パーティ変更
《お知らせします。堅牢なる荒野のエリアボス『ギガントゴーレム』がフレイアによって討伐されました》
一旦ミャーコ達と合流するためにドライスの街に戻ってきたところでそのワールドアナウンスが流れてきた。
「フレイア……聞いた事ないな」
しかも、一人の名前しか呼ばれていない。他のプレイヤーが非公開にしていたとしても、他何人といった風に言われるのにそれがないという事はソロ討伐したという事だ。
「最近台頭してきたプレイヤーね。職業はテイマーよ」
「ああ、だから一人しか名前が呼ばれていなかったのか」
テイムモンスターはパーティの枠を一つ使ってしまうが、だからといってワールドアナウンスで名前を呼ばれる事はない。
実際はパーティで戦っていたとしても一人で倒したように聞こえる訳だ。
「フレイアちゃんはうちのお客様でもあるニャ」
聞こえてきた声に横にいるマーネから視線を外して前に向けると、ミャーコとサテラが立っていた。
「私が事前に戻ると連絡しておいたのよ」
「なるほど」
だからこうして俺達を待っていたのか。
「無事にミニャスちゃんをニャかまにできたみたいで安心したニャ」
そう言ってミャーコはルナを抱いて俺の背中に隠れるように立つミナスに視線を向けた。
「知っていたのか」
「稲を持ち込んだのもミニャスちゃんだからニャ。こっちに来てるプレイヤーも少ニャいから察しはつくニャ」
そもそも、誘惑の密林のエリアボスの初討伐はミナスらしいし、思い返してみればこの街に来てから他のプレイヤーは一人も見かけていない。
俺達が澄んだ水源地の方に探しに行ったのを知っていればすぐにわかるか。
「それにしても……」
ヒョイッと俺を回り込むようにしてミャーコはミナスの顔を覗き込んだ。
「ミニャスちゃんはこんニャ顔をしてたんだニャ」
その言葉にミナスはルナを抱いたまま片手で自分の顔に触れて仮面をしていない事を思い出し、あたふたとしながらルナを持ち上げて顔を隠した。
「ニャんで隠すニャ?せっかく可愛い顔ニャのに」
「……あう」
俺の服をギュッと握り、顔を隠すように背中に顔を押しつけた。
「こいつは人見知りなんだ。勘弁してやってくれ」
俺は苦笑を浮かべてポンポンとミナスの頭を撫でた。
「仮面をつけてた時は普通にはニャして……はニャして……はニャしてニャいニャ!よく考えたら仮面をつけてた時もはニャした事ニャかったニャ!」
聞けば依頼なんかのやり取りも全部メッセージを使っていたとか。そのせいで性別すらわからないと言われていた訳か。
ただてさえ色々と発育が乏しいのにローブで全身を覆っていては余計にわからないだろうし。
「……ローくん……変な事……考えた?」
「いや、考えてないぞ」
ふむ、何故俺の周りの奴はみんな勘がいいのだろうか?
「なあ、マーネとミナスってなんか似てないか?」
「ミナスとは従姉妹よ」
「ニャんと!言われてみればたしかに似てるニャ」
「……ほんと?」
憧れているマーネに似ていると言われて嬉しかったのかミナスが恐る恐る俺の背中から顔を出す。
「本当だニャ。それにしても、美人なうえ、かたやナンバーワン魔法使い。かたやナンバーワン弓使い。とんでもない遺伝子だニャ」
キョロキョロと二人の顔を見回し、ハァと感嘆の息を吐いた。
「おお、そうニャ!弓使いといえば、忘れるところだったニャ」
ポンと手を打ってミャーコは思い出したように見覚えのある弓を取り出した。
「ミニャスちゃんが依頼していた弓だニャ。ルイーゼから預かってきたニャ」
「それってもしかして……」
「あと、ちょっと借りて使わせてもらったニャ」
「やっぱりか……」
見覚えがあると思ったら俺が鳥を撃ち落とす時に使った弓か。依頼された品だとは言っていたが、ミナスのだったのか。
「……ローくん……使ったの?」
「ああ、悪いな」
「……ローくん……なら……べつに……いい」
「ありがとな」
ミャーコから弓を受け取ったミナスは片手にルナを抱いたまま何度か弦を引いて調子を確かめる。
「かなり硬い弓だな」
「……次は……負けない」
ギュッと弓を握りしめて力強く呟くミナス。
ミナスはこれで意外と負けず嫌いだからな。よっぽど闘技大会でジークフリートに負けたのが悔しかったのだろう。
あの弓ならジークフリートの硬い鎧も貫いてダメージを与えられるはずだ。しっかり前回の反省は活かしている。
「マーネちゃん達はまた遺跡に行くのかニャ?」
「そのつもりよ。貴女達はどうするの?」
「遠慮するニャ。どうせ戦力にはニャらニャいニャ」
「同じくあたしも不参加だ」
「そう。さっきついて来なかった時点でそう言うんじゃないかとは思っていたわ」
ミャーコとサテラは不参加か。という事はメンバーは俺、マーネ、ユーナ、ラピスと新メンバーのミナスという事か。
「……ルナ……置いて……いくの?」
「あー、そういう事になるな」
それを聞いたミナスは悲しそうな表情を浮かべ、ギュッとルナを抱きしめた。
「昔からミナスはフクロウが好きだったからな」
この前貰ったキーホルダーもフクロウだったし。
ルナに気づいたミナスは一目でルナを気に入り、ここまで戻ってくる道中もずっと抱き抱えていた。
「……駄目?」
ミナスは上目遣いで俺を見上げ、小首を傾げる。
「そうは言ってもパーティは最大五人だからな」
テイムモンスターもその枠を一つ使ってしまう。だからこうしてルナを置きにきた訳なんだが……。
「仕方ない。ここは俺が残ろう」
「って、何言ってるんスか!?」
ミナスを悲しませるなんて俺にはできない。
だから俺が残ろうと言ったのだが、ラピスからツッコミが入った。
「そうよ。貴方のテイムモンスターなんだから貴方が行かないと連れていけないわよ」
「そうそう……って、そこじゃないッス!」
「だから、ここは私が残るわ」
「マーネさんがいないとそもそも横穴を抜けられないッスよ!」
ラピスはハァとため息を吐いた。
「ニャんだか二人の様子がおかしいニャ」
「あの二人は妹分のミナスちゃんの事をかなり可愛いがっているからねぇ。ロータス君がマーネはミナスちゃんを前にすると暴走気味になるって言っていたけど、あの様子じゃロータス君も人の事言えないねぇ」
「話してないでユーナさんもツッコんでほしいんスけど」
「僕はそういうのやっていなくてねぇ。妹に任せているんだよ」
「ユーカさんの苦労が偲ばれるッス……」
ここにいないユーカを思い浮かべ、ラピスは疲れた表情を浮かべた。
「ミナスさんもここは我慢するべきッス。同じクランなんだからこれからはいつでも愛でられるんスから」
「…………ん」
長い沈黙の後、渋々といった様子で頷いた。
「……我慢……する」
「ありがとな」
頭を撫でるとミナスは気持ちよさそうに目を細めた。
「さて、話も纏まったし、そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
「……ルナ……バイバイ」
「ホー」
手を振るミナスにルナも器用に羽を振って応えた。
そうして俺達はルナをパーティから外し、代わりにミナスをパーティに入れて出発した。




