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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
106/175

決勝:ロータスVSジークフリート②

 基本的に俺は様子見から入るが、ジークフリートは自分から動く様子はない。

 一回戦、準決勝は共に遠距離攻撃を主体にする相手だったから自分から動いたのだろうが、機動力の低いジークフリートは本来待ちのスタイルだ。

 近接攻撃しかない俺が相手だと自ら動く事はないだろう。

 なら、俺から動くだけだ。気になる事もあるしな。

 地を蹴り、俺は一直線にジークフリートへ向かっていく。

 それを迎え撃つべく突き出された騎乗槍を最低限の動きで躱し、そのまま肉薄。

 騎乗槍は間合いの広さこそ厄介だが、取り回しがしづらい。一度躱してしまえば二度目が来るよりも早く距離を詰められる。

 刀の間合いまで踏み込んだ俺は勢いそのままに蓮華を振るう。

 だが、それはジークフリートの持つ大盾によって阻まれ、ガキンッ!と激しい金属音をあげて止められる。

 流石に正面からの単純な攻撃が当たるとは思っていない。目的は別。

 大盾によって俺の姿が隠れた一瞬の隙をつき、素早く死角に入り込んで背後に回る。

 そのまま無防備な背中に蓮華を振り下ろすが、死角からの攻撃にも関わらずジークフリートは即座に振り向いて大盾で防ぐ。

「ふむ」

 さらに、振り向く勢いのままに騎乗槍を横薙ぎに振るってくる。

 それを屈んで躱し、反撃に移ろうとするが、目の前に大盾が突き出される。

「ふん!」

 咄嗟に後ろに跳んで大盾を回避。そこから横に回り込もうとするが、突き出された大盾がさらに迫ってくる。

「なるほど」

 大盾を突き出したのに合わせてフロントステップを使ったのか。

 予想外に伸びてくるうえ、大盾を前面に構えているせいでカウンターも狙えない。なかなか考えられている。

「躱せない程ではないが」

 着地と同時に斜め前に瞬時に加速。大盾の脇を抜けて横に回り込み、すれ違いざまに胴を薙ぐ。

「硬いな。それに……」

 そこからさらに死角に入り込み、蓮華を振るうが、振り向いたジークフリートによって防がれる。

 やはり、死角からの攻撃に反応してくる。


『決まったー!初撃を当てたのはロータス選手です!しかし、そこからのさらなる攻撃はジークフリート選手もしっかりとガード!まだまだ勝負の行方はわかりません!』


 俺は一旦距離を取り、騎乗槍の間合いの外まで下がる。

 どうやったかわからないが、死角への攻撃は効かないか。

 一回戦を見ていて死角からの攻撃にも素早く反応していたからもしかしたらと思っていたが、予想通りだった。

 おそらく、スキルか何かを上手く使って俺の動きを把握しているのだろう。これは一筋縄ではいかないな。




 ◇◆◇◆◇◆




「ロータス君の動きについていってたねぇ」

「そうね」

「ロータスさんの動きを見切ったという事でしょうか?」

「それはないわね。ジークフリートは優れたプレイヤーではあるけれど、常人の域を出ないわ。ゲームシステムの介在しないプレイヤースキルならヴェントの方が上。そのヴェントがまるで見切れていなかった以上ジークフリート自身の素の能力で見切れた訳ではないわ」

「なら、スキルか何かを使ったという事だろうねぇ」

 問題はなんのスキルを使ったのか……。

「なるほど。そういう事ね」

「何かわかったのかい?」

「ジークフリートが使っているのはおそらく気配察知よ」

 ロータスの動きは消えたように見えても実際に消えている訳ではない。そう見せているだけ。なら、最初から見なければいい。

「なんなら、あの兜の下で目をつぶっているんじゃないかしら。視覚に頼らないというのはロータス相手には悪くない選択よ」

 気配察知スキルのレベルが上がるとその範囲だけでなく、姿形といった細かい部分までわかるようになる。そうやってロータスの動きを見極めているのでしょうね。

「昔ながらの画面越しにプレイするゲームと違ってVRゲームは五感まで再現されているわ。あんな兜を被れば当然視界も狭まる。それを補うために気配察知スキルを取得しているのでしょうね」

 だからといって一朝一夕でできるものではない。流石はNo.1クランのクランマスターといったところね。

 ロータスもどうやってかまではわらなくとも何かしらの方法で自分の動きについて来ている事はわかっているはず。

 だから、今のロータスは小細工をするのではなく正面から単純に攻め立てている。

「そもそも、ロータスは小細工なんてなくても十分に……いえ、小細工なんて使わない方が強い。手札の一枚を破ったくらいではロータスの優位は揺るがないわ」

 ロータスの激しい攻めに守りに徹する事で闘いは膠着状態になっている。

「大した忍耐力ね」

「忍耐力ですか?」

「一見ロータスの攻めに防戦一方になっているように見えるけれど、ジークフリート自身今は守る時だと強い意志でもって耐えているのよ。激しい攻撃の中、ロータスは時折わざと隙を作ってジークフリートの攻撃を誘っているわ。苦しい状況で目の前にぶら下げられた甘い餌。思わず飛びつきたくなるような状況でもしっかりと耐えて守りに徹している。口で言う程簡単ではないわ」

 さっき一度攻撃に移ってカウンターをくらったのを相当警戒しているようね。

「それでも、先に動かなければいけないのはジークフリートの方よ」

「何故ですか?」

「人間の集中力はそれほど長続きしないわ。少しでも気を抜けば飲み込まれてしまいそうな激しい攻撃をミスなく防ぎ続けるのは相当精神に負担がかかるはずよ。それに、ロータスはヨシアキのように焦って攻め急ぐような未熟さもない。肉体の疲労がない以上何時間だってこの状況を続けられるわ」

「だから、自ら動いてこの状況を打破しなくてはいけないという事ですか」

 動くとしたらそろそろね。いくら耐えても一切ブレない剣筋を見ていれば状況が好転するなんて事はないとわかるでしょうから。

「楽しいのはここからよ、ロータス」




 ◇◆◇◆◇◆




 そろそろか。

 顔どころか全身鎧で体も見えないせいでイマイチ読みづらいがわずかに焦りを感じる。

 それでも、今のところミスなく防御しているがそれ程長く続かないのは自分自身が一番理解しているだろう。

 動くとしたらそろそろ。

 その時、守りに徹するせいで使っていなかった騎乗槍が動くのを視界の端に映る。

 躱してカウンターを合わせる事もできるが、それに大した意味はないだろう。なら、相手の思惑に乗るとしよう。

 俺は攻撃の手を止め、一旦距離を取って騎乗槍を回避する。


「ドラゴンフォース!」


 その直後、ジークフリートの体に竜の幻影が重なり、鎧に鱗のような紋様が現れる。

「わざと使わせたな」

「さあ?どうだろうな。だが、相手をするなら全力の相手の方がいい」

 一度開けた距離を再び詰め、蓮華を振るう。

 今までなら大盾で防いでいたが、ジークフリートは防ぐ様子もなくその身で受ける。

「ふんっ!」

 その瞬間、ダメージを気にする事なく反撃に大盾を振り回してくる。

 それを冷静に見極め、もう一度距離を取る。

 やっている事は一回戦でヴェント相手にハヤトがやっていた事と同じだ。違いがあるとしたらジークフリートの防御力がハヤトよりも格段に高いという事。

 ドラゴンフォース発動前でさえ大きなダメージが与えられなかったというのに、今ではさらに少ない。しかも、HPの自動回復つきだ。

「これを削りきるのは大変そうだ」

 俺は口の端小さく吊り上げ、前へ出る。

「躊躇なく前へ出るか。この状況が長続きしないのはわかっているだろうに」

「それではつまらないだろ?」

 俺は絶え間なく蓮華を振るい、ダメージを積み重ねていく。

 一撃のダメージは大きくないうえ徐々に回復している。それでも、HPは少しずつ減っていっている。このままいけばそう時間もかからず倒せるだろう。

 反撃がなければの話だが。

 振るわれる騎乗槍を掻い潜って躱し、振り下ろされる大盾を横に避ける。そのまま胴を薙ぎながら背後に回り、無防備な背中を斬りつける。

 振り返りざまに足元を薙ぐように振るわれた騎乗槍を跳んでやり過ごし、突き出される大盾を蹴って後ろに下がる。

 着地際を狙って突き出される騎乗槍を一歩横にずれて躱し、素早く接近。関節部を斬りつけ、目の部分を突き刺す。

 普通に斬るよりはいくらかマシだが、それでもダメージは大きくないか。

 ジークフリートが攻撃に意識が向いている分隙はあるが、こっちもあまり攻撃ばかり傾倒していては反撃をくらってしまう。

 突き出される大盾を後ろに下がって回避。さらにアーツを使って踏み込んでくるが、それも一度見た。踏み込んだ分だけこちらも後ろに下がり、ギリギリ当たらない距離まで後退する。

「大した見切りだ。だが、それが命取りだ」

「む」

 その瞬間、大盾が赤く光りを放ち、そして……。


「ドラゴンブレス!」


 大盾から放たれる火炎。それが一瞬にして俺を飲み込んだ。




 ◇◆◇◆◇◆




「ロータスさん!」

 ロータスが火炎に飲み込まれたのを見てユーカが焦ったように立ち上がる。

「落ち着きなさい」

「ですが……!」

「今、わざと受けたように見えたねぇ」

「わざと、ですか?」

 今のタイミングだと常人ではまず避けられない。でも、ロータスの反射神経は常人のそれを遥かに上回る。

 回避しようとしてできないタイミングではなかった。少なくとも、直撃を受けるはずはない。

「何故そんな事を?」

「それは僕にはわからないねぇ。ところで、マーネに一つ聞きたい事があるのだけど」

「何かしら?」

「闘技大会が始まる前、ロータス君に何かアドバイスをしていたけど、あれは何を言っていたんだい?」

 そう質問するという事はユーナはなんとなくわかっていそうね。

「アドバイスは二つ。一つは予選で逆境が発動できるくらいHPを減らしてと言ったわ。普通ならあの程度の乱戦でロータスがダメージを受けるわけないもの」

 そのおかげでロータスが勝ち上がったのは運がよかっただけだと思って倍率が上がった。

「もう一つは?」

「もう一つはジークフリートはあくまで物理特化型だという事よ」

「どういう事ですか?」

「正直、ジークフリートが物理的などんな隠し球を持っていたとしてもロータスに通用するとは思えない。もし、通用するとしたらそれは──」

「物理的じゃない技」

 ユーナの言葉に私は頷いた。

「例えば今見せた切り札みたいなね」

「マーネさんはわかっていたんですか?ジークフリートさんにあんな切り札があると」

「可能性を話しただけよ」

 そして、ロータスにはそれだけで十分。


『ジークフリート選手の真の切り札が炸裂!これは勝負あったか!』

『そう決めつけるのは早計ッスよ』


 炎が収まると、そこにはHPを三割以下まで減らしながらも、ロータスがしっかりと立っていた。




 ◇◆◇◆◇◆




「わざと受けたな。耐えられると確信していたのか?」

「俺はわからなかったよ。でも、マーネが耐えられると言った。なら、それを疑う理由はない」

 正確にはジークフリートは物理特化型だと言ったんだったかな?まあ、それだけ聞けば言いたい事はわかる。

 ジークフリートがどんな切り札を持っていたとしても、物理的以外のものなら俺でも一度は耐えられるという事だ。現に俺のHPはまだ残っている。

 あとはこの火熊の服の効果もあるか。これには火属性耐性があるからな。なければもう少しダメージがあったかもしれない。

「何故わざわざそんな真似をした」

「その状態、もうあまり持たないだろ?時間切れでの幕切れなんてつまらないからな」

 HPが三割以下になった事で逆境が発動。そして、さらに狂化を発動させる。

「行くぞ」

 黒いオーラを纏った俺は力強く地を蹴り、素早く肉薄する。

「速いっ」

 咄嗟に大盾を構えるジークフリートだが、俺はさらに瞬間的に加速し、一瞬にして背後に回る。

 俺の動きは把握しているんだろ?でも、追いつけなければ意味はない。

 ジークフリートが反応するよりも早く背中を斬りつけ、振り返るよりも早く移動する。

 反撃の隙を与えず、防御さえさせずに次々と斬撃を叩き込んでいく。

 今の状態なら普通にダメージも与えられ、回復も追いつかずに見る見るHPが減っていく。

「くっ」

 ジークフリートから感じる焦り。これは一方的に攻められているからだけじゃなく、タイムリミットも近づいているのだろう。

「ならば……!」

 ジークフリートは大きく息を吸い、そして……。


「ガアァァァァァ!!」


 ジークフリートの口から放たれた咆哮が空気すら震わせ、轟く。だが……。

「何故、動ける……!」

「悪いが、今の俺には効かない」

 これは検証の中でわかった狂化の副次効果。狂化中は精神が高ぶるせいか精神的な状態異常を無効化するのだ。

 故に一時的に相手の動きを止める咆哮も俺には効かない。


「コンセントレーション!修羅道!」


 俺の体がさらに赤黒いオーラに覆われ、上段に構えた蓮華も黒いオーラを纏う。

「終わりだ」

「まだだ!」

 即座に大盾を構えるが、それよりも速く……。


「天地斬り」


 振り下ろされた漆黒の斬撃がジークフリートを両断。残っていたHPを全て削り切った。


『き、決まったぁぁぁ!!激闘を制し、優勝したのは無名の剣士・ロータス!皆さん!激闘を繰り広げた両者に惜しみない拍手を!』


 勝ったか……。

 歓声の鳴り響く中、俺はマーネ達に視線を向け、笑みを浮かべた。

 これでまたみんなとゲームを楽しめるな。

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