一日の終わり
〈レベル4になりました〉
〈眼Lv2になりました〉
〈集中Lv2になりました〉
〈アーツ:スラストを取得しました〉
〈SPが2ポイント加算されます〉
「ふぅ」
あれからしばらく無限に湧き出てくるのではないかという程のスケルトンを倒し、視界内全てのスケルトンを駆逐したところでようやく一息吐いた。
途中何度もゴブリンの群れが乱入し、どちらか単体を相手するよりも当然面倒だったが、それも無事に切り抜けた。
流石にそろそろ休憩したいのだが、大丈夫だろうか。
「大丈夫よ。もうライトも切れているし」
「む?」
そういえば、消えるとすぐにライトを継ぎ足していたマーネだが、途中から消えたままになっていた。
「もしかして、あのスケルトンもライトに引き寄せられていたのか?」
「ええ、そうよ。だから、貴方の周りに置いておいたんじゃない」
それで挑発を使っていないのに俺の所ばかりにモンスターが群がってきていたのか。
「まあ、元々それが俺の役割なんだから別にいいんだけど」
そう言いながら俺はメニューを開き、スケルトンのドロップアイテムを確認してみた。
「……なあ」
「どうかした?」
「アイテムボックスに大量の骨があるんだけど」
「スケルトンのドロップアイテムね」
「何に使うんだ?」
「犬にでもあげれば喜ぶんじゃない?」
「つまり、なんの役にも立たないと」
なんだろうか?別にそれが目的じゃないんだけど、なんとなく損した気分だな。
「経験値的には結構美味しいんだけれどね。レベルも上がったでしょ?」
「ああ。あと、新しくアーツを覚えたんだけど」
「スラストってアーツじゃない?刺突系のアーツよ。スケルトン相手に突きを使ってたから覚えたんでしょうね」
「なるほど」
俺と会話しながらもマーネはメニューを開き、何かを悩んでいた。
「何を悩んでいるんだ?」
「新しくスキルを取得するかどうか考えていたの」
「取りたいのがあれば取ればいいんじゃないのか?」
「そうね……。うん、取っちゃいましょうか。必要ならまた貯めればいいんだし。今は私一人じゃなくて貴方もいるんだから」
俺にはそれがどういう意味かはよくわからないが、マーネが納得したのならそれでいい。
それよりも、マーネがメニューを操作している間に俺もステータスでも確認しておくか。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
名前:ロータス
職業:戦士Lv4
STR:17(+5)
VIT:15(+3)
INT:8(+2)
MID:8(+2)
AGI:15(+5)
DEX:13(+3)
SP:6
スキル:剣術Lv2 眼Lv2 歩法術Lv1 逆境Lv2 集中Lv2
称号:
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
「色々上がっているな」
「確認は終わった?」
かけられた声に顔を上げると、いつの間にかメニューを閉じたマーネが目の前に立っていた。
「ああ」
実際に確認の終わっていた俺は頷いてメニューを閉じた。
「そう。じゃあ、今日はもうログアウトしましょうか」
「む?いいのか?」
「私のMPも尽きたし、始めてからこれまでログインしっぱなしでしょ。このゲームには連続ログイン時間っていうのがあってそれを過ぎると強制ログアウトされるのよ。それに、現実でもお腹は空くし、生理現象もなくなる訳じゃないわ」
「ああ、なるほど」
「一応、体に異常があれば警告が鳴るから起きたら漏らしてたなんて事はないから安心して」
「それを聞いて安心したよ」
起きたら漏らしてたなんて事があったらトラウマでゲームができなくなりそうだからな。
「じゃあ、街に戻りましょうか」
「ああ」
街に戻ってきた俺達は広場のベンチに並んで座った。
「ログアウトはどこでもできるのか?」
「できるわよ。ただ、ログインする時はこの広場からになるけれどね。例外は宿屋かホームでログアウトした時ね」
「ホーム?」
「それはまた今度説明するわ」
今説明してくれないという事は今は必要ないという事なのだろう。必要ならその時に説明してくれるはずだ。
「明日は街を案内するって言ったわよね?」
「言ってたな」
「なら、九時にここで待ち合わせましょう」
「それは現実の時間でだよな?」
「ええ、そうよ」
「わかった」
「じゃあ、また現実で」
そう言ってマーネがメニューを操作したかと思うと一瞬にしてその姿をが消えた。
「ログアウトするとこんな風になるんだな」
っと、関心してないで俺も早くログアウトしないとな。
あまり遅れてはマーネに何を言われるかわからない。俺は急いでメニューを操作し、ログアウトした。
「ん……」
ゆっくりと閉じていた目蓋を開き、ぼんやりとした頭で被っていたヘッドギアをはずした。
「戻ってきたのか……」
あまり実感はない。それだけあの世界がリアルだったという事なのだろう。
「うっ」
体を起こそうとすると長い時間床に寝ていたせいで凝り固まった体に思わず呻き声が漏れた。
「んー」
肩を回して体をほぐしているとベッドから身動ぎの音が聞こえてくる。
そちらに視線を向ければヘッドギアを外したマーネ。いや、凛が体を起こしていた。
「おはよう。って時間でもないわね」
「まあ、外はもう真っ暗だしな」
部屋の窓に目を向ければ外はすでに夜。始めたのが十二時ちょうどな事を考えると本当に長い時間やっていたな。
「じゃあ、私は帰るわね」
「晩飯はどうするんだ?」
「この時間ならママも帰ってきているからいいわ」
「そうか」
凛がヘッドギアを片付けて立ち上がったのに合わせて俺も立ち上がる。
「どうかしたの?」
「送ってく」
「いいわよ。どうせ隣なんだから」
「どうせ大した手間じゃないさ。隣なんだからな」
「……まったく、仕方ないわね。好きにしなさい」
歩き出した凛に俺も続く。
別にいいのかもしれないが、最近は何かと物騒だからな。今の俺にできる事などたかが知れているけどいないよりはマシだろう。
「着いたわ」
凛の家につくまで会話はなかった。そもそも、俺の部屋から凛の家まで一分くらいで着く。その間にわざわざ急いで話す事も今さらないのだ。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ、また明日」
俺に背を向け、玄関のドアに手をかけたところで凛はピタリと動きを止めた。
「?」
「ねぇ」
「どうかしたか?」
「今日……楽しかった?」
ああ、そういう事か。
「ふっ」
「なに笑って──」
「楽しかったよ。綺麗な景色が見れた。美味い食べ物が食えた。モンスターとの戦いも楽しめた」
眼に焼き付いた沈みゆく真っ赤な太陽。舌に残る串焼きの味。痛みと敵を倒した高揚感。
「それに……あそこでなら俺はもう一度目指せる」
「蓮……」
「だから、ありがとな凛」
「ッ!」
心から出た感謝の言葉に凛は肩をビクリと跳ねさせた。
「べ、別にいいわよ。たまたま手に入っただけなんだから。それじゃ、おやすみ!」
そう言うと凛は足早に家の中に入っていった。
「どうしたんだ、凛の奴?」
もしかしたらトイレにでも行きたかったのかもしれないな。
この件には触れない方がいいだろう。
なんとなく触れたら凛に怒られそうな予感がするしな。
「それよりも……」
俺の手は自然と自身の頰に伸びた。
ゴブリンからの不意打ち。咄嗟に避けたが、完全には躱しきれずにかすめてしまった。
もし、昔の俺だったらどうだったろうか……。そんなのは決まっている。
「鈍ってる……。いや、弛んでるか」
明日、久しぶりに顔を出すかな……。




