神殿攻略①
回転扉を潜るとそこは通路になっていた。
俺達五人が手を広げられる程幅は広く、高さも五メートルくらいある。問題なく剣を振れるだけの広さがあるが、逆にいえば戦闘を想定した広さだという事だ。
左右の壁には灯りが灯され、通路を照らしている。マーネの魔法なしでも問題なく進めそうだ。
「ここはなんなんだろうな?」
「どういう意味ッスか?」
「俺達は侵入者な訳だろ。なら、普通はこんな通路のある場所じゃなくて牢屋とかに直接落ちるようにすればいいんじゃないかと思って」
「そんな事言われても……。これはゲームッスから」
「それはそうなんだけど……」
なんとなく気になるんだよな。
「普通はあの高さから落ちたら死ぬだろうけどねぇ」
「なら、ここは侵入者が死んだか確認するために通る通路っていうのはどうッスか?」
「例え落ちて死ななくても放っておけば餓死すると思うけどねぇ」
「マーネはどう思う?」
「私はむしろ、この通路は落ちた人のためのものだと思うわ」
俺と問いにマーネは自身の考えを話す。
「そもそも、この遺跡自体はなんのために作られたか覚えている?」
「悪魔から逃れるためだろ」
「そう。でも、もしかしたらこの場所にも悪魔が攻めてくるかもしれない。それと戦うための術を考えていなかったとは思えないわ」
「ふむ、たしかに」
「ここはもしかしたらそんな悪魔と戦う者を育てるための試練または訓練場のような場所なのかもしれないと思ったの」
あの落とし穴を生き延び、上まで戻れて始めて悪魔と戦う資格を持つという事か。
「随分過激な試練だな」
「そうじゃなければ悪魔とは戦えないという事じゃないかしら」
「でも、そうなると上まで戻るのは一筋縄ではいかなさそうッスね」
「そうね」
ここが本当に悪魔と戦うための戦士を育てる場所ならいくつもの試練が待ち受けているだろう。
「進むに当たって私達には一つ問題があるわ」
「戦闘か?」
「戦闘はあるでしょうね。でも、それはいつもの事でしょう?問題は別にあるわ」
「トラップッスか?」
「その通りよ」
なるほど、たしかにそうかもしれない。
「困った事に私達にはトラップを発見、解除できるスキルを持った人がいないのよ。シーフ系の職業の人が二人もいるというのに」
「自分情報屋ッスから。その手のスキルは上げてないんスよ」
「……ごめん……なさい」
「ミナスは悪くないわ。私の言い方が悪かったわね。ごめんなさい」
申し訳なさそうなミナスにマーネは慌てて謝った。
「でも、どうするんだ?」
「方法はあるわ。ロータス」
「なんだ?」
「とりあえず、先頭を進んでちょうだい」
「それは構わないけど……」
そもそも、このパーティに前衛は俺しかいない。言われずとも先頭を行くつもりだった。
「合理的だねぇ」
「なるほど、そういう事ッスか」
「……頑張って」
「じゃあ、行きましょうか」
俺以外は理解している様子に首を傾げながらも、マーネに促されて先頭を歩き出した。
のだが……。
「なんでそんなに離れているんだ?」
後ろを見るとマーネ達が俺から距離を取ってついてきている。
「気にしないで」
「いや、気にするなと言われても」
と、その時、足が床を踏み込んだ感触を感じ、その直後に壁から一本の矢が飛んできた。
「む」
俺は咄嗟に反応し、それを右手で掴み取る。
「……まさか」
そこで俺はマーネ達が距離を取っている理由を察し、後ろを振り返る。
「俺に先を進ませて罠を解除していくつもりか?」
「漢解除と呼ばれる方法ね。普通はVITの高いプレイヤーがトラップに耐えながら進んだりするのだけれど、貴方なら回避できるでしょ」
「いや、だが」
「それとも、貴方は私達みたいなか弱い乙女にそんな危険な真似をさせるのかしら?」
か弱いというところには疑問を抱かざるを得ないが、そう言われてしまうと弱い。 俺以外女子のこのパーティで他に任せる訳にもいかないか。
「わかったよ」
「お願いね」
結局俺が先頭を進む事は変わらず、そのまま歩みを再開させた。
「壁から矢が出てくるとか王道のトラップッスよね。他にはどんなのがあるッスかね?」
「そうね……槍が出てくるとかかしら」
床から突き出してきた槍を身を捻って躱す。
「僕は炎が吹き出すというのを見た事があるよ」
壁から吹き出した炎を身を屈めて躱す。
「自分は壁がせり出して挟まれるっていうのを見た事があるッス」
勢いせり出した壁を後ろに下がって躱す。
「ミナスは何かある?」
「……落とし穴?」
カパッと足元の床がなくなり、一瞬の浮遊感と共に俺は穴に落下した。
「あ、落ちたわ」
「落ちたねぇ」
「落ちたッスね」
「……落ちた」
「落ちてない」
ガシッと落とし穴の縁に手をかけ、穴から這い上がる。
「あら、落ちてなかったの」
「流石だねぇ」
「自分はそうじゃないかと思ってたッスよ」
「……信じてた」
「後ろでするトラップ談義はやめてくれ。まったく……」
仕切り直しとばかりにため息を吐き、歩みを再開させた。
マーネ達のトラップ談義は終わったが、だからといってトラップがなくなる訳がない。その後も俺はいくつものトラップに襲われながらなんとか先へと進んだ。
「む?」
ふと聞こえてきた音に俺は足を止めた。
「どうしたの?」
「今、何か聞こえなかったか?」
「いえ、聞こえなかったけれど」
首を傾げるマーネだが、俺の耳には今も音が聞こえている。
「音が近づいてくる」
「……聞こえた」
俺に遅れて少し後ろにいるミナスも頷く。
「来る」
直後、曲がり角から三体の陰が飛び出してきた。
「なんだ、あれ?」
その姿は七十センチ程の大きさのカプセル。その体の真ん中にプロペラのようなものがついて宙に浮かんでいる。
どこか機械的なその体の上部に赤い目のようなものが一つある。
ガーディアン・パトロールLv25
種族:魔法兵器
聞こえていた音はあのプロペラの音か。
「気配察知には何も引っかからないッスよ」
「生物じゃないからじゃないかしら。ゴーレムとかも種族は魔法生物になっているけれど、あれは魔法兵器。気配なんてないんじゃないかしら」
「ここでは気配察知は役に立たないって事ッスか。厄介ッスね」
「他にも何か特徴があるかもしれないわね。ミナス、お願い」
「……ん」
ミナスは弓を引きしぼり、続けざまに三本の矢を放つ。
放たれた矢は当然の如くガーディアン・パトロールの赤く光る目に突き刺さり、硬い金属音をあげる。
「あまり効いていないな」
機械的な見た目通りかなり硬いんだろう。
「魔法ならどうかしら?」
続けてマーネから放たれる火槍が一体に直撃し、弾き飛ばす。
「ミナスの矢よりもHPは減っているけれど、元の威力を考えたらあまり効いていないのは変わらないわね」
物理も魔法も高い耐性があるという事か。
「それよりも気になるのはターゲットを私に変えた事ね」
二体は最初に攻撃したミナスに向かっていっている。
だが、マーネの魔法が直撃したガーディアン・パトロールはマーネに向かっていっている。
これはおかしい。
俺が持っている嫌われ者というスキルは他のプレイヤーが集めたヘイトの一部を自分に集め、マーネの持つ姫というスキルは他のプレイヤーにヘイトの一部を押し付ける効果がある。
今のスキルレベルだとこの二つの効果によって攻撃したマーネよりも俺の方がヘイトが高まるはずだ。
なのにあいつはマーネの方に向かっていっている。
「ロータス」
「わかった」
俺は挑発のアーツを発動させるが、案の定三体のガーディアン・パトロールは狙いを変えない。
「色々と試してみる必要がありそうね。ロータス、ミナス」
「ああ」
「……ん」
俺達はそれぞれ動き出した。




