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ロータスVSミナス

「ロータスさんが勝ったら仲間にならず、ミナスさんが勝ったら仲間になる。おかしな話ッスね」

「これは自分が納得できるかどうかという戦いだからな」

 決闘開始のカウントが0になるのを俺とミナスは距離を取って待っていた。

「……ロータス」

「言っておくが手は抜かないぞ」

「……わかっているわ。全力で相手してあげて」

「そのつもりだ」

 それに、全力でいかなければあっという間に負けてしまうだろう。それでも勝てるかはわからないが。

「さて、時間だ」

 カウントが0になった瞬間、蓮華を抜いて一気に駆け出した。




 ◇◆◇◆◇◆




 ロータスが駆け出すと同時にミナスの射った矢がロータスの胴に迫る。

 前に浮雲のコータと決闘した時と違い、今回のルールは一撃当てた方が勝ちのファーストマッチ。

 それがわかったうえでの躱しづらい胴狙い。

 それでも、その程度はロータスには関係ない。容易く蓮華で斬り払い、そのまま肉薄しようとする。

 しかし、そこに続けざまに放たれる矢が間髪入れずに迫る。

 それには流石のロータスも足を止めて横に避ける。

 それによってわずかに近づくのが止まった隙にミナスは矢を放ちながら森の中に駆けていく。

 逃すまいとロータスもすぐさま追いかけるけれど、その間もミナスの放つ矢は止まらない。一旦開いた距離は中々縮まらず、逆に徐々に開いていく。

「ロータスさん最初から全力ッスね」

 観戦の私達もその後を追って駆け出す。

「闘技大会の時は最初様子見から入ってたんスけど、今回は様子見しないんスね」

「ミナス相手にそんな余裕ないわ。特にこの場所はミナスにとって有利なフィールド。いくらロータスでも一度見失うと勝ち目はかなり薄くなるわ」

「マーネさんはどっちが勝つと思うッスか?」

「……わからないわ。さっきも言ったけれど、この場所はミナスにとって有利なの。闘技大会の時みたいに限られたフィールドならともかく、この場での戦いじゃどちらが勝つかわからないわ」

「ロータスさん大好きなマーネさんにしては随分消極的ッスね。いつもならロータスさんが負ける訳ないって言うんじゃないッスか?」

「ミナスはそれだけ強いのよ」

 闘技大会の時はただてさえ苦手なフィールドで相性の極端に悪いジークフリートだったから負けたけれど、本当ならあんな簡単に負ける事はなかった。

「ロータスさん大好きってところはツッコまないんスね」

「だ、誰が大好きよ!」

「今さら遅いと思うッスよ」

「と、とにかく!ミナスは強い。ロータスでも余裕なんて一切ないわ」

 そんな話している間にも戦況は変わっていく。

 ミナスの絶え間ない連射によって思うように進めず、完全に見失ってしまった。

 その時点でロータスは追いかける事を諦め、立ち止まると迎撃に専念する。

 息つく暇も与えない連続射撃。しかも、常に違う方向から飛んでくるせいで位置を把握する事ができない。

「何か矢の軌道が不自然じゃないッスか?」

「わざと木にかすらせて軌道を変えているわね。直線的な軌道じゃないせいで余計に位置を特定できないわ」

「それでもなお一本たりとも狙いを外してないッスけどね。というか、闘技大会の時にも思ったんスけど、ロータスさん平然と死角からの攻撃にも対処しているッスね」

「ロータスに死角なんてないわ。剣の間合いは全て知覚範囲よ。並外れた反射神経も合わさればあれだけの攻撃でも決して届かない」

 でも、それはミナスもわかっているはず。なのにこの攻撃を続けているという事は打つ手がないのか、それとも何かを狙っているのか……。

「うーん、弓って随分強く見えるねぇ。あのロータス君が攻めあぐねているのは初めてみるよ」

「実際弓は強いわよ。射程の広さ、連射性、速射性は魔法を上回るし、ミナスの職業ならその攻撃力は並みの前衛アタッカーを(しの)ぐわ」

「その割にはあまり見かけない気がするけどねぇ」

「扱いが難しいんスよ。スキルや職業の補正があるとはいえ、最悪ただ振り回せばなんとかなる剣とかとは違ってしっかり狙いをつける必要があるッスから」

 狙いが正確でなければせっかくの射程も意味がないし、例え狙いが正確でも一本一本に時間をかけているようなら魔法を使った方がいい。

「現実で弓を習っていたとしても、それは基本的に動かない的を狙うだけ。実戦で動く的を狙う事なんてまずないわ。だから、上手く扱えなくて弓は不人気武器の一つなのよ」

「その分、一流の弓使いは強いッスよ。その頂点に立つのがミナスさんスからね。最強の弓使い対名実共に最強の剣士。闘技大会では見る事のなかった幻のカードッスからこうして間近で観れるのは幸運ッス」

 これが何もかかっていない戦いなら私も楽しんで観れるのだけれど。

「なるほどねぇ。それで、今はどっちが優勢なんだい?」

「なんとも言えないッスね」

「膠着状態が続くようならロータスが有利よ」

「防戦一方に見えるけどねぇ?」

「矢も無限にある訳じゃないわ。いつかは矢も尽きる。そうなればミナスに勝ち目はない」

 それを理解しているからこそロータスも無理に攻めるのではなく守りに専念している。

「でも、この決闘は一撃で勝負が決まるんスよ。ロータスさんが少しでもミスすればミナスさんの勝ちなんスからロータスさんが有利とは言えないんじゃないッスか?」

「今戦っているのはロータスよ。丸一日だって同じ事を繰り返すわ」

 決して切れる事のない集中力。それがロータスの武器。

 だからこそ、このまま続ければ勝つのはロータス。このままミナスが何もしないのならだけれど。

 と、その時、戦況が動く。

 迫る矢を斬り払った直後、その真後ろに隠れていた二の矢が蓮華を振った直後の隙を突いてくる。

 それを無理矢理体を捻って躱したロータスに今までの直線的な軌道とは違う曲射が斜め上から体勢を崩したところに飛来する。

「ミナスはギアを上げたわね」

 それでもロータスには当たらない。体勢を崩しながらも最小限の動きで横に跳んで回避する。

「あれも躱すんスか」

「ロータスのバランス感覚を持ってすれば体勢を崩しても問題なく動けるわ」

 強いて弓の弱点を上げるとするなら、それはあくまで点での攻撃だという事。だからこそ、ロータスは最小限の動きで回避できる。

 続けざまに迫り来る矢をロータスは蓮華で斬り払い、その間に体勢を立て直す。

 そこに後方から曲射で放たれた矢が飛来するも、ロータスは一瞥もくれる事なく首を傾けて躱す。

「今の気になるわね」

 ロータスに死角はない。それはミナスもわかっている事。なのに、あえてそこを狙った。しかも、直線的な矢で視線をそらしたうえで。

 何かあるわね……。

 私はロータスの足元に突き立った矢をジッと見つめ、ミナスの狙いに気づく。

「まさか、それが狙い?」

「何かわかったのかい?」

「ええ、この勝負ミナスの勝ちよ」




 ◇◆◇◆◇◆




 間違いなくミナスは何かを狙っている。だが、その狙いがわからない。

 姿さえ見せてくれればもう少しわかるのだが、ミナスは頑なに姿を見せようとしない。

 現状、俺にできる事は警戒を緩めずミナスの攻撃に対処する事だけだ。

 そこに飛来する一本の矢。さっきのようにその後ろにもう一本隠れている可能性も頭に入れ、これまでと同じように蓮華を振って斬り払う。

 だが、矢が間合いに入った瞬間、斜め上から降ってきた矢が一本目の矢にぶつかり、強制的に軌道を変える。

 それによって狙いを外した蓮華は矢ではなくむなしく空を斬る。

 さらに、警戒していた通り後ろに隠れていた三本目の矢までもが迫り来る。

 全く同じタイミングで迫る三本の矢。それでいて別々の場所を狙った矢は避けづらい。

 迫る矢を前に俺は瞳を閉じ、短く息を吐く。

 そして、再び瞳を開いた時には世界はスローになっていた。

 ゆっくりと流れる視界で迫る三本の矢の軌道を把握。蓮華を振る力を利用して三本の内一本の軌道から外れる。

 そこからさらに体を捻り、二本目の矢の軌道からも外れ、残りは一本。

 回避は不可能。蓮華を引き戻す時間もない。ならば……。

 俺は左手を動かし、飛来する矢を掴み取った。

 油断があった訳でも、気を緩めた訳でもない。勝敗を分けたのは純然たる実力。ただ、ミナスが強かっただけだ。

 その瞬間、何かが光るのを視界の端で捉える。そちらに視線を向けた直後、目の前で爆発が起きる。


(バックステップ!)


 足下に突き立っていた矢が爆発したのだと理解するよりも早く、俺は咄嗟にバックステップを使った。

 否、使()()()()()

「見事だ」

 森の中から飛び出してきたミナスが弓に(つがえ)た矢を引きしぼり、放つ。

 ゆっくりと流れる視界の中でそれを見つめ、そして俺の肩に矢が突き刺さった。

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