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決闘を終えて

『YOU WIN』


 目の前に浮かび上がった文字に俺は一息吐いて蓮華を鞘に収めた。

「強い……」

 決闘を終え、いつのまにか周囲に住人の姿が戻った場所で復活したコータは膝をついて呟いた。

「戦ってみてどうだった、コータ?」

 そんなコータの元にヴェントを先頭に浮雲の四人がやってくる。

「強かったっす。俺なんて足下にも及ばないくらい」

「そういうこった。俺が負けたのは何かの間違いでもなんでもなく、ただ相手が強かった。それだけだ。お前も本当はわかっているんだろ?」

「……はい」

 立ち上がったコータは俺の前までやってくると、勢いよく頭を下げた。

「悪かった。つい感情的になって……」

「べつに気にしていない。自分の尊敬する相手が負けたとなれば納得がいかないという気持ちもわかるしな」

「若いうちは理屈よりも感情で動いてしまうという事もあるものね」

「そうだな」

「いや、お前らいくつだよ。コータとそう変わんないだろうが」

「そうだけど?」

「何を当然の事を」

 ヴェントの言葉に俺とマーネは揃って首を傾げた。

「お前らは若者らしさってものがないんだよ。いつも落ち着いているしさ」

「そうか?」

「そうかしら?」

 まあ、マーネの猫かぶり状態だとそうかもな。俺達だけの時とかは割と感情豊かだし。

「まあいい。それより、和解も成立した事だし、提案があるんだが」

「提案?なにかしら?」

「俺達と一緒にダンジョンに潜らねぇか?」





「それで、どういう事かしら?」

 あのまま立ち話もなんだという事で俺達は近くの喫茶店に移動し、改めて詳細を聞く事にした。

「べつに難しい話はねぇさ。フィールドを探索中にダンジョンを見つけてな。ただ、どうやらそこは二パーティ専用らしいんだわ。だから、俺達も一旦戻ってきたんだよ。そこでお前らとちょうど会ったって訳だ」

「話はわかったけれど、私達を誘う意味がわからないわね。二パーティ専用だとしても、部外者である私達ではなく、他のクランメンバーで潜ればいいじゃない」

「他の奴らはまだ王都に来てないんだよ。俺達は勢い任せでここまで来ちまったからさ。それに、魔女王なら知ってるだろうが、うちのメンバーは割と好き勝手行動してる奴ばかりだろ?まだしばらくこっちに来る予定もなさそうなんだよ」

「それで私達に誘いをかけたという訳ね」

「ま、そういうこった」

 マーネの言葉に対面に座るヴェントは頷いた。

「そもそも、ダンジョンってなんなんだ?」

「そうね……。強いて言うならダンジョンっていうのは一種の別世界かしら?」

「別世界?」

「フィールドはあくまでこの世界の中にある一つの地域でしかないわ。でも、ダンジョンの中は周りの環境とはまるで違うし、出現する魔物も違う。物理的にあり得ないくらいの広さがあったりもするから別世界という別空間という訳よ」

「なるほど」

 と、いつも通り俺がマーネから説明を受けていると、ヴェント達が意外そうな表情を浮かべた。

「なにかしら?」

 それにマーネも気づき、わずかに眉根を寄せて尋ねる。

「いや、β時代は誰ともつるまずソロを貫いていた魔女王とは思えないと思ってな」

「……元々私が誘ったのだから面倒を見るのは当然でしょ」

「へぇ」

 そっぽを向きながら応えるマーネにヴェントはニヤニヤとした笑みを浮かべた。

「不快だわ」

「はは、悪かったって。昔は誰も近寄るなオーラ全開だったのにずいぶん柔らかくなってるもんだからさ」

「……いいから話を戻しましょう。ダンジョンの話だったわね」

「おう、そうだな」

 あからさまな話題転換をヴェントはニヤニヤとしたまま受け入れ、話を戻した。

「それで、どうするんだ?」

「どうしようかしらね」

「是非一緒に行きましょう!」

 と、その時、今まで黙っていたマーネと同じ白髪の少女、たしかカレンと呼ばれていたか。が、突然立ち上がり、身を乗り出してマーネに詰め寄った。

「こんな機会そうそうないんです!どうか一緒に行きましょう!もし、これが不快なら今すぐ捨てますので!」

「え?俺一応クラマスなんだけど?捨てられるの?」

 あまりの剣幕に流石のマーネもわずかに身を仰け反らせ、目を白黒させる。

「えっと……」

「あー、カレンはマーネさんのファンなんすよ。それも、割りと熱狂的な」

「……みたいね」

 基本的に俺達以外とあまり関わる事のないマーネだが、学校にもそういうファンは一定数いるんだよな。男女問わず。

「……わかったわ。この話受けるわ」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!お礼になにをすれば!首ですか?クラマスの首を差し出せばいいですか?」

「そんなものはいらないわ」

「すみません!そうですよね!こんな汚い物貰っても困りますよね!」

 ふむ、隣でヴェントが泣いているがいいのだろうか?

「ティアラぁ、カレンがイジメる……」

「このケーキなかなか美味しいですね。店員さん、おかわりいいですか」

「クソォ!俺に味方はいないのか!」

「だ、大丈夫ですヴェントさん。僕は味方ですから」

「ル、ルクス……」

 小柄で線も細く、一見少女にも見える少年、ルクスにヴェントは感動した目を向けた。

「結婚しよう」

「え、あの、僕男なんですけど……」

「この際構わん」

「え、でも、あの……ごめんなさい」

「クソォォォォ!!」

「うるさいです。周りの迷惑を考えてください。ケーキがまずくなります」

「ごめんなさい」

 こうして話し合いは賑やかな中で幕を閉じた。

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