神殿攻略④
「これは、どういう事だ?」
五階もまたこれまでとは違う場所だった。
四階も含めて今まではまず通路があったのだが、ここはいきなりかなりの広さがある部屋があり、向かい側の壁に上へ行く階段がある。
モンスターの姿はまるでなく、唯一部屋の中心にポツンと宝箱が置いてある。
「どうもこうもないと思うけれど、問題はあの宝箱を開けるかどうかね」
「いや……開けないだろ」
「……罠」
「スキルがなくてもあれが罠だっていうのはわかるッス」
「そうよね……」
俺の勘はあれが間違いなく罠だと告げているが、どういう訳かマーネだけはあの宝箱が気になっている。
理性の部分ではあけるべきではないと感じているのだろうが、おそらく本能的な部分で開けるべきではないかと感じているのだろう。
それならば、マーネの強運にかけてみるのもありかとは思うのだが……。
「あれ?ユーナさんはどこ行ったんスか?」
そこでラピスが自分の後ろを歩いていたはずのユーナがいなくなっている事に気づいた。
「まさか……」
宝箱の方を見てみると、案の定ユーナが宝箱に手をかけ、なんの迷いもなく開けた。
その瞬間、けたたましい警報が鳴り響き出した。
直後、ドンッと降りてきた壁によって昇ってきた階段と上へ行く階段が塞がれる。
当然これで終わるはずもなく、壁の一部が開くとそこからこの神殿で現れたモンスターが次々と出てくる。
「おや?なんだか大変な事になったねぇ」
「なに、やってるのよ!」
宝箱を気にしていたマーネも流石になんの断りもなく開けるとは予想していなかった。
少し考えればユーナがこの状況で開けない訳もないというのに。
「とにかく、貴女はそこから動くんじゃないわよ!」
俺達はユーナの元まで駆け、ユーナを中心にして四人で背中合わせにそれぞれの武器を構える。
「ラピス、自分の身くらいは自分で守れるでしょ」
「それくらいはなんとかするッス」
「僕は自分の身も自分で守らないからよろしく頼むよ」
「なんでこの状況を作った相手をわざわざ守らないといけないのかしらね……」
それを考え出すとやる気が削がれるから考えないのがベストだな。
「まずはこの状況を切り抜けるわよ。ユーナへの説教はその後」
「ああ、了解」
「行くわよ」
「ようやく片付いたか」
数こそ多かったが全ては既知のモンスター。一度戦っていたおかげで大きな苦戦もなく殲滅する事ができた。
「ラピスは結構強いんだな」
「いやいや、お三方に比べたら自分なんて大した事ないッスよ」
そう謙遜するラピスだが、ラピスの立ち回りはかなりのものだった。戦闘は専門じゃないと言っているがそこらのプレイヤーよりは遥かに上だろう。
「で、ユーナは何をやっているのかしら?」
俺達が戦っている間、宝箱に腰掛けて優雅に観戦していたユーナに視線を向けると、何故か宝箱に頭を突っ込んでいた。
「宝箱の中に何か入っていてねぇ」
そう言って顔を上げたユーナの手には何かが握られている。
「なんだそれ?」
「なんだろうねぇ?」
[石板の欠片]品質ー
割れた石板の欠片。集める事で何かが……。
「ここで使うアイテムでしょうね」
「もしかしたら、これがないと先へ進めなくなるかもしれないッスね」
という事は、結果的にユーナの選択は正解だったという事か?だからマーネはあの宝箱を気にしていたのかもしれないな。
「ふふ、僕に感謝してもいいんだよ」
「……休憩したら先に進みましょうか」
六階は一言で言うなら迷路だった。これまでにも分かれ道はあったがこの階はそれが格段に多く、より複雑になっている。
「この階にも石板の欠片はあると思うか?」
「あるんじゃないかしら。あの石板の欠片の形を見る限り、数は四つ。五階、六階、七階、八階のそれぞれにあると思うわ」
「全部で十階って言ってなかったか?」
「十階は地上部分よ」
「ああ、なるほど」
まあ、その地上も地下である事には変わらないんだけど。
「九階はボスだと思うか?」
「間違いなくそうでしょうね」
なら、石板の欠片はそこに入るのに使いそうだな。
「あの、少しいいッスか?」
「何かしら?」
「マッピングとかはしなくていいんスか?してる様子なさそうッスけど」
「問題ないわ」
「マーネが全部覚えているから」
「マジッスか」
代わり映えのない景色が続いているせいで俺は覚えられる気がしないが、マーネは頭のできが違う。マーネの頭の中には正確な地図が描かれている事だろう。
「それにしても、この迷路の中から探すというのは大変だな」
普通に探そうとするといったいどれだけ時間がかかる事か。まあ、こっちにはマーネがいるからそんな時間がかからないだろうが。
「あそこに宝箱があるわね。ロータス」
「はいはい」
しばらく歩いていると、突き当たりで五階で見たのと同じ宝箱があった。
マーネに言われて俺は宝箱に近づき、開く。
ヒュッ
「あったな。石板の欠片だ」
「今、矢が飛び出してきたのを平然と躱したッスね」
「ロータスならあれくらい当然よ。そのためにロータスに行かせたんだから」
「僕の時になくてよかったよ」
石板の欠片を手に取り、マーネ達の元に戻った。
「石板の欠片はあっさり見つかったッスけど、今度は階段を探さないと行けないんスね」
「問題ないわ。この迷路の構造はおおよそ把握したから。階段の位置とその道筋は予想がつくわ」
「そんな事できるんスか?」
「ええ。あとは多少の運次第ね」
「本当にあったッスね……」
「だから言ったでしょ。さ、次の階に行きましょう」
階段を昇ると、そこは五階と同じような部屋が一つだけの場所だった。
違いがあるとするなら、五階よりもさらに何もないという事だ。この部屋には階段も宝箱も何もなかった。
「おっとっと」
怪訝に思いながら部屋を進んでいくと、ユーナが突然何かに躓いたようにバランスを崩した。
「今度はどうしたんだ?」
「一部だけへこんでいてねぇ」
ユーナの肩に腕を回して支えながら足元を見ると、たしかにそこだけが正方形にへこんでいる。
「ふぅん、なるほどね」
ユーナの襟を掴んで引き離しながらマーネは納得したように頷いた。
「何かわかったのか?」
「床を見て何か気にならない?」
「ふむ?」
言われて改めて床を見回してみると、床が二つに分かれている事に気づく。
この部屋の広さはおよそ十五メートル四方の正方形。その内側十メートル四方だけが一辺一メートルのタイルのようになっている。そして、ユーナが躓いた部分はそのタイルの一部だ。
「何か描いてあるな」
そのタイルだが、何かの絵らしきものが描いてある。だが、繋がりがなくバラバラな印象を受ける。
「天井を見てみて」
「何か魔法陣みたいなものが描いてあるな」
「床に描いてあるのも同じ絵でしょうね」
「同じ?」
「バラバラだと思ったのでしょう。それは正解よ。実際これはバラバラになっているの」
マーネがへこんでいる部分の横のタイルに手をかけると、それが横にスライドした。
「パズルか」
「ええ、そうね。たぶん、ここにはまるタイルもどこかにあると思うんわよ」
「……あった」
そこにミナスがちょうどはまりそうなタイルを両手で抱えて持ってきた。
「これ、揃えるって大変じゃないッスか?タイルの大きさが一辺一メートルという事は10×10で100個のピースがあるって事ッスよね?」
「正解の絵がわかっているのなら問題ないわ。ロータス」
「ああ、言われた通りに動かせばいいんだろ?」
「ええ、お願い」
これに関しては運なんて必要ない。すでにマーネの頭の中では完成までの手順が見えている事だろう。
俺はただそれに従うだけでいい。
「じゃあ、まずは──」




