突き刺さった。
このガーディアン・ランナー、実は攻撃が全て弾かれてしまうのだ。一度ミナスが矢を放ったらしいのだが、当たる直前で弾かれたらしい。
だからこそミナスは直接狙うのではなく動きを制限するために矢を放ったのだ。
天井をさらに蹴ろうとしていたガーディアン・ランナーだったが、目の前に突き立った矢に一瞬動きが止まる。
だが、それはガーディアン・ランナーのスピードを持ってすれば大した問題ではない。
それが地上であったなら。
天井を蹴ろうとしたその瞬間に動きを止めてしまったガーディアン・ランナーにはもはやなす術はない。
ゆっくりと真下にいた俺の腕の中に落ちてきた。




