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エリアボス:VSウィンドバード

 昨日はエリアボス前に着いたところでログアウトし、翌日改めてエリアボスに挑むために集合した。

「ここのエリアボス、たしかウィンドバードだっけ?」

 前に流れてきたアナウンスでそう言っていた気がする。

「ええ、そうよ」

「β版の頃は誰も倒せなかったんだよな」

「厄介な能力があるのよ」

「ふむ」

「一応対策は考えてあるわ。上手くいけばそう苦労せずに倒せるでしょうね」

 マーネがそういうならそうなのだろう。

「とりあえず、私達とラピスで一度挑むわ。ミャーコ達は待っていてくれる?」

「わかったニャ」

「あたしらは戦闘はからっきしだからな。その辺は任せるよ」

「ミャーコ達は何か生産して待ってるニャ」

 言うが早いかミャーコはいくつかの道具と木材を取り出し、その場に座り込んで作業を始めた。

「じゃあ、行きましょうか」





 ウィンドバードLv18 エリアボス

 種族:魔鳥



「ピイィィィィィ!!」

 上空を飛び回る緑色の巨大な鳥、ウィンドバードがこちらを見下ろしくる。

「あれがウィンドバードか」

「ええ、そうよ」

 鳥型のモンスターだけあって上空にとどまり、近寄ってくる様子がない。

 あれではまともに攻撃もできず、β版の頃に誰も倒せなかったというのも頷ける。

「来るわ」

 ウィンドバードが激しく翼を羽ばたかせると、そこから大量の羽が矢のように迫って来る。

「避けなさい」

 それを見た瞬間即座に散開。マーネとラピス、それにルナは危なげなく範囲から逃れ、AGIの低いユーナは俺が肩に担いで距離を取る。

「いつも悪いねぇ」

「そう思うならせめて自分で避ける素振りくらいしてくれ」

「善処するよ」

 する気ないな。

 俺がユーナを下ろすと、そこにマーネがやってきた。

「あれがウィンドバードの主な攻撃のフェザーアローよ」

 範囲はそこそこ広いが距離もあるし予備動作も大きい。避けるのは然程難しくないがこっちからも反撃ができない。

 だか、それは遠距離攻撃の手段を持たない俺はだからだ。弓や魔法を使えば上空にいるとはいえ攻撃を届かせる事ができるはずだ。

 だというのにβ版で誰も倒せなかったというのはおかしい。

「ウィンドバードをよく見てみて」

「……風を纏ってる?」

 言われてよく見てみると、ウィンドバードの周囲に風が渦巻いている。

「疑問の答えはあれよ。アクアランス」

 マーネの放った水槍が一直線にウィンドバードに向かっていくが、直前で風に流されて軌道がそれ、外れてしまう。

「遠距離攻撃はあの風に流されてほとんど効かないわ」

「なるほど」

 上空から降りてこず、遠距離攻撃は当たらない。これでは倒せなかったというのも頷ける。

「策があると言っていたよな?」

「ええ、あるわ。ユーナ」

「はいはい準備しているよ」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべたままユーナは胸元から小さなビンを取り出した。

「なんて所から出してるのよ」

「女には男にはない秘密の隠し場所があるんだよ」

 そこでユーナはマーネの方に視線を向けた。

「おっと、隠し場所を持っていない人もいるんだったねぇ」

 と、その時上空から再び羽が降り注いでくる。

 俺はユーナを連れて下がろうとするが、そこに水球が飛来する。

「む」

 咄嗟に蓮華を抜いて斬り裂き、改めてユーナの首根っこを掴んで離れる。

「どういうつもりだ?」

 水球を放った人物、マーネに視線を向けた。

「邪魔をしないで先にそれを始末するから」

「始末って。ウィンドバードを倒すのにユーナが必要なんだろ?」

「大事の前の小事よ」

「たぶん大事と小事が逆だと思うぞ」

「いやー、怖いねぇ」

 そう言いながら俺を盾にするように後ろに隠れるユーナ。

 エリアボスだってのにこの二人は相変わらずだな。この場合、呆れるべきは仲間を真っ先に倒そうとするマーネか、この状況でもマーネをからかうユーナか。

 7対3でユーナかな。

「ミャーコ達も待ってるんだからとりあえず落ち着け」

「……覚えておきなさいよ」

「怖い怖い」

 しばらく悩んだ後、マーネは構えていた魔杖を下ろした。

「ユーナ、やる事はわかっているでしょ」

「予想はつくねぇ」

 頷くとユーナは持っていたビンを俺に渡してきた。

「ふむ、そういう事か」

 これを俺に渡すという事はだ。

 確認の意味を込めてマーネの方を向くと頷きが返ってくる。

 俺は上空を見上げ、悠々とこちらを見下ろすウィンドバードを仰いだ。

「行くか」

 タンッと地を蹴って真上に跳び上がる。

 だが、当然遥か高くにいるウィンドバードには届かない。このままなら。

 俺がジャンプの最高到達点に着いた瞬間、その足元に土の矢が滑り込んでくる。


(フロントステップ!)


 体の向きを整え、土の矢を足場にフロントステップ。

 そして、その移動先にさらに土の矢がある。

「流石だな」

 完璧にフロントステップの移動距離と硬直時間を把握して土の矢が置いてある。

 俺はそれを足場に上空を駆け上がっていく。

「ピイィィィィィ!!」

 それを阻むようにウィンドバードがフェザーアローを放ってくる。

 それを見て即座に方向転換。直線だった軌道を変えるも、それにすらマーネは完璧に合わせてくれる。

 そして、ついにウィンドバードと同じ高さまで辿り着いた。

「せっかくここまで来たんだ。逃げるなよ」

 慌てて距離を取ろうとするウィンドバードだが、その目の前を土槍が通過し、思わず動きを止める。

 その隙を見逃さず肉薄。身に纏う風の鎧に突入する。

 轟々と耳元で鳴り響く風も人一人を吹き飛ばす程の力はない。俺はそのまま風の鎧を突破し、蓮華を振り抜いた。

 たしかな手応え。それでも相手はエリアボス。格下とはいえ一撃のダメージなどたかが知れている。それでも……。

「ピィ!?」

 突然ウィンドバードが動きを止め、そのまま真っ逆さまに落下していった。

 それに続いて俺の体も落下していく。

「このまま地面に激突したら死ぬだろうな」

 見る見る迫る地面。高所恐怖症ではないがこれにはかなりのスリルを感じる。

 だが、こんなものは遊園地のアトラクションと同じだ。安全が保証されているのだから。

 地面に激突する寸前、割り込んできた風球が地面に激突し、暴風を撒き散らす。その風に煽られ落下の勢いが殺される。

 それによって体勢を整え、俺は無傷で着地した。

「お疲れ様。おかげでこうしてウィンドバードを地面に落とす事ができたわ」

 そこに、マーネ、ユーナ、ラピスの三人とルナがやってきた。

「そっちこそ」

 俺がやった事なんて連続でフロントステップを使っただけだ。マーネの方が神経を使って疲れただろう。

「それにしても、上手くいったな」

 地面に激突したウィンドバードはピクピクと痙攣するだけで動けずにいる。

「どうだい、僕の麻痺毒は」

「腕だけはたしかね」

 ユーナに渡されたビン。あれこそが今回の作戦の要である麻痺毒だった。それを蓮華に塗って斬りつけた事でこうしてウィンドバードは落下したのだ。

「それにしても、よくわかったな。ウィンドバードが麻痺に弱いって」

「麻痺というか状態異常全般でしょうね。ウィンドバードは強いわ。手の届かない所から一方的な攻撃。しかも、こっちの遠距離攻撃はことごとくそらされる。でも、序盤のボスにしては強過ぎるのよ」

「何かしら弱点があるのは当然だろうねぇ」

「それが状態異常への抵抗力の低さという事か」

 加えて耐久面も低いのだろう。今の落下のダメージだけで三割以上HPが減っている。

「でも、β版の頃は誰も試そうとしなかったのか?」

「してたッスよ。ただ、実行できる人がいなかっただけッス」

「ふむ?」

「あんな風に空を駆け上がるなんて普通はできないッスから」

「まあ、そうだな」

 あれはマーネがいたからこそできる事だ。他のプレイヤーではそうそう真似できないだろう。

「自分のやった事は大した事ないって思ってそうッスね」

「ロータスは自分がどれだけデタラメか理解してないのよ」

「みたいッスね。まあ、そこもいいんスけど」

 二人の会話の意味がわからず首を傾げていると、ウィンドバードの痙攣が止まり、起き上がった。

「フレイムバインド」

 だが、マーネに油断はない。すでに詠唱の完了していた魔法を発動させ、ウィンドバードを炎の帯で縛り上げる。

「ピ、ピィィィ……」

 なんとか振り解こうとするが、あまり力がないのか振り解けず、弱々しい鳴き声をあげる。

「ボスを前に悠長に話している暇はないわね。まずはこれを倒してしまいましょう」

「ああ、わかった」

「お手伝いするッス」

「応援してるよ」

 地面に落としてしまえばもはやまな板の鯉も同じ。

 初めから戦う気のないユーナを除いた三人とルナで攻撃を仕掛け、ろくに抵抗もさせずに完封した。

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