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ダンジョンマスター:ツインナイト②

 ◇◆◇◆◇◆




「俺とも遊んでけや!」

 立ち上がってもう一体と合流しようとする白騎士の前に立ち塞がり、その横っ面を殴り飛ばす。

「チッ、硬ぇ」

 思い切り殴ったってのに白騎士に怯んだ様子もなく反撃に両手剣を振るってくる。

 それを後ろに下がって躱すと、白騎士は追撃する事なく俺を無視して通り過ぎようとする。

「ルクス!」

「はい!」

 だが、それをさせまいと進路上にルクスが大盾を構えて立ち塞がり、進行を阻む。

 白騎士の優先順位は黒騎士と合流する事が一番。それでも、こうして目の前に立ち塞がれば無視はできない。だから……。

「ここまで散々あいつらに頼ってきたんだ!ここらで意地見せんぞ!」

「やってやるっす!」

「マーネさんに格好いいところ見せます!」

「頑張ります!」

「ヴェントさんもヘマしないでください」

「はっ、当然だ!」

 意地でもこいつは俺達で倒してやる!

「オラァ!!」

 白騎士の胴に拳を叩き込み、連打。俺の職業である武闘家は一撃の威力は高くない。だが、コンボを繋ぐ事でその威力は上がっていく。

 次々と拳を叩き込んでいく俺を白騎士は鬱陶しいとばかりに両手剣を振るってくる。

「邪魔はさせません!」

 そこにルクスが割り込み、両手剣を受け止める。

「くっ」

「正面から受けるんじゃなく受け流せ!」

「わかりました!」

 苦しそうな顔で頷くと、即座に両手剣を受け流す。

 ルクスは小柄で本来ならタンク向きではない。それでも、β時代からずっとタンク一筋でやってきたんだ。経験でそれくらいはすぐに対応できる。

 うちのメンバーはロータス達みたいな天才じゃない。

 それはルクスもコータもカレンもだ。それでも……。

「ファイアランス!」

「ハイヒール」

 白騎士の連撃にルクスが捌き切れなくなり、一時後退する。それに合わせて俺も一旦コンボを切って下がる。

 それと入れ替わるようにカレンが火槍を放ち、ティアラがルクスの減ったHPを回復させる。

「バックアタック!」

 さらに、コータが背後からの攻撃に補正のあるアーツで強襲し、その足を止めさせる。

 俺達は天才じゃない。

 それでも、このゲームを誰よりも楽しんでいるのは俺達だ。

「だから俺達は強い!」




 ◇◆◇◆◇◆




「順調ね」

 戦況は安定している。二体の騎士を分断する事に成功し、順調にダメージを与えている。

「その割には浮かない顔だねぇ。何か気になる事でもあるのかい?」

「弱過ぎるのよ」

「弱過ぎる、ですか?私にはそうは見えないんですけど」

 私の言葉にユーカが疑問の表情を浮かべる。

「語弊があったわね。あの騎士の能力自体は高いわ。格上とはいえ浮雲が苦戦しているんだもの」

「なら、どういう意味なんですか?」

「単調なのよね。今のところ特別な力があるようには見えない。ダンジョンマスターならまだ隠している力がありそうなのよね」

「隠している力ねぇ」

「今は気にしても仕方ないわね。杞憂(きゆう)ならいいのだけれど」




 ◇◆◇◆◇◆




 戦いは順調に進み、黒騎士のHPは三割を切った。

 ボスモンスターはHPが減ると強化状態に入る。それは黒騎士も例外ではなく強化状態に入った。

「攻撃力、防御力、スピード。全部が一段階強化されたか」

 大抵のボスモンスターは一つか二つだけなのだが、こいつは違うようだな。

 とはいえ、それ自体は大した問題ではない。能力が上がったとしても一対一ならまだ余裕がある。

 このまま何もなければいいのだが。

 得てしてこういう場合、思い通りにはいかないものだ。

「む」

 腰溜めに構えた両手剣が光を纏い出す。

 何が来る?発動前に潰す?距離を取る?

 いくつもの選択肢を思い浮かべ、まだHPが残っている事から手の内を探るべく距離を取って様子を見る事を選ぶ。

 次の瞬間、横薙ぎに振るわれた両手剣に添うようにして三日月型の斬撃が放たれる。

 初見の攻撃ではあるが、距離を取った事で余裕を持って回避しようとする。だが……。

「ロータス、後ろだ!」

 突然の警告の声にチラリと背後を確認すると、後ろから同じような三日月型の斬撃が迫っていた。

 それを見た俺は即座に回避方向を変え、跳び上がって斬撃を躱す。

 空中では身動きが取れない。それをわかっているのかそこを狙って黒騎士は距離を詰めて両手剣を振り上げる。

「案外空中でもなんとかなるもんだぞ」

 そこにあるのが当然とばかりにマーネの操る土の矢が俺の足元に現れ、それを足場にバックステップを発動させて両手剣を回避した。

 だが、黒騎士の攻撃はまだ終わらない。バックステップで距離を取った俺に対し、わずかに腰を沈めて力を溜める。

 見覚えのある動作。見たのはこの部屋に入った直後。なら……。

 硬直が解けると同時に斜め前へ向けて地を蹴る。

 その直後、俺のすぐ横を抜けていった。

 初っ端に使ってきた高速移動。一度見ているうえ、その軌道は直線のみ。ならば、避けるのは難しくない。

 そして、チラリと背後を確認すると、そこには黒騎士だけでなく高速移動で無理矢理ヴェント達の包囲を向けてきた白騎士の姿もあった。

 さっきの飛ぶ斬撃もそうだったが、この二体は基本的に連動している。黒騎士が高速移動を使ったのなら白騎士も使ってくるというのは予想ができた。

 だからこそ俺は黒騎士の横を抜け、背後に回り込む事で白騎士の接近を阻む。

 それによって白騎士は俺に近づく事ができずに足を止め、それが隙になる。

「貴方の相手はあっちよ。ウィンドバースト」

 その隙を突いて放たれた風球が白騎士に直撃し、ヴェント達の元に送り返した。

 あの高速移動はここまで使ってこなかったところを見るに連発できるものではないのだろう。ならば、俺は目の前の相手に集中するだけだ。






「こっちはもう少しで倒せそうだ!」

 強化状態に入った事で与えるダメージは減ったが、それでも俺達は順調に戦いを進め、あとわずかまで追い詰めた。

 人数の差もあって残りHPは白騎士の方が少ない。もうさして時間もかからぬうちに倒せるだろう。

 そして、波乱がある訳でもなく、ヴェントの拳が白騎士に突き刺さり、残っていたHPを削り切った。

「よっしゃ!こっちは倒したぜ!」

 ガラガラと音を立てて白騎士が崩れ落ち、鎧の破片の山を築く。

 それを視界の端で捉え、こちらも残りわずかとなった黒騎士倒そうとしたその時。

「まだよ!」

 唯一警戒を怠っていなかったマーネの声が響く。

 咄嗟にヴェント達が振り返ると、そこには倒したはずの白騎士が無傷の状態で何事もなかったかのように立っていた。

「嘘だろ!?」

 思わずヴェントが驚愕の表情を浮かべる中、目の前の黒騎士にも変化が現れる。

 力を溜めるかのように光が集まりだしたのだ。

 危険。本能が警鐘を鳴らし、俺は即座にその場から離脱した。

 直後、黒騎士が爆発。一瞬にして爆炎と爆風を撒き散らした。

「自爆か?」

 事前に大きく距離を取っていたおかけでなんとか爆発から逃れた俺は警戒を緩めず、煙が収まるのを待つ。

 すると、煙の中に一体の影が現れ、煙の中から無傷の黒騎士が現れた。

「杞憂に終わればよかったのだけれど」

「マーネ?」

「おそらく、倒すためには条件がある」

「条件?」

「相手が二体でここが絆の試練だという事を考えるなら同時に倒すってところかしらね」

「同感だな」

 マーネの言葉に一旦下がってきたヴェントも同意する。

「失敗したら最初からやり直しってか。嫌になるぜまったく」

「最初に戻っただけならまだよかったのだけれど」

「あん?」

 こちらに向かってくる二体の騎士。その動きはさっきまでとまるで変わらない。

 H()P()()()()()()()()というのに。

「おいおい、強化状態が解けてこれって事は最初よりも強くなってるって事か?まさか、復活する毎に強くなるんじゃないだろうか?」

「おそろく、そうでしょうね」

「冗談じゃねぇぞ!消耗も考えたらここで倒さないとやべぇ!是が非でもここで倒すぞ!」

「そうね。なら、私が二体のHP調整をするわ。ロータス、さっきまでみたいに援護はできないと思って」

「わかった」

 相手が強化されたならこっちも強化するだけだ。

「二撃目はかすらせなさい」

「了解」

 さあ、第2ラウンドと行こうか。




 ◇◆◇◆◇◆




 私の魔法で改めて引き離すと、今まで通り黒騎士にロータスが向かって行く。

 それに対して振るわれる両手剣。今までは完璧に捌いていたロータスだけれど、その一撃を無防備に受ける。

 さらに、続けて振るわれる両手剣の切っ先をギリギリかすめるように避ける。

 それだけでロータスのHPはあっという間に減少し、二割程度になった。

「ロータスの奴ヤバいんじゃねぇか?」

「問題ないわ」

「問題ないって……逆境か!」

 流石はトッププレイヤーの一人。ヴェントはすぐに理解する。

「だからって一撃受けたら終わりだろ?大丈夫なのか?」

「一撃も受けなければいい。それだけよ。貴方こそ、話している余裕はあるのかしら?」

「ようやく、話すくらいの余裕が出てきたところだよ」

 二体の騎士は全能力値が高く、剣術も優れている。だけれど、特殊な能力の類いはほとんどなく、その剣術も素直で無駄がない。

 だからこそ、読みやすいとも言える。

 現に、一度目よりも強化されているというのにほとんど変わらないペースでダメージを与えている。

 とはいえ、それにも限度はある。

 対処できる範囲を超えた動きをされてしまえばどうしようもない。なんとしても今回で倒す必要がある。




 ◇◆◇◆◇◆




 二度目となる黒騎士との戦いも順調に進んでいた。

 斬撃を飛ばしたり、高速移動をしたりと一度目の強化状態から追加された攻撃パターンやそれ以外にも攻撃のバリエーションはいくらか増えたが今のところ問題はない。

 そして、そのHPはついに三割を切り、二度目となる強化状態に入った。

 もしかしたら強化状態はないんじゃないかという淡い期待も儚く散り、当然のように二体の騎士はさらに強化される。

 正直、俺の方は大して問題はない。だが、ヴェント達は苦しそうにしている。

 途中からユーナとユーカも足りなくなったポーションの補充のために駆け回っていた。

「マーネ!」

「わかっているわ」

 マーネから飛んできていた魔法が完全に途絶え、白騎士の相手に専念する。

 これで向こうは大丈夫だろう。

 あとは俺がこいつを一対一。いや、一応ルナもいるから二対一か。レベル差もあって与ダメージ量はあまり多くないが。

 まあ、とにかくこいつを倒せばいい。

 倒すタイミングは合わせないといけないが、その辺りはマーネに任せる。

「狂化を使うか?」

 いや、駄目だ。まだはっきりと狂化のデメリットがわかっていない。感覚的には大丈夫だと思うが長時間の使用は避けたい。

 なら、今まで通り正面から倒すだけだ。

 振るわれる両手剣を躱し、カウンターで胴を薙ぐ。動きも速く、一撃も重いがもう見えている。

 次々と振るわれる両手剣を全て躱し、カウンターを合わせていく。

 そして、二体の騎士のHPが一割を切った時、それは起きた。

「む」

 黒騎士が青い光を纏うと徐々にHPが回復し始めた。

「勝手にHPが減り始めたぞ!」

 聞こえてきた声にチラリと見てみると、白騎士が赤い光を纏い、徐々にHPが減り始めていた。

 HPをこっちに分け与えているという事か。

「向こうの援護に行くぞ!」

 この状況で白騎士の相手をするよりも黒騎士を全員で叩くべきだと判断したヴェントが声をあげるも、その前に白騎士が立ち塞がる。

 今まで散々二体の合流を阻んできたのだが、ここに来て立場逆転した訳だ。

「マーネ!お前だけでもロータスの方に行け!」

「わかったわ」

 マーネが聞こえたと同時に飛来した火槍が黒騎士に直撃する。

 ここは出し惜しみするところではないな。全力でいく。


(狂化!修羅道!)


 二つを発動させた瞬間、俺の体を赤黒いオーラが纏う。

 二重の強化によって俺の能力は爆発的に上昇し、怒涛の連撃を叩き込んでいく。

「こっちあと一発だ!」

「ロータス、決めるわよ。全力で叩き込みなさい」

「ああ、わかった」

 蓮華を上段に構え、そして……。


(天地斬り!)

「ファイアランス」


 漆黒の斬撃と火槍が同時に黒騎士を捉え、残っていたHPを纏めて消しとばした。

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