米を求めて
「始まりの街も久しぶりだな」
行きは二日かかった道のりもオニキスとパールに乗ればあっという間。数時間で帰ってくる事ができた。
「そうね。基本的にこの街を拠点に活動していたからあまり長時間離れたりはしていなかったものね。でも、これからはこういう事も増えていくでしょうね」
「そうだな」
二頭の馬のおかげで一日の移動距離は増えたが、先に進めばその分そこまでの距離も伸びる。フィールドの難易度も上がれば探索にも時間がかかるし、長期間ホームを開ける事も多くなるだろう。
「あ、ホームに行く前にミャーコの所に寄っていいかしら?必要ない素材とかを売っておきたいの」
「はい、大丈夫です」
「なら、行きましょうか」
「ヘパイストスのホームじゃないのか?」
大手生産クランヘパイストス。そのNo. 2であるミャーコに会うためにと移動しているのだが、その行き先が記憶にあるヘパイストスのホームとは違った。
「今日は別の場所よ。そもそも、あそこはいわば工場のようなものなの。生産した物は別の場所で売っているの」
そういえば、そんな事を前に言っていたかもしれないな。
「今日行くのはいくつかある販売所のうちの一つよ」
「なるほど」
そうして歩いていると、前方から何か騒いでいる声が聞こえてきた。
「何かしら?」
「とりあえず、行ってみるか」
「そうね」
その声に一旦立ち止まるも、こうしていても仕方ないと歩みを再開させた。
「離せ!あたしは行くんだ!」
「落ち着くニャ!一人で飛び出していったところで死に戻るだけニャ!」
「女には死ぬとわかっていても行かなきゃならない時があるんだよ!」
「それはきっと今じゃニャいニャ!」
騒ぎの方に近づいていくと、そこには今にも飛び出していこうとする小麦色の肌をした女性とその腰に抱きついて必死に止めようとするネコミミをつけた少女の姿があった。
「ミャーコとサテラ?」
「何をやっているのかしら?」
「なんだか面白そうな事になっているねぇ」
若干躊躇いながら俺達は何やら騒いでいる二人に近づいていった。
「ニャ!?もしかしてそこにいるのはマーネちゃん達かニャ!」
「なんだって!」
「え、ええ、そうだけれど」
近づいた事で俺達に気づいた二人は諍いをやめて詰め寄ってきた。
「ちょうどいいとこに来た!今すぐあたしをドライスに連れて行ってくれ!」
「ドライス?」
「南側の第三の街の事よ」
「どうして急に?」
「これだ!」
サテラは握っていた何かを俺達の前に突き出した。
「これは……稲?」
「ミャーコが説明するニャ。だからサテラは少し落ち着くニャ。目処が立ったんだから慌てる必要はニャいニャ」
「わ、わかったよ」
今だ興奮を隠せない様子だが、ミャーコに言われてサテラは表面上は落ち着きを取り戻した。
「とあるプレイヤーがこれを持ち込んだんだニャ。で、それを見つけたのがミニャミ側の第三エリアニャんだニャ。それを聞いたサテラがどうしても行くって聞かニャいのニャ」
「なるほどね」
サテラはヘパイストスの幹部一人であり、専門とするのは料理。日本人としては米を求めてしまう気持ちはわからなくもない。
「そこでお願いがあるニャ!」
「護衛をしろって事でしょ」
「他に当てがないんだ!頼むよ!」
「ミャーコからもお願いするニャ」
ミャーコとサテラが揃って両手を合わせ、頭を下げてくる。
「どうする?」
「俺は構わないけど」
ユーナとユーカがホームの設備を使いたいからと戻ってきたが、俺自身は特に予定もない。
「面白そうだし僕も構わないよ」
「貴女は何かやりたい事があるんじゃなかったの?」
「こっちが優先さ」
相変わらずユーナは自由だな。
「私も構わないのだけれど……」
そこでマーネはユーカの方に視線を向ける。
「私は残ります。どうせ戦力にはなりませんし」
「そう?」
「はい。私の事は気にせず行ってきてください」
「わかったわ。なら、その依頼受けるわ」
「おお!助かるよ!」
ガシッとサテラがマーネの手を掴み、ブンブンと縦に振った。
「その話、聞かせてもらったッス!」
突然聞き覚えのある声が聞こえたと思った直後、近くの建物の壁の一部がペラリとめくれ、その後ろから壁と同じ柄の布を持ったラピスがトレードマークである青髪のポニーテールを揺らして現れた。
「どこから出てくきてるのよ」
「自分情報屋ッスから」
「貴女の中の情報屋のイメージは何か間違っているわ」
「細かい事は気にしないでほしいッス。それより、その話自分も噛ませてほしいッス。枠は空いてるッスよね?」
「……私は構わないけれど」
マーネがミャーコ達の方を振り向くと、二人は揃って頷いた。
「決まりッスね。よろしくお願いするッス」
ふむ、ユーナじゃないが、また面白くなりそうだな。




