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大図書館

「今日は大図書館に行きましょうか」

「大図書館っていうと、この前見て回った時のあれか。でも、もう少しで暗くなるけど大丈夫なのか?」

 いくつか例外はあるが、この世界の住人は日の出と共に動き始め、日の入りと共に休む。

 現在の時刻は十七時前。もう一時間もすると日が暮れてしまう。

「大図書館は日が変わるまで開いているから大丈夫よ」

「なら、問題ないか」

 一日が二十時間のこの世界だが、それでも日が変わるまではまだ三時間くらいある。あまりゆっくりはしていられないが、明日は土曜で学校も休みなんだから必要ならまた改めて来ればいい。

「楽しみだねぇ」

「姉さん、図書館では静かにするものですよ」

「もちろんわかっているとも」

「本当ですか?」

「僕が信用できないのかい?」

「はい」

 迷いなく頷くユーカ。

「ロータス君、聞いておくれよ。妹が最近冷たいんだ」

「あー、それは……」

「日頃の行いでしょ。あまり時間もないんだからユーナの戯言に構ってないで行くわよ」

 言うが早いかさっさと歩き出すマーネ。それに苦笑を浮かべ、俺もその後に続いた。






「これは……」

「すごいねぇ」

「そうですね」

 ズラリと並んだ本棚には隙間なくびっしりと本が並び、それが広い館内の中を見渡す限り続いている。

 この本全てがちゃんと内容の書いてある本だとしたら運営はここだけで一体どれだけの労力を使ったのか。感心を通り越してその執念には恐怖すら覚える。

「見たい本があるなら司書に言えばどこにあるか教えてくれるわ」

「流石にこの中から自力で探すのは厳しいよな。それだけで一日かかりそうだ」

「じゃあ、ここからは自由行動にしましょう。本を読むのにわざわざ固まって行動する必要もないし」

「そうだな」

 あちこちに本を読むための椅子やテーブルが設置されているから決めた場所に集まるという事はできるだろうが、本の場所が遠かったりしたらわざわざ運ぶのも大変だしな。

「ただし、一つ問題があるわ」

「問題?」

「ロータス、適当に本を取って中を見てみて」

「?わかった」

 マーネの意図は読めないが、反発する理由もない。俺は言われるまま手近にあった本棚から一冊の本を取り出し、開いてみた。

「……読めない」

 だが、そこに書いてあったのは見た事ない文字。

 いや、ついこの前似たような文字を見た事がある。

「なるほどねぇ」

「ロータスさんの言う通り読めませんね。それにこの文字ってたしか」

 俺の開いた本をユーナとユーカが左右から覗き込んでくる。

「昨日のダンジョンの入り口に書いてあった文字だねぇ」

 見たのはつい昨日。ユーナの言う通り、ヴェント達と潜ったダンジョンの入り口でだ。

「ええ、どうやらここの本は言語学のスキルがないと読めないようなの。私みたいに覚えれば別だけれど」

「それはちょっと……」

「それなら、どうせSPもあまり気味なんだからスキルを取った方がいいと思うわ。今後も使う機会があると思うし」

「そうですね。なら、言語学を取ってみます」

 少し悩んだ後、頷いてユーカはメニューを操作し出した。

「たしかに読めるねぇ」

 その反対ではすでに言語学を取ったユーナが俺の持つ本に改めて視線を向けていた。

「『世界のダイエット〜わたしはこれで痩せた〜』。ゲームの中でも肥満が問題になっているのかねぇ?」

「本当にそんなタイトルなのか?」

「そう書いてあるわね」

「書いてありますね」

 何故入ってすぐの棚にそんな本があるんだ?

「人気なのかしら?」

「人気なんですかね?」

「人気なんだろうねぇ」

 ファンタジーの世界観から外れた内容に微妙な気分になりながら、持っていた本を本棚に戻して俺達はそれぞれ興味のある本を求めて動き始めた。






「ここにいたのか」

「あら?」

 図書館の中を歩き回っていると、本棚の前で立ったまま本を読んでいるマーネを見つけた。

「貴方は本を読まないの?」

「考えてみたんだけど、読みたい本が思いつかなくてな。まだ言語学も取ってないんだ」

「それならそれでいいんじゃないかしら。でも、暇じゃないかしら?」

「いや、見て回るだけでも結構楽しいぞ」

 これだけ広い図書館なんて現実ではなかなかお目にかかれないからな。見るだけでも楽しめる。

「そう。それならよかったわ。ユーナ達は?」

「それぞれ気になる本を読んでいたぞ。ユーカは鉱物関連と鍛治関連の本だったな」

「あの子も真面目ね。ユーナは?」

「ユーナは……」

「察しはついたわ」

 思わず言葉に詰まった俺の反応にマーネはため息を吐いた。

「どうせ毒薬関連でしょ」

「正解」

 見事正解を言い当てたマーネに俺は苦笑を漏らした。

 予想通りだもんな。

「マーネは何を読んでいるんだ?」

「歴史や伝承についてね。前に戦った悪魔覚えてる?」

「そりゃ、覚えてるさ」

 今まで戦った中で一番の強敵。あの頃よりも俺達も成長しているが、もう一度戦いたいとはまるで思えない。

「ちょっと気になってね。その当時の事を知りたくなったのよ」

「何かわかったのか?」

「大した事はわからないわ。ただ、悪魔が暴れた当時は今よりもずっと文明が進んでいたそうよ。でも、悪魔達によってその文明が保てないくらいの被害を受けたみたい」

 一体でさえあれだけ強かったのだ。それが72体もいればそうなるか。

 それを一人で封印したというのだから信じられないな。

「それにしても……」

 俺はマーネの持つ本を横から覗き込んだ。

「やっぱり読めないな」

「スキルがないなら当然ね」

「なしでも読めてるマーネに言われたくないんだけど」

「私は頭のできが違うから」

「言ってろ」

 冗談めかすマーネに俺も笑みを浮かべた。

「でも、冒険者ギルドでは普通に依頼書とか読めたよな」

「あれは私達来訪者、つまりプレイヤー用に特別に書いてあるって設定があるわ」

「そうなのか?」

「ええ、だから他の場所では普通にこの世界の文字で書いてあるわ」

 言われて思い出してみるが、そもそも文字自体をあまり見かけた記憶がない。店の看板は絵がほとんどだし、商品も値段が書いてあるだけだった。

 もしかしたら俺が気づいていないだけで書いてあったのかもしれないが。


『まもなく閉館の時間です。館内にいる方は速やかに退館をお願いします』


「あら、もうこんな時間」

「すまん、俺が話しかけたせいで」

「構わないわ。知りたい事はだいたい知れたし、これ以上は本では望めなさそうだもの」

「それならいいんだが」

「じゃあ、他の二人を連れて出ましょうか」

「ああ、そうだな」

 本を棚に戻して歩き出したマーネに俺も続く。


『──────────』


「?」

「どうかした?」

「……いや」

 気のせい、か?

「そう?なら、行きましょう」

「ああ」

 マーネに促され、俺は止まっていた歩みを再開させた。

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