澄んだ水源地
「澄んだ水源地は中心に巨大な湖があるッス。その周りには森が広がっていてそこにも池がいくつもあるッスね」
馬達を厩舎に預けてドライスを出た俺達はその森の中を進んでいた。
「稲が見つかったというのはどこら辺なんだ?」
「わからニャいニャ」
「わからん」
第三エリアがどれだけ広いのかはわからないが、第二エリアより狭いという事はないだろう。
直線距離でも徒歩だと一日かかるのだ。あてもなく探し回るというのは現実的ではない。
「とりあえず、街からはそう離れていないでしょうね」
「なんでそう思うんだ?」
「ウィンドバードが初めて倒されたのは三日前。始まりの街に戻る移動時間を考えたならそう遠くまで行けていないはずよ」
「なるほど」
たしかに言われてみればその通りだ。馬を使ったとしても性能は俺達よりも劣るはず。その分時間も相応にかかるはずだ。
「まあ、詳しくはラピスが知っているんじゃないかしら。ねぇ、情報屋さん?」
「いくら自分でもわからない事はあるッスよ。わかるのは稲を見つけたプレイヤーが湖を中心に東側に向かったという事くらいッスね」
「それだけわかれば十分だと思うんだけど」
むしろ、なんでそんな事がわかるんだ?ラピスもここに来たのは初めてのはずなんだが。
「自分情報屋ッスから」
「情報屋すごいな」
NWO1の情報通というのは伊達ではないな。
「なら、とりあえず湖まで行きましょうか」
マーネがライトの魔法で光源を作り、夜の森を進んでいく。
そして、しばらく森の中を進んでいくと、突如視界が開けた。
「これはまた……」
湖と呼ぶにはあまりにも広い。今が夜だという事を差し引いても対岸が見えない。森の中に突然海が現れたと錯覚してしまいそうだ。
「ん?」
ふと視界の端で光が瞬くのを捉え、視線を向ける。
「マーネ光を消してくれ」
「え?いいけれど」
不思議そうな顔を浮かべながらもマーネは光を消した。
「そういう事」
「ほほう」
「すごいニャ」
「おお」
「幻想的ッスね」
光が消えた事でそれははっきりとわかるようになった。
明滅を繰り返して周囲を飛び回る小さな光。それが辺り一面を埋め尽くしていた。
「蛍、ね」
よく目を凝らせばその光の正体が蛍だとわかる。
「今の時代リアルだとこんな光景なかなかお目にかかれないでしょうね」
幻想的なその光景を眺めていると、隣にマーネが並んだ。
「そうだな」
空には満天の星が輝き、地上では蛍が飛び回る。夜空と湖に二つの月が浮かび、その様はまるで星の世界に迷い込んだよう。
「綺麗ね」
「…………」
「どうかした?」
「あ、いや、なんでもない。ただ……」
無意識のうちに隣に立つマーネの横顔を見つめていた事に気づき、気恥ずかしさから慌てて視線を正面に戻した。
「ただ?」
「本当に綺麗だと思って……」
「そうね。本当に綺麗な光景だわ。ユーカにも見せてあげたかったわね」
「また来ればいいさ」
「ふふ、そうね」
しばらくその光景を眺めていると、突然ラピスの雰囲気が変わり、森の方に視線を向ける。
「どうやら無粋なお客様が来たみたいッス」
「みたいだな」
それに遅れて俺の気配察知もこちらに向かってくるモンスターの反応を捉えた。
森の奥から響いてくる無数の羽音。
「来るぞ!」
メガヤンマLv20
種族:魔蟲
姿を見せたのは一メートル程の大きさの巨大なトンボの群れ。
ビッグホーネットやソルジャーアントと戦った時も思ったけど、デカイ虫ってなかなかキモいな。
そういえば、俺以外は全員女な訳だけど虫とか平気なんだろうか?
「動きが変則的ね」
「大きくて虫捕りするには大変そうだねぇ」
「アミとカゴを作るかニャ?」
「トンボって美味いのかな?」
「他にどんなモンスターがいるのか調べたいところッスね」
うちの女性陣はたくましいな。
「普通のトンボは他の虫を食べるけど、あのトンボは何を食べるんだろうねぇ」
「こうやって襲ってくるって事は人間じゃないッスか?」
「人食いトンボか。B級映画にありそうだねぇ」
「あるッスかね?クモとかはありそうッスけど」
「無駄話してる暇はないわ。来るわ」
向かってくるメガヤンマに向かって前に進み、挑発を発動させる。
「トンボは六本の腕で獲物を捕獲するから気をつけて」
「ああ、わかった」
向かってくるメガヤンマに対し、蓮華を抜き放ちざまに振り抜く。
耐久は然程高くない。だが、レベル差もあまりない事もあって一撃で倒せる程ではない。
加えてマーネも言っていた通り動きが変則的で捉えにくい。この辺りが虫型モンスターの厄介なところだな。
まあ、問題はないか。




