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街の案内

 現実時間で八時五十分。俺は『NWO』にログインした。

「まだ来てないか」

 辺りを見回してみるがマーネの姿はない。いるだけで目立つ奴だからいればすぐわかるだろうからまだいないのだろう。

「まだ時間まで少しあるしな」

 一旦ベンチに腰を下ろし、行き交う人を眺めて時間を潰す。

 昨日は初期装備の人がほとんどだったが、今日になってみると大分減った印象だ。昨日のうちに装備を変えたという事だろう。

「ん?」

 と、そんな風に時間を潰しているとざわめきが聞こえてきた。

 そちらに視線を向けてみると案の定。人々の注目を集める中を悠々と歩くマーネの姿があった。

 面白いのはプレイヤーだけでなく住人もマーネに注目している事だろう。

 プレイヤーも住人も美意識というのは変わらないようだ。

「おはよう。待たせたかしら?」

「おはよう。いや、待ってないよ。時間ちょうどだ」

 それにしても、ゲーム内ではもう昼なんだよな。これくらいならともかく、朝にログインして中が夜だったりしたら違和感を覚えるんだろうな。

「というか、どこか行っていたのか?先にログインしてたみたいだけど」

「冒険者ギルドに行っていたのよ。ちょっと用事があってね。ついでに昨日の依頼の報告も済ましてきたわ。報酬はパーティ内で自動で分割されるから貴方のところにも入っているはずよ」

 言われてメニューを開いてみると、昨日ポーションを買って0になったお金が1000Dに増えていた。

「たしかに入ってるな」

「そう。じゃあ、行きましょうか」

「街の案内をしてくれるんだったか?」

「ええ、そういう訳だから早速行きましょうか」






「ここが神殿よ」

 それはかなり大きな建物だった。例えるならパルテノン神殿が近いだろうか。壁には精緻な彫刻が刻まれ、こうして外観を眺めていると観光に来た気分になる。

「あー、なんだっけ?ぼったくり料理を出す店だっけ?」

「店ではないけれど、そんなものよ。私達がここに用事があるとしたら転職の時でしょうね」

「転職?」

「20レベルを超えるとより上位の職に転職できるの」

「なるほど。神殿の用途ってそれだけなのか?案外少ないんだな」

 はて?そういえば他にも何か言っていたような気がするがなんだったか。

「まあ、私達にはそうね」

「その割には出てくるプレイヤーが結構いるけど」

「信心深いプレイヤーが多いのね」

「ふぅん?」






「ここは生産者通りなんて呼ばれている場所よ」

 そこには多くの露店が並んでいた。

 昨日食べ物が売ってる屋台が並んでいる場所にいったが、ここは見た限りそれ以外のものが多く見受けられる。

 剣や防具を売っている店。薬品類を売っている店。アクセサリーを売ってる店など様々。

「ちなみに、ここに店を構えているのは全員プレイヤーよ」

「そうなのか?」

 戦闘職のプレイヤーはまだ見た目でなんとなく判断できるんだが、生産職は見た目じゃわからないな。

「ん?なんかあちこちにメニューを操作してるプレイヤーがいるみたいなんだけど」

「ああ、あれは取引掲示板を使っているのよ」

「取引掲示板?」

「メニューを開いてみて」

 メニューを開くとそこには取引掲示板という欄があった。

「これは?」

「わざわざ店を開かなくても取引掲示板を使えばプレイヤー間で売買ができるの」

「じゃあ、なんのために店を開くんだ?」

「一番はブランド化ね。この世界ではプレイヤー名がブランドになり得るの。取引掲示板だと名前は表示されないからリピーターを作るなら店を開いて直接売買した方がいいでしょ」

 たしかに有名プレイヤーが作った物ならそれだけで買おうと思うかもしれないな。品質が悪ければそれ以上買おうとは思わないから良し悪しがあるのかもしれないが。

 結局はプレイヤーの腕次第という事か。

「あとは顔を出したくないプレイヤーとかが取引掲示板を使うかしらね」

「そんなプレイヤーいるのか?」

「いるわよ。よりいい品質の物を作る事だけを目的にする職人気質のプレイヤーもいるから。そういうプレイヤーは適当に取引掲示板に品物を突っ込んでおいたりするからたまに掘り出し物があったりするのよ」

「へぇ」

 マーネの言葉に頷きながら取引掲示板を流し見る。

「ドロップアイテムが多いか?」

「プレイヤーは自分で値段を決めて出品するの。買う側は自分が欲しい物の値段を見て妥協できる値段なら買う。で、買う側っていうのは生産職のプレイヤーが多いの。多少の出費があっても買った素材で物を作って売った方が効率がいいから」

 だからドロップアイテムをそのまま売っているのが多いという事か。売る側としても住人の店に売るよりも高く買ってもらえるから需要と供給が成り立っているという訳だ。

「生産職のプレイヤーと繋がりがあるのならわざわざ取引掲示板を使う必要もないのだけれどね」

「人の縁は大事という事か」

 その点マーネは大丈夫なのだろうか?現実では友達がほとんどいないんだが。

「なによ」

「いや、なんでもないぞ」

「……まあ、いいわ。さ、次行きましょう」






 途中、食事休憩を挟み、俺達は一件の建物の前にやって来た。

「ここは?冒険者ギルドに似てる気がするけど」

「あら、いい勘しているわね。ここは商業ギルド。冒険者ギルドと違って生産職向けのギルドよ。ちなみに、一応両方に所属する事ができるけど、私達には用のない場所ね」

「たしかに、お互い生産スキルはとっていないしな」

「で、この向かいにあるのが……」

 そう言ってマーネは見上げていた商業ギルドに背を向け、その向かいにある建物の方を向いた。

「生産会館よ」

「生産会館?」

「あらゆる生産設備がある施設よ。性能は低いけど、生産職プレイヤーはとりあえずここに来るわ。その後は持ち運びできる簡易設備を使う事になるでしょうね」






「なんか見覚えのある建物だな」

「闘技場ね。貴方の思い浮かべたものは私も思ったわ」

 そこに聳え立っていたのはローマのコロッセオを思い起こさせる巨大な闘技場。

 なんというか、この街は雑多としているな。一応、ヨーロッパという括りでは同じなのかもしれないが。

「入れるのか?」

「現在は立ち入り禁止よ。今後使う機会もあるのでしょうけどね」

「ふーん」

 そういえば、モンスター相手の戦いはしたが、対人戦はした事がないな。いつかする機会が来るのだろうか。






「で、次はここね」

「でかい建物だな」

 そこはこの街で見た中で闘技場に次いで大きな建物。建物というか屋敷だ。

 屋敷があってその前には庭が広がり、俺達はそれを門の外から眺めていた。門の前には二人の門番が直立不動で立っている。

「ここは?」

「領主館よ。この街の領主が住んでいるわ」

「いたんだな、そんなの」

「一応ね。ただ、関わる事は今のところないわね。そのうち関わる事があるかもしれないけど、現状ではただの観光場所ね」

「たしかに日本じゃこんな屋敷滅多に見られないしな」

 俺はもう一度領主館を見上げた。

「とりあえず、ここで一通りの主要施設の案内は終わりよ。まだ案内してないところはあるけどそれはまた必要になった時にするわ」

「ああ、案内ありがとな」

「別にいいわよ。それより、街の案内は楽しめた?」

「もちろん。色々な場所に案内してもらったし、街並みや行き交う住人達を見ているだけでも楽しかった」

 そこで改めて実感した。彼らはこの世界でたしかに()()()()()のだと。

「この後はどうするんだ?」

「とりあえず、一旦広場に行きましょうか。そして、一旦ログアウトしてお昼ね。その後はまた狩りに行くわ」

「ああ、わかった」

 俺は頷いて広場へと歩き出した。

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