アルテミス・ミナス
一旦ドライスの街に戻り、そこでミャーコとサテラの二人と別れて俺達は再び澄んだ水源地へとやって来た。
「本当にここら辺にいるの?」
「おそらく間違いないッス」
「なら、いいわ」
「む?」
「どうかした?」
「気配察知で把握していたモンスターがいきなり消えたんだ」
「どっち?」
「あっちだ」
俺が指差した方向に向きを定め、歩き出した。
「モンスターがいるわね」
視線の先に現れた数匹のメガヤンマ。まだこちらに気づいていないうちに仕掛けるかと蓮華を構えた瞬間、森の奥から飛来した矢がメガヤンマに次々と突き刺さり、光の粒子へと変えた。
「今の矢って……」
「間違いないわね。行くわよ」
矢の飛来した方向にいるであろう目的の人物に会うため足早に歩を進めていく。
「いたわ」
森の中に弓を構えて佇む一人のプレイヤー。
漆黒のローブで全身を覆い、顔には仮面をつけている。
プレイヤー名はミナス。闘技大会にも出場していたナンバーワン弓使いだ。
ミナスは森の中から現れた俺達に一瞬視線を向け、背を向けると一目散に駆け出した。
「ロータス!」
「わかってる!」
それを追って俺も即座に駆け出し、その背を追いかける。
身軽な動きで枝から枝へと飛び移るミナス。それを地上を駆けながら追いかけていく。
スピード自体はほとんど変わらない。だが、木を避けながら地を駆ける俺と枝の上を一直線に駆けるミナスではわずかにミナスの方が速い。しかも……。
「む」
枝から飛び移りながら空中で一回転し、上下逆さまの状態から矢を射ってくる。
そんな体勢だというのに狙いは正確。的確に俺の足を止めるために足元を狙ってくる。
それを一切スピードを落とす事なく打ち払い、その背を追う。
だが、それでも徐々に距離が離されていく。このままではいずれ見失ってしまう。
俺一人なら、だが。
「アースウォール」
突如ミナスの進行方向に土の壁がせり上がり、進路を塞ぐ。
咄嗟に立ち止まり、方向転換して逃げようとするが、その前にマーネが立ち塞がる。
「どこに行くのかしら?」
すぐに反対を見るがそっちにはユーナが立ち塞がる。
「僕もいるよ」
始めから一人で捕まえようなどとは思っていない。追いかけながらミナスの逃げる方向を誘導し、そこにマーネ達が回り込んだのだ。
前には土の壁。左右にはマーネとユーナが、そして後ろには俺がいる。
一瞬の逡巡を見せたミナスはすぐに判断を下し、一番弱いユーナの方に向かって行く。
「そう来ると思っていたよ」
ユーナは胸元から紫色の玉を取り出すと、それを地面に叩きつけた。その瞬間、見るからに毒々しい紫色の煙が広がる。
その煙を警戒し、ミナスは咄嗟に足を止める。
「捕まえた」
その一瞬の隙を突き、俺はその手を捕まえた。
なんとか逃げようとするミナスだが、追いかけっこならともかく、この状況で逃す事はない。
やがて諦めたのかミナスは体から力を抜いた。
「私達は貴女に力を借りたいの、ミナス。いえ、楓」
「…………」
ミナスはゆっくりと仮面に手をかけ、仮面を外した。
その下から現れたのは小動物を思わせる愛らしい少女。どことなくマーネと似た少女の名前は楓。マーネの従妹であり、今は遠くに住んでいるが昔は近所に住んでいた幼馴染みでもある。
「……どうして……わかったの?」
「動きを見ればわかる」
顔や全身を隠していてもその動きまでは隠しようがない。特に、楓は昔同じ道場に通っていた事もあって動きにやや特殊な部分がある。ミナスが楓だという事は初めからわかっていた。
「ねぇ、どうして逃げたの?私達の事が嫌いになった?」
悲しそうな表情で尋ねるマーネに楓はブンブンと首を横に振った。
「なら、どうして?」
「……私も……凛お姉ちゃん……達と……一緒に……いたい。……でも……わたしじゃ……力不足……だから」
そう言って楓は目を伏せる。
「そんな事ないわよ。楓は──」
「マーネ」
俺はマーネの言葉を遮り、首を横に振った。
「俺がどうこう言ったところで仕方ない。これは本人が納得できるかの問題だ」
「でも……!」
「だから……」
俺はメニューを操作し、その中からミナスの名前を選択した。
「……え?」
目の前に現れた選択肢にミナスはわずかに目を見開き、俺の顔を見上げた。
「決闘しようか。納得できないなら自分の力で証明すればいい。どうする?」
「……やる」
『ミナスが決闘を受けました。決闘を開始します』




