決闘
「ロータスに魔女王じゃねぇか。久しぶりだな」
そこにいたのはクラン浮雲のリーダー、ヴェントだった。その後ろには以前にも見た仲間の姿もある。
「いや、久しぶりって程でもないか。魔女王はともかく、ロータスとはつい先日闘技大会で顔を合わせたばっかだし」
ヴェントは人好きのする笑顔を浮かべ、手をあげて近づいてくる。
「何か用かしら?」
そんなヴェントに向けてマーネが一歩前に出る。
「たまたま見かけたから声をかけただけだよ。知らない仲でもないんだしな」
「私は貴方なんて知らないわ」
「酷くね!?なに?お前俺の事嫌いなの?」
「…………」
「せめて何か言ってくれ!」
そんなクランマスター同士のやりとりを眺めていると、何か視線を感じ、そちらへ視線を向けた。
視線の先にいたのは俺と同年代らしき少年。その少年がジッとこちらを睨みつけるように見ていた。
「ふむ?」
直接の関わりはないはずだが、俺は何かしただろうか?
「ヴェントさん!」
と、その時、俺を睨んでいた少年が声を荒げ、ヴェントに詰め寄っていった。
「どうかしたか、コータ?」
「どうかしたかじゃないっすよ!なんでそんな平然と話してるんすか!」
声を荒げて詰め寄るコータにヴェントは困ったように頭を掻いた。
「お前の言いたい事はわかるけどよ。そんなの言ったところで仕方ねぇだろ。負けたのは俺が弱かった。それだけだ」
「でも……!」
ふむ、つまりは自分達のリーダーが俺に負けたうえ、その相手と平然と話しているのが気にいらないという事か。
「あー!メンドクセェ!コータ!お前ロータスと戦え!そんで上には上がいるって事を知ってこい!」
「上等です!あれが何かの間違いだったって証明してやるっすよ!」
む?
「そういう訳だ。悪いけど頼まれてくれねぇか?」
「まあ、俺は構わないが」
チラリとマーネを見れば呆れた様子で頷いた。
「飼い犬ってのも間違いじゃなさそうだな……」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもねぇよ。それじゃあ、頼むな。決闘はした事あるか?」
「決闘?」
白い手袋を足下に投げつけるやつ……ではないのだろうな。
「プレイヤー同士の試合のためのシステムよ。それを使わないで戦ってしまうとPKになってしまうから」
「ふむ」
「ルールは三種類あるわ。HP全損、半減、一撃ね」
「今回は……」
「もちろん全損戦だ!」
「わかった」
『コータから決闘を挑まれました。受けますか?』
YES/NO
俺は目の前に表示される選択肢。俺は躊躇いなくYESを押した。
『決闘を受けました。決闘を開始します』
次の瞬間、一瞬視界がブレ、気づくと周りにいた住人の姿がなくなり、俺達四人と浮雲の五人だけになっていた。
「ふむ?」
景色は変わらないのに何かが根本的に変わったように感じる。
「決闘システムを使うと周りから関係者以外いなくなるの。正確に言うならいなくなっているのは私達の方がでしょうけれど」
「なるほど」
マーネの説明に頷き、目の前に浮かび上がった数字を見上げた。
60から減っていくこれはカウントダウンだろう。0になったら開始という訳だ。
◇◆◇◆◇◆
「コータ君は大丈夫かな、カレンちゃん?」
敵愾心剥き出しのコータにルクスが心配そうな目を向ける。
「ああ、マーネさん……素敵」
「あ、駄目だ」
決闘そっちのけで魔女王に熱い視線を向けるカレンの様子にルクスは若干引いた表情を浮かべた。
カレンは魔女王のファンだからなー。
「勝てると思いますか?」
今のカレンでは会話にならないと判断したルクスが俺達に話を振った。
「思わねぇな」
「手も足も出ないでしょうね」
無情だが、俺達はそれに揃って首を振った。
「そんな!ティアラさんまで!」
けしかけた俺が言うのもなんだが、コータじゃ勝負にもなんねぇだろうな。
「コータが弱いと言っている訳ではありません。むしろ、上から数えた方が早いくらいの実力はあるでしょう。ですが、今回は相手が悪いです。あと、そんな相手に挑ませたヴェントさんはなお悪いです」
「いや、それは俺にも考えがあってだな……」
「言い訳ですか?見苦しい。潔く死んでください」
「死んで!?俺の罪はそこまで重いのか!?」
たしかに俺も酷な事をしたとは思うけど、これでもない頭を使って必死に考えたんだけどな……。
「クラマスうるさいです!クラマスの汚い声でマーネさんが穢れたらどうするんですか!」
「穢れねぇよ!てか、みんなもっと俺に優しくしようぜ!俺、死ねって言われてるんだぜ?」
「クラマスの生死なんてどうでもいいんです!」
「酷くね!?」
仲間が優しくない……。そろそろ泣いていいかな?これでもクラマスなんだぜ、俺。
「そんな事よりもう決闘が始まっちゃいますよ!」
ルクスに言われてカウントを見てみると、すでに10を切っている。
「とにかく、厳しい戦いかもしれませんが僕はコータ君を応援します!」
そう言ってルクスはコータに声援を送った。
◇◆◇◆◇◆
「コータ君頑張って!」
決闘の開始を間近に控え、コータの仲間から声援が飛ぶ。
対してマーネ達はといえば、ユーカが困った表情でこっちを見ているだけでマーネとユーナは興味がないとばかりに雑談をしている。
ある意味絶対に勝つという信頼故なのかもしれないが、少し複雑だな。
まあ、今はそんな事をしている暇はない。
3……2……1……
そして、0になった瞬間、コータが腕を振るい、ナイフを投擲してくる。
開始直後の正面からの不意打ち。
「ふむ」
蓮華を鞘から抜き放ちながら迫るナイフを切り払う。
だが、これは囮だ。本命は……。
ナイフを弾いた一瞬のうちに距離を詰めてきたコータが低い体勢からナイフを突き出してくる。
最初のナイフで意識をそらし、その隙に一気に詰め寄る。二段構えの不意打ちという訳だ。
「悪くない手だ」
だが、それよりも早く蓮華を素早く返し、袈裟斬りにする。
「ぐっ」
苦悶の表情を浮かべながらもその目にはまだ意志が宿っている。
まだ諦めてはいないか。
体勢を崩しながらもコータは右手のナイフを振るう。と、見せかけて体に隠した左手からナイフを投擲。
「なっ」
する寸前に蹴り上げて弾く。
「そんなあからさまに隠していたら何かあると言っているのと同じだぞ」
あまり時間をかけても仕方ないか。そもそも、目的が俺の力を見せつける事なんだからあまり悠長にする訳にもいかないか。
ナイフが弾かれた事で動揺している隙を突き、俺は瞬時に加速して死角に入り込む。
「この!」
だが、コータは俺の位置がわかっているかのように振り返りざまにナイフを振るってくる。
闘技大会の決勝戦の相手ジークフリートは俺が死角に入っても反応していた。結局どうやっているのか俺にはわからなかったが、マーネに聞くと気配察知スキルを使っているのではないかと言っていた。
聞いた話じゃコータはシーフ系の職業らしい。ならば、当然気配察知スキルは持っているのだろう。
そうして俺の動きについてきているのだが、タネが割れてしまえばなんていう事はない。
あれは一歩後ろに下がって振るわれたナイフを躱す。その直後、空から降ってきたナイフがコータの右肩に突き刺さった。
それによってコータの動きが一瞬止まり──
一閃
体勢を立て直す前に振り抜かれた蓮華がコータの首を切り裂いた。




