南へ
準備を整えた俺達は南へ向かうため、それぞれ馬を連れて南側の門の前に集合した。
オニキスに俺が、パールにマーネとユーナが、ミャーコとサテラはヘパイストスが所持している馬に乗り合わせている。
ラピスがどうするがで一悶着あったが、結局は自分の所属するクランで所持していた馬に一人で乗る事になった。
「それにしても、いい馬ッスね」
出発前にミャーコ達から買ったブラシでオニキスにブラッシングをしていると、ラピスが近づいてきた。
「王都で買ったんスか?」
「パール──白馬の方はそうだな。でも、こいつはクエストの報酬だ。まあ、簡単なクエストだったから最初に来た相手に対するボーナスみたいなものだったんだろうな」
「そうなんスか?」
ラピスは首を傾げると俺から離れ、マーネの方に向かい、顔を寄せて何かを話し出した。
「ロータスさんはそう言ってるんすけど、実際はどうだったんスか?」
「がむしゃらにしがみつくのに必要なステータスはSTRに特化した職業でレベル35ってところね。騎乗スキルのレベルが5もあればレベル30くらいですむかもしれないけれど」
「ちなみに、今のレベルっていくつッスか?」
「26よ」
「騎乗スキルは?」
「持ってないわね」
「流石はロータスさんスね。ますますファンになったッス」
何を話しているかは聞こえなかったが、ラピスは感心したように頷いた。
「なんの話をしているんだ?」
「大した話ではないわ」
「ふむ?」
「それより、ラピスに言いたい事があったのよね」
「言いたい事ッスか?」
話を向けられたラピスは不思議そうに首を傾げた。
「聞きたい事じゃなくッスか?」
「ええ、そうよ」
「なんスか?」
「掲示板」
「全然なんの事かわからないッス!まるで心当たりがないッス!そういえば、最近自分の成りすましがいるとかいないとか聞いた気がするッスね!いやー、困ったもんスよ!ホント!」
目線をそらしながら突然言い訳じみた事を言い出すラピス。そんなラピスにマーネがジト目を向ける。
「次はないわよ」
「ははは、なんの事かわからないッスけど、心得たッス!」
マーネが目線を外した事でラピスは額を手で拭って安堵の息を吐いた。
「言っておくけど、ローブでわからないだけで脱げば結構あるのよ!そうデータとやらに書き込んでおきなさい!」
「りょ、了解ッス!」
なんの話しているのかはよくわからないが、マーネが嘘を言っているという事はわかる。
あと、この話題に触れない方がいいという事もだ。
「そういえば、ミャーコ達も馬を持っていたんだな」
そんな訳で俺はマーネ達から離れ、ミャーコとサテラに話を振った。
「採取にあちこち移動する事もあるから必要ニャ」
「やっぱり王都で買ったのか?」
「ミャーコはまだ王都に行けてニャいニャ」
「そうなのか?」
その割にミャーコ達の連れてきた馬は性能が悪くない。
王都じゃなくても馬は買えるが性能が低いと聞いていたんだけどな。
「ヘパイストスで育てた馬ニャ」
「育てた?」
「ヘパイストスにはいろんニャ生産職が所属しているニャ。そのニャかには酪農家っていうのがあるニャ。そのプレイヤーが馬同士を掛け合わせて産まれたのがこの子ニャ。あと、ラピスちゃんが連れている馬も同じニャ」
ふむ、生産職っていっても何かを作るだけじゃないんだな。そんな職業があったとは知らなかった
「この子達は湿地に特化した性能を持ってるニャ。だから、ニャんとかついて行けるニャ」
「なるほど」
「でも、戦闘は無理だからその時は頼むニャ」
「ああ、わかった」
「じゃあ、そろそろ行くニャ。みんニャ準備はいいかニャ?」
ミャーコの確認の声に異論は上がらず、俺達は南側第三の街ドライスに向けて出発した。
「やっぱり徒歩とは比べものにならないな」
ミャーコ達の乗る馬もラピスの乗る馬もぬかるんだ地面も意に介さず軽快に駆け抜け、あっという間に南の湿地を抜ける。
途中ツヴァイスで休憩を挟み、その後は誘惑の密林へ。
厄介な能力を持ったモンスターの多いフィールドだが、オニキス達の足を活かして素通りし、突き進んでいく。
そして、今日はそろそろ終わりというところでエリアボスの前まで辿り着いた。




