準決勝:ヴェントVSロータス①
『見応えのある試合だったスね』
『最後は何が起きたのでしょうか?私にはジークフリート選手の鎧に鱗のような物が見えたのですが?』
『ドラゴンフォース。詳細は省くッスけど、竜の力をその身に宿す事ができるスキルッス。現状、このスキルを使えるのはジークフリートさんだけッスね』
『なるほど。ジークフリート選手の切り札という訳ですね』
「あれがそうなのね。噂には聞いていたけれど、初めて見たわ」
「知っているんですか?」
「詳しくは知らないわ。でも、ラピスの言った通りでしょうね。竜の力をその身に宿す。この辺りで竜といえば、堅牢なる荒野のレアモンスターであるアースドラゴン。アースドラゴンの一番の特徴はその頑強さよ。物理だけでなく、魔法に対してもね」
「なるほど、それで最後の魔法を耐えたという訳だ」
「おそらくね」
物理攻撃に対してはまさに鉄壁。弱点である魔法に対しても騎士並みの耐久性があると予想できる。
「そのうえ、自動回復の効果もあるみたい。わずかずつHPが回復していたわ」
「じゃあ、最後の咆哮はなんだったんですか?」
「予想だけれど、あれはウォークライだと思うわ」
「それってたしか、一回戦の第二試合でシグルズさんが使っていた……」
「ヘイトを集め、一瞬敵をスタンさせる効果のあるアーツね」
「あれとは全然違いましたけど」
そう、たしかに一見すれば違うものだけれど、私にはあれと似た現象に心当たりがある。
「偶然なのだけれど、ロータスが狂化を発動している時にとあるアーツを使う事で威力が上がったものがあったの。あれはたぶんそれと同じ現象よ」
ドラゴンフォース発動中にウォークライを使う事で効果が上がる。そう考えれば納得がいくわ。
「他にも色々な組み合わせがあるでしょうね。それにしても、厄介ね。あの咆哮が与えるのはただのスタンじゃないわ。ヨシアキの体がわずかに震えていたから恐怖の状態異常ね。効果としては似たようなものだけれど、効果時間は恐怖の方がずっと長いわ」
情報がない状況でくらってしまえばなんの対処もできないでしょうね。
「あんな切り札を隠し持っていたとはねぇ。勇者君に勝ち目はなかったかな?」
「そんな事ないわ。冷静に対処していれば結果は違っていたかもしれない」
「ふむ、ならどうすればよかったと思うんだい?」
「一番の敗因は攻め急いだ事ね。距離を取って少しずつ削っていけばいつかは勝てたはずよ」
「でも、それだとドラゴンフォースのスキルを使われてしまったらおしまいじゃないですか?」
「むしろ、そんなスキルは使わせてしまった方がいいわ。あのスキルは十中八九長時間発動できない。使わせて効果時間が切れるのを待てばいい」
「なるほどねぇ」
「それと、魔法の選択も悪かったわね。単純に威力の高い火属性を選んだのでしょうけど、そのせいで視界が塞がれてジークフリートを見失ってしまっていたわ。これが風属性を選んでいたならああはならなかったでしょう」
見えてさえいれば無理矢理突破してきたとしても対処できたはずだ。
「それか、逆に開幕ブレイブソウルで一気に決めにいくというのも一つの手ね」
「不意打ちで最大火力を叩き込むという訳だねぇ。僕は嫌いじゃないよ」
「少し卑怯な気もしますけど」
「時間稼ぎも不意打ちも立派な戦術よ。それに、戦い方を選べるのは強者だけ。そうじゃない者が勝とうするのなら戦い方なんて選ぶべきじゃないわ」
「ゲームなのにですか?」
「ただゲームを楽しみたいだけなら好きにすればいいと思うわ。でも、そこに全てを賭けているような人種は別よ」
リング上のヨシアキに視線を向ければ、隠し切れない悔しさを顔に浮かべ、無言でリングを去っていく姿があった。
◇◆◇◆◇◆
「ヨシアキの奴、負けちまったか。惜しかったんだけどな」
「そうだな。少し戦ってみたかったんだが」
まあ、ヨシアキに限らず、いつか全員と戦ってみたくはあるんだけど。
「おいおい、もう決勝の話か。その前に俺との試合だぜ」
「ああ、すまない。だけど、安心してくれ。目の前の試合を疎かにする気はないから」
目の前の相手も紛う事なき強者なのだから。そんな相手との試合を疎かにする気はない。
「油断はしないってか。俺としちゃ、少しくらい油断してくれてもよかったんだけどな。ま、しゃあない。当たって砕けるとするか」
そう言うヴェントだが、その顔には好戦的な笑みが浮かび、負ける気などさらさらないのがわかる。
「んじゃまあ、さっさと行くとするか」
「ああ」
◇◆◇◆◇◆
「次はロータスさんの試合ですね。ロータスさんが負けるとは思いませんけど、相手の人も強いんですよね?」
「そうね。実力は全プレイヤーの中でも五本の指に入るわ。ただ、ロータス相手には相性が悪い」
「相性ですか?」
「ジークフリートはプレイヤースキルもあるし、ゲームシステムの扱いも上手くてバランスが取れているわ。それに対してヴェントはシステム的なものはジークフリートに劣るけれど、プレイヤースキルならジークフリートを上回るわ。それがヴェントの強みなのだけれど……」
「プレイヤースキルという点においてロータス君が負ける姿は想像できないねぇ」
「そういう事よ」
この二人は戦い方が噛み合ってしまう。ヴェントにとっては厳しい戦いになるでしょうね。
「まあ、戦い方どうこうに関係なくロータスが負けるところは想像できないけれど」
「そうだねぇ」
「そうですね」
と、その時、リングにロータスとヴェントの二人が並んでやって来た。
『さあ!準決勝を戦う二人の選手が同時にやって来ました!まずはジークフリート選手と並ぶ優勝候補の一人!圧倒的なプレイヤースキルで敵を打ち倒す!旋風・ヴェントォォォォォ!!』
リングを進むヴェントに再び歓声という名の野次が飛ぶ。
『対するは突如現れた新星!一回戦を無傷の完勝で突破した天才剣士!無名の剣士・ロータスゥゥゥゥゥ!!』
ヴェントとは対照的な黄色い歓声が観客のあちこちから飛ぶ。
まったく、あっという間に人気ものね。
『決勝に駒を進めるのはどちらか!準決勝第二試合、始め!』




