王都観光
「ロータスさんとマーネさんに聞きたいんですが、姉さんは迷惑をかけませんでしたか?今日は登校したんですよね?」
王都の街並みを眺めながらマーネと並んで歩いていると、一歩後ろを歩いていたユーカが尋ねてきた。
「ああ、ちゃんと登校してきたぞ」
新学期が始まって三日目にしてようやくだが。
「何を言っているんだい、ユーカ?僕が人に迷惑をかける訳ないじゃないか」
「姉さんは黙っていてください」
「あー、迷惑をかけなかったどうかだよな?えっと……」
「かけたわよ。私達にではないけれど」
俺が言い淀んでいる間にサラッと答えたマーネの言葉にユーカはユーナに鋭い目を向ける。
「姉さん!ロータスさんやマーネさんは友人だから許してくれているんですよ!他の人にやったらそれはただの犯罪です!」
「おやおや、僕がいったい何をしたと言うんだい?」
「姉さんの事ですから抱きついたり胸を揉んだりしたんでしょう!」
正解。
「いい加減訴えられてもしりませんよ!」
「その時は全力で有罪になるように証言するわ」
「おや?言い間違えているよ、マーネ。そこは無罪になるためだろう?マーネはおっちょこちょいだねぇ」
変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべるユーナにマーネは処置なしと頭を振ってため息を吐いた。
「それに、彼女も嫌がっていなかったしねぇ」
「いや、本気で嫌がっていたけど」
「世の中には嫌よ嫌よも好きのうちという言葉があるのさ」
「貴女に最も与えてはいけない言葉ね」
「身内から犯罪者を出したくないんですが……」
「大丈夫、安心して。貴女に風評被害がいかないように手を尽くすから」
「マーネさん……」
優しげな表情を浮かべるマーネにユーカは感動したように潤んだ瞳を向けた。
「何故僕が犯罪者になる前提なんだろうねぇ?」
「……なんでだろうな?」
そんな話をしていると、突然マーネが立ち止まった。
「着いたわ」
「ここは?」
俺は目の前にそびえ立つ巨大な建物を見上げた。
「大図書館よ」
「大図書館?」
「この世界のあらゆる書物が貯蔵されていると言われる図書館よ。私もまだ入った事はないのだけれど」
「そうなのか?」
β版の頃に王都に辿り着いていたんだからマーネなら真っ先に向かいそうなのに。
「β版の頃は入れなかったのよ。色々な情報があるはずだからβ版では見せたくなかったのでしょうね」
「なるほど」
情報はそれだけで武器だ。β組が先行しているのもその情報があったからこそなのだから。
「でも、今は外から見るだけね。中に入ったら観光どころじゃなくなるから」
「それもそうだな」
来るならもっとゆっくり時間をかけて来たいな。
「じゃあ、次に行きましょうか」
「ここはオークション会場よ」
「ふむ、会場っていうか屋敷だな」
次にマーネが立ち止まったのは貴族が住むような屋敷。
「色々な物が出品されるし、プレイヤーが出品する事もできるわ。プレイヤーがもっと集まったら賑わうでしょうね」
基本的にオークションに参加するのがプレイヤーだとするならそうだろうな。
「ここもそのうち来ましょう」
「次はここね」
「ふむ?」
賑やかな喧騒が外まで響くきらびやかで豪華絢爛な建物。
「ここってもしかして」
「ええ、カジノよ」
「未成年の私達も入っていいんでしょうか?」
「ゲームなんだから構わないでしょ」
「マーネがいたらどうやっても勝ててしまいそうだねぇ」
マーネは強運の持ち主だからな。
かなりの倍率のこのゲームをβ版も合わせると三本も当てているし。
「次行くわよ」
その後もいくつかの施設を回り、俺達は表通りを外れて裏路地にいた。
そこは表とは違って粗末なテントや布を広げただけの店が並ぶどこか怪しい雰囲気のある場所だった。
「ここは闇市よ。稀に掘り出し物と出会う事もあるわ」
「ふむ」
俺は並べられている商品の一つを視てみるが、よくわからない。
「ここでは鑑定の類いが効果を発揮しないの。だから、ここで必要なのはスキルに頼らない目利きと運ね」
なるほど、そうなると俺はあまり戦力にならなさそうだな。
「駄目だねぇ」
薬品関係を眺めていたユーナは首を振って肩を竦めた。
「品質が低い物ばかりだよ」
「武器もあまりいい物はありませんね」
その辺りの目利きは生産職である二人の方が得意だし。それに……。
「そうそう掘り出し物には出会えないわよ。でも……」
商品を眺めながら歩いていたマーネは突然立ち止まり、石のような物が並べられた中から一つの黒い石を手に取った。
「これいくらかしら?」
マーネの問いに粗末な服を着た男は荒んだ目を向けた。
「100000Dだ」
「買ったわ」
見た目はただの石。それにしてはぼったくりと言える値段にも関わらずマーネは躊躇いなくお金を払った。
「それなんなんだ?」
「さあ?」
「さあって……」
「なんとなく惹かれたのよね。もしかしたら、本当にただの石かもしれないわね」
そう言うマーネだが、そんな事はないだろう。運に関してマーネの右に出る奴なんていないのだから。
「とりあえず、これはユーカに預けておくわね」
「私ですか?」
「あとで加工してくれる?それで何かわかるはずだから」
「わかりました」
その後も一通り闇市を眺めたが、それ以外に目ぼしい物もなく、俺達は闇市を後にして表通りに戻った。
「ん?ロータスか?」
その時、裏路地から出た俺達の横合いから聞き覚えのある声が聞こえてきた。




