横穴
「マーネ、この池に光を近づけてくれないか」
暗視を使って池の中を覗き込んでみるが、イマイチはっきりとはわからない。
「ええ、いいけれど」
俺の頼みに首を傾げながらマーネは光をこちらに移動させた。
「ふむ」
「何かあったの?」
池を覗き込む俺の横までやって来たマーネも同じように池を覗き込む。
「あそこを見てくれ」
「あそこ?」
池の水はこのフィールドの名前通りよく澄んでいる。そのおかげで池の底まで見通す事ができ、俺はその一点を指差した。
「横穴?」
「ああ」
俺が見つけたのは池の底にある横穴だった。
「何かあったのかい?」
「どうしたんスか?」
「何か面白いものでもあったかニャ?」
「美味そうなものでもいたか?」
二人で池を覗き込む俺達の様子を疑問に思った他の四人も集まってくる。
「横穴みたいなものがあったんだ」
「横穴ッスか?」
俺の言葉に四人も池を覗き込む。
「なんとも言えないねぇ」
「ただのくぼみっていう可能性もあるッスね」
「やっぱりここからじゃよくわからないか」
こうなっては直接確認するしかない。
「預かっていてくれ」
「どうするの?」
「潜る」
俺は蓮華とルナをマーネに預け、池に飛び込んだ。
澄んだ綺麗な水だというのに池の中は生物の気配がまるで感じられず、不自然な程の静寂が漂っていた。
ここまで来る途中に見た池には魚とかが泳いでいたと思うんだが。ここの池は何か特別という事か?
そんな疑問を抱きながら横穴を確認するべく潜っていった。
ふむ。
なんの抵抗もなく池の底までたどり着いた俺は見つけた横穴を覗き込む。
そこにあったのは先の見通す事のできない闇。
どうやら、ただのくぼみという訳ではなさそうだな。
暗視と遠視を使って先を見通そうとするが、かなり先まで続いているらしく見通す事ができない。
先がどうなっているのか気になりはするがそろそろ息も限界だ。俺は一旦水面に戻るべく泳ぎ出した。
肌に張り付く服が動きを阻害してくるが昔鍛錬だと着衣水泳をさせられた経験が活きる。流れもない穏やかな池という事もあって問題なく戻る事ができた。
「ぷはっ」
「戻ってきたわね。はい」
「ん?ああ、ありがと」
池の淵に手をかけて陸に上がるとマーネがタオルを差し出してきた。
「どうだったの?」
「それなんだが……」
俺は受け取ったタオルで水を拭いながら横穴が先まで続いている事を話した。
「どこかに続いているのかねぇ」
「その可能性が高いと思うッス」
「先には行けそうニャのかニャ?」
「無理だ。確実に息が続かない」
とはいえ、それは素潜りで行こうとするならだ。何かしら方法はあると思うんだが。
「マーネさんは水魔法のレベルいくつッスか?」
「6よ」
「って事はあと1レベル上げる必要があるッスね」
「そうね」
「なんの話だ?」
マーネとラピスの話に俺は首を傾げた。
「レベル7になれば耐性を上げる魔法を覚えるの。その効果は環境への適応も含まれるわ」
「つまり?」
「水の中で呼吸ができるようになる」
「なるほど」
あそこを通るためには必須の魔法という訳だ。
「でも、それには水魔法のレベルをもう一つ上げる必要があるわね」
「という事は?」
「レベル上げね」
そこでマーネは他のメンバーの顔を見回した。
「私とロータスは横穴の先に行くつもりなのだけれど、ミャーコ達はどうするの?」
「乗りかかった船ニャ」
「美味い食材があるかもしんねぇしな」
「自分も行くッスよ。情報屋として逃す訳にはいかないッスから」
「僕は……」
「貴女には聞いていないわ」
まあ、ユーナがついて来ない訳ないしな。
「なら、決まりね」
そうして俺達は全員で横穴の先に行く事に決定した。




