ダンジョン:試練の洞窟・絆②
「結構広いな」
外からではわからなかったが、洞窟の中に足を踏み入れるとすぐに地下に降りる階段があった。その階段を降りてみると、そこは俺達全員が余裕を持って横に並べる程広い通路だった。
「二パーティを前提にするならこれくらいの広さはいるでしょ」
「それもそうか」
岩肌が剥き出しの壁は一見自然の洞窟のようにも見えるが、足下は不自然な程整えられている。
降りた階段に合わない天井の高さといい、これがダンジョンか。
「奥はどうなっているの?」
同じように洞窟の中を見回していたマーネがヴェントに尋ねた。
「まだ入った事ないんじゃないのか?二パーティ専用なんだろ?」
「入るだけなら可能よ。一つのパーティを二つに分ければいいだけなのだから」
「なるほど。そういう手もあるのか」
俺は納得して頷いた。
「たしかに俺達は魔女王の言う方法で一度入ってみた」
「どうだったの?」
マーネの問いにヴェントは肩を竦めた。
「ま、こうしてお前らに助っ人を頼んでるって事を察してくれ」
「ふぅん」
と、その時、先頭で警戒していたコータが俺達に向けて叫ぶ。
「来た!」
それにわずかに遅れて俺の気配察知が押し寄せる大量のモンスターを捉える。
「あれが俺達が引き返した理由だ。流石にあの数を俺達だけじゃ捌き切れないからな」
コボルトLv20
種族:亜人
犬の頭を持つ二足歩行のモンスター。手には剣や槍、斧、弓と様々な武器を持っている。
多様な武器と数の多さは初期の頃のゴブリン狩りやスケルトン狩りを思い出すな。
「ザッと80ってとこか?」
「正確には84ね」
「え?数えたのか?」
「見ればわかるわ」
「はっ、流石だな。いけそうか?」
「問題ないわ」
「頼もしいな。なら、いっちょ勝負といこうぜ。どっちのパーティが多く倒せるか」
「構わないわよ。でも、いいの?そうなんども負けたら面目が立たないでしょ?」
「言ってろ!」
ヴェントがガツン!と両手に嵌めた籠手を打ち鳴らすのに合わせ、他のメンバーも戦闘態勢を取る。
「行くわよ」
「ああ」
マーネが魔杖を構え、俺は蓮華を抜く。それに合わせてユーナとユーカは後ろに下がる。
これだけ天井が高ければルナも問題なく飛べるな。
「弓にだけは気をつけろよ」
「ホー」
わかったとばかりに一鳴きし、ルナは俺の肩から飛び立ってコボルトの群れの上を旋回する。
「行くぞ!」
ヴェントの声を合図にマーネとカレンが先制で魔法を放つ。
同時に放たれた炎の嵐が瞬く間にコボルトの群れに直撃する。
「あまり減っていないな」
二十体以上は倒したと思うが、元の数が多い。まだ半分以上残っている。
「てか、これじゃあどっちが何体倒したかわからないな」
「なら、今のはノーカウントね」
「なら、こっからが本番だ!行くぜ、お前ら!」
ヴェントの掛け声と共にルクスとコータが飛び出していく。
「コンバットクライ!」
先頭はタンク役であるルクス。小柄な体を覆い隠す程の大盾を構え、片手に持った剣でガンッと大盾を打ち鳴らす。
たしか、コンバットクライはウォークライのようなスタン効果がない分効果が高いアーツだと言っていたかな。
先頭で敵を引きつけるルクスに続いて遊撃役のコータがコボルトの動きを妨害する。
そこに前衛アタッカーのヴェントと後衛アタッカーのカレンが動きの止まったコボルトに攻撃を仕掛けていく。
巧みな連携でコボルトを打ち倒し、ヒーラーであるティアラが的確に回復と強化を飛ばす。
「流石の連携だな」
それを視界の端で眺めながら俺もコボルトの群れの中に飛び込む。
(挑発!)
本職のタンクに比べれば効果は低いが、ないよりはマシだ。
「アタックアップ」
マーネの強化魔法を受け、コボルトが仕掛けてくるよりも早く先手を取って一閃。首へ斬撃を叩き込む。
「一撃では倒せないか」
耐久力はあまりないのか一撃でほとんどのHPを削れたが、それでもわずかに残ってしまった。
まあ、やり方しだいか。
「とりあえず、こいつは……」
チラリと上空に視線を向けると、上空から飛来した風球が瀕死のコボルトに直撃し、残っていたHPを削り切った。
「ナイスだルナ」
「ホー」
倒し切れなかった分はルナに任せればいい。まあ、今のでだいたい把握できたしそうそう取りこぼしもないだろう。
この状況で使えるスキルもあるしな。
(水流の剣)
スキルを発動させた瞬間、蓮華が水のようなエフェクトを纏う。
水流の剣は受け流しに特化したスキル。
四方八方から押し寄せる様々な武器を飲み込み、受け流す。
それによって同士討ちさせ、怯んだ隙に首を薙ぐ。
「ふむ」
ことごとく光の粒子に変わっていくが、その奥にはまだ大量のコボルトが残っている。
偶然か狙ってかそのうちの一匹が攻撃直後の隙を突くように迫ってくるが、問題はない。
俺の顔のすぐ横を火槍が通り過ぎ、迫ってくるコボルトに直撃して弾き飛ばした。
「流石だ」
混戦の中での的確なサポート。痒い所に手が届くとはまさにこの事だな。
それからしばらくコボルトと戦い続け、十数分程で全てのコボルトを倒した。
◇◆◇◆◇◆
「くっそ、俺達の負けかよ」
俺達が倒したのが31体なのに対し、ロータス達は33体だった。僅差だが、負けは負けだ。
「俺達の方が人数が多いんすけどね」
「やっぱりマーネさんがいるから!」
「うん、カレンはちょっと黙ってて」
「ぼ、僕がもっと上手くやれれば……」
「いや、ルクスは上手くやってたさ。むしろ、差があるとしたら俺達の方だろ」
たしかに人数は俺達の方が多い。あっちは生産職の二人が下がっていているし、テイムモンスターのフクロウを入れても攻撃の手は三枚だ。
それだけ見るなら俺達の方がずっと有利だ。
「ですが、攻撃を引きつけるルクスはほとんど攻撃をしませんし、ヒーラーである私も攻撃には参加していません」
「そういうこった。攻撃の数だけでいえば変わんないんだよ。だから、負けたのはアタッカーである俺とカレンの差だな」
「私なんてマーネさんに比べればゴミみたいなものですから!」
「そこまで言っちゃいねぇよ」
まあ、実際魔女王の奴と比べるとどうしても見劣りしてしまうのは確かだけどな。
「あれだけ囲まれて無傷のロータスさんは言わずもがなですけど、後衛の立場としていえばマーネさんこそ驚きですね」
「ああ、俺もチラッと見たが、ありゃヤバいな。噂には聞いていたが、こうして間近で見るととんでもねぇわ」
「私もずっと見てました!」
「お前は俺達を見ろ。それでミスったらどうするんだよ」
「何言ってるんですか!マーネさんの前でそんな不甲斐ない姿を見せる訳ないじゃないですか!」
「……さいですか」
魔女王の何がヤバいかといえば、まずはその正確性。平然とロータスの顔の横とかを通しやがる。一歩間違えばフレンドリーファイアだ。
だが、あいつはかすりさえもさせないし、ロータスもまるで気にした様子もない。よっぽどお互いを信頼しているんだろうな。
何よりもヤバいのはアロー系魔法の使い方だ。
アロー系魔法は一本一本まで自分で操作できる。これがどれだけ上手く操れるかで魔法使いの腕が決まると言われる程なんだが、大抵の奴はせいぜい二つに分けて挟み込むくらいしかできない。
カレンならもう少し細かく操れるが、それでも精度は落ちる。
だが、魔女王の奴は本当の意味で一本一本正確に操ってみせる。
待機させた矢を常にどこにあるか把握し、状況に応じて的確に使う。
「ナンバーワン魔法使いってのは伊達じゃねぇな」




