横穴の先
それからどれだけの時間が経ったか。
無限に続くかと思われたモンスターの襲撃は空に瞬いていた星空に太陽が昇る頃になってようやく落ち着いた。
誘引薬の効果が切れたのか、それとも臭いの届く範囲からモンスターがいなくなったのか。
どちらにせよ、これでようやく一息吐ける。
〈レベル28になりました〉
〈剣術Lv9になりました〉
〈眼Lv9になりました〉
〈集中Lv9になりました〉
〈気配察知Lv7になりました〉
〈カウンターLv7になりました〉
〈嫌われ者Lv7になりました〉
〈テイムLv3になりました〉
〈アーツ:サークルスラッシュを取得しました〉
〈アーツ:鷹の目を取得しました〉
〈SPが4ポイント加算されます〉
〈条件を満たしたプレイヤーに称号『生還者』が送られます〉
久しぶりの大量インフォ。まあ、あれだけモンスターを倒せば当然か。確実に千は超えていたし。
「ニャんかミャーコも称号がもらえたニャ」
「あたしもだ。生還者?なんだこれ?」
「ここにいる全員がもらえたみたいッスね。一度の戦闘で適正レベル以上のモンスター千体以上に襲われて生き延びた者に送られる称号だそうッス」
「適正レベルっていくつなんだ?」
「前後5レベルってとこッスね」
俺の戦闘前のレベルは26。一番多かったメガヤンマのレベルはほとんどが20だったから大半は含まれていないという事か。
それなのに千体以上。いったいどれだけ倒したんだか。
「ニャにもしてニャいのに申し訳ニャい気分だニャ」
「自分なんてパーティに入れてもらってたからレベルも上がってるんスよ。しかも、アイテムボックスには大量のドロップアイテムまであるんス」
「それは……すごい数にニャってそうだニャ」
「市場に出したら値崩れしそうな勢いであるッス」
何もしていなかったのにと申し訳なさそうにミャーコ達は顔を曇らせた。
「なに、気にする事はないよ」
「元凶の貴女が言うセリフではないわね。ロータス」
「了解」
俺は頷いて未だに池に入ったままの三人に手を貸して陸に引き上げた。
「おや?僕は上げてくれないのかい?」
「そこで反省して頭でも冷やしてなさい。立派な浮き袋もついてるんだから」
「マーネだったら浮く物がないから大変だったかもしれないねぇ」
「おかげでレベルの上がった水魔法を貴女で試してあげるわ!」
声を荒げ、魔杖をユーナに向ける。
「落ち着け。もうMPはすっからかんだろ。マナポーションもさっき使ったばっかで再使用までまだ時間もかかるし」
「気合いでなんとかするわ!」
「精神論とか一番似合わないな」
暴れるマーネをなんとか抑え、引きずってユーナから引き離す。
「ユーナも俺達だけの時はともかく、他に人がいる時にああいう事はするなよ」
「ふふ、気をつけるよ」
どこまで気をつける気があるのかわからないニヤニヤとした笑みを浮かべたまま水の中から這い出てきた。
「それから、マーネをからかうのも程々にな」
「そっちは承服できかねるねぇ。研究とマーネをいじるのは僕の生きがいだからねぇ」
「ロータス!やっぱり今ここで仕留めるべきよ!あれは害にしかならないわ!」
「はいはい。また今度な」
「くっ、こんな時にMPがないなんて。どうして私はユーナを仕留めるためのMPを計算していなかったの……!」
「普通仲間を仕留める計算はしないからな」
相変わらずの二人にマーネを引きずりながらため息を吐いた。
「マーネちゃんも大変だニャ」
「一番大変そうなのはロータスだけどな」
「そうッスね」
「それにしても、危ニャいところだったニャ」
「たしかに絶望的な状況だったよな。称号がもらえるくらいなんだから」
「むしろ、あの二人じゃなかったら全滅してるッス。しかも、あの二人また無傷ッスからね。闘技大会の戦いぶりで化け物呼ばわりされてるロータスさんスけど、マーネさんも十分化け物ッスね」
「なんの話だ?」
うんうんと何か頷き合っている三人に声をかけた。
「なんでもないッスよ。それより、どうかしたんスか?」
「水魔法のレベルは上がったけど、今日このまま先に行くのは厳しいから明日でいいかと思ってな。時間もいい時間だし」
「当然だニャ。ニャら、明日また集合という事で今日は解散するニャ」
「助かるよ」
俺は三人に礼を言い、テントを組み立ててログアウトした。
翌日。平日という事もあって時間を合わせるのに苦労したが、それでもなんとか時間を合わせて俺達は再集合した。
「いよいよ、横穴の先に行ける訳ッスね。楽しみッス」
「結果が常に劇的とは限らないけれどね」
「結果じゃなく、その過程こそが楽しめるんスよ」
珍しく興奮して語るラピス。
元々情報屋をしているのだってこの世界の全てを知りたいからだと聞いた。
そんなラピスなのだから未知に挑むとなれば興奮するのも当然か。
「新しく使えるように魔法、アクアベールの効果時間は10分」
「その間は水の中でも呼吸ができるんだよな?」
「ええ、そうよ。じゃあ、行くわよ。アクアベール」
マーネが魔法を発動させた瞬間、薄い水色の膜のようなものが俺達を覆う。
「時間は限られているわ。切れたらかけ直すけれど、MPが切れたらそこまでよ。どれだけの長さがあるかわからない以上急いくわよ」
俺達は頷いて池に飛び込んでいく。
何かあった時のために先頭は俺。その後にマーネ、ユーナ、ミャーコ、サテラ、ラピスと続く。
ちなみに、泳げないルナは俺が片手に抱いている。
そうして俺の見つけた横穴を一列になって進んでいく。
人一人がようやく通れる横穴をどれだけ進んだか。そろそろ三度目の効果時間切れが近づいてきた時、突然先が開けた。
入ってきた池と同じような深さと広さの空間。上を見れば光が揺らめいている。
別の池に出たのか?
そう疑問に思いながら周りに何もない事を確認し、水面に向かって浮上する。
「これは……!」
そこには予想もしていなかった光景が広がっていた。




