四人目の仲間
『YOU LOSE』
空中に浮かび上がる文字を見上げ、瞳を閉じて短く息を吐く。
「俺の負けか」
「あまり悔しそうじゃないわね」
瞳を開き、聞こえてきた声の方に視線を向ける。
「負けるつもりで戦いに赴く事はないけど、勝ち負けにはあまり興味はないんだ。敗北もまた高みへ昇るための糧だからな」
「貴方らしいわね」
俺の言葉にマーネは小さく笑みを浮かべた。
「少し意外ッス。ロータスさんは敗北とか知らなさそうなんでもっと悔しがるかと思ったッス」
「敗北を知らない人間なんていないさ。例えば頭脳面に関して言えばマーネやユーナ、それにラピスだって俺よりも上だ」
「それは別の問題じゃないッスか?」
「同じだよ。別だと言うなら今回の決闘だって剣での戦いじゃないんだから負けた事にはならないという事になる」
「それはまた違うような気がするッスけど……」
「大事なのは勝ち負けよりもそこから何を得るかだ。今回の決闘で俺は今より強くなれる。それに、もっと大事なものも手に入るしな」
空中に浮かび上がる自身の勝利を告げる文字を呆然と眺めるミナスに視線を向けた。
「お前の勝ちだ、ミナス」
「……蓮くん?」
未だ勝った事が信じられずに混乱しているのかミナスは俺をリアルの名前で呼ぶ。
「言っておくが、手なんか抜いていないぞ。それを口にするのは俺への侮辱と同じだ。勝ったのは間違いなくミナス……楓の実力だよ」
俺はポンッと楓の頭に手を乗せた。
「強くなったな」
「……あ」
瞳に涙を浮かべ、楓はギュッと抱きついてきた。
「楓、改めてお願いが──」
「……蓮くん」
言葉を遮るように名前を呼ばれ、俺は口をつぐむ。
「……お願いが……ある。……わたしを……仲間に……入れて」
瞳に力強い意思を込めて見上げてくる楓に自然と笑みがこぼれる。
「もちろん。俺達の仲間になってくれ」
「……ん!」
花が咲き開くように楓は笑顔を浮かべた。
楓……ミナスが落ち着くのを待って正式にミナスを仲間に迎え、俺は見事に翻弄された決闘について話を聞いてみる事にした。
「全部狙ってたのか?」
「……蓮く……ローくんを……相手に……するなら……それくらい……しないと……勝てない……から」
「まんまとやられたよ」
俺の呼び名はローくんになったらしいが、そんな事は些細な問題だな。
「全部ってどういう事ッスか?戦いが専門じゃない自分にはよくわからないんスけど」
「全部は全部よ。まず、姿を隠しながら矢を放つ事でロータスを足止めするのと同時に間合いを測っていたの。それが第一段階」
完璧に間合いを測られたせいで矢が間合いに入った瞬間に別の矢をぶつけて軌道をそらす事ができた。俺が反応する事も見越したうえでだ。
「さらに、その攻防の中で布石を打っていた。それが最後に爆発した矢よ。これが第二段階」
「あれはなんだったんだ?」
「弓術スキルで覚えるアーツ、トラップアローね。一定時間経つか任意で爆発させる事ができるの」
なるほど。あれはアーツだったのか。
「あれがミナスの作戦の要ね。死角がないとわかっているのにあえてロータスの視界に映らないように撃ったのは矢に気づかせないため。トラップアローはよく見れば少し光っているから」
それが何かはわからずとも、間違いなく警戒をしていただろう。
「第三段階は最後の三本の矢。あれでロータスの視線を完全に釣って本命の爆発の発見を遅らせた」
その爆発すらも俺に当てるためのものではない。俺にバックステップを使わせてその硬直時間を狙うためだ。
「そこまで読んでいたんスか!?」
「……ローくんに……確実に……当てる……なら……硬直……時間を……狙う……しかない……から」
俺はまんまと手の平の上で転がされた訳だ。
「貴方はまだ常識に囚われているのよ」
「そうだな」
矢が爆発するなんて思ってもみなかったせいで外れた矢は完全に頭から抜けていた。そこを突かれたのだ。
闘技大会の時、俺はジークフリートに負けたミナスを経験不足と評したが、今回は俺が経験不足を突かれる形になった訳だ。まったく、皮肉な話だ。
「……闘技……大会の……時から……ローくんと……戦う……事は……考えてた」
「だからこそ、突然の決闘だったのにここまで完璧な作戦が実行できたという事か」
「そこまでして一撃当てるのがやっとのロータスさんは化け物ッスね」
「そうね。ロータスが攻撃を自ら受けた以外で躱せなかったのは初日のまだ感覚を取り戻せていなかった時に不意打ちで受けた一度以来だもの。そんなロータスに完璧に当てたんだから誇っていいわ」
そういえば、そうかもしれないな。逆境を発動させるために度々ダメージは受けていたけど、本当に避けきれなかったのは二度目か。
「にわかには信じられない話ッスね。実際に戦っているところを見ていなければ信じていなかったかもしれないッス。見ていたからますますファンになったッスけど」
「はいはい。さて、じゃあ一度街に戻りましょうか」




