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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
102/175

準決勝:ヨシアキVSジークフリート②

 一回戦とは違い、ヨシアキには距離を詰める様子はない。

 それも当然。MIDの高い騎士相手には遠距離からの魔法ではろくにダメージを与えられないけれど、重戦士は極端な物理特化職。

 逆に魔法剣士、その中でも魔法使いからクラスチェンジしたヨシアキの物理面は然程高くない。

 剣ではろくにダメージを与えられず、一撃喰らえば致命傷になりかねない。そんな状況でわざわざ距離を詰める理由など皆無。

 そもそも、状況に応じた対応力こそが魔法剣士の強みなのだから遠距離から戦うというのは当然の判断だ。

 ヨシアキが放ったのはファイアアロー。放たれた火の矢は左右に分かれ、ジークフリートを挟撃する。

 それをジークフリートは騎乗槍と大盾を使って防ぐけれど、捌き切れなかった数本の矢が直撃する。

「意外とダメージがあるねぇ」

「それだけMIDが低いという事よ。相手がローズだったなら魔法の威力はこれよりも遥かに上でしょうから今のだけでも半分くらいは削れていたわ」

 威力だけでなく、ローズと比べると魔法の精度も低いわね。ローズなら一本一本とは言わずとも、数本ずつ操る事でもっと多くの魔法を当てていたはず。

 それに対し、ヨシアキは左右に分けただけ。そのせいで片側は大盾によって完全に阻まれ、反対側も騎乗槍でいくつか撃ち落とされていた。

 あれがもっと扱いやすい武器ならさらに当たった数は減っていたでしょうね。

「ジークフリートさんも動きましたね」

 一回戦ではほとんど動く事なかったジークフリートだったけれど、今回は最初からヨシアキに向かって距離を詰めていく。

 とはいえ、一回戦のようなアーツを使っての高速移動ではなく、普通に移動するだけ。ただでさえAGIが低いというのに全身鎧に大盾、騎乗槍と重量級の装備を纏ったジークフリートの足はかなり遅い。

 魔法剣士も決して足の速い職業ではないけれど、それでも普通に追いかけただけでは追いつく事はないでしょう。

「あれは追いつく事が目的ではないわね。目的はプレッシャーを与える事」

「プレッシャーですか?」

「足は遅いけれど、騎乗槍の間合いは広いわ。そのうえ、いざとなればアーツを使った高速移動もできる。それを警戒してヨシアキは必要以上に距離を取らないといけないし、あそこは限られたリングの上。場外にならないようにも気をつけないといけないわ」

「前ばかり気にしてリングから落ちるなんて間抜けだからねぇ」

「それに、移動詠唱のスキルを持っているヨシアキは動きながらでも魔法を使えるけれど、足を止めて撃つのに比べれば精度は下がるわ。ただでさえヨシアキの魔法の精度はそれ程よくないのに、集中力もまばらじゃ当たるものも当たらないわ」

 現にヨシアキの放った火の矢は大盾に阻まれたのに加え、外れてしまったのもあって一本も当たらなかった。

 これがこの系統の魔法の利点でもあり、欠点でもあるところね。

 基本的に直線でしかない他の魔法と違って任意で操作する事で防がれにくくなるけれど、その分しっかりと操作しなければならない。

 でないと、今みたいに撃っても当たらないなんて事になりかねない。

「体を操るセンスはなかなかだけれど、魔法使いとしてはまだまだね」

 それを本人も自覚しているのか、その顔には悔しげな色が宿る。

 それに、自分が追い詰められているというのも理解しているのでしょうね。

 限られたリングの上で逃げるなら相手を中心に円を描くようにする。ただ、その円の半径が徐々に広がってきている。

 これではいずれリング際に追い詰められるのは目に見えている。そして、そうなればどうなるのかはジークフリートの一回戦の試合を見ていればわかる。

 そして、ついにヨシアキがリング際に追い詰められる。

 その瞬間、ジークフリートはフロントステップ、ランスチャージ、フロントステップのアーツ連続使用による高速移動で瞬く間に距離を詰めていく。

 ここまでは一回戦の再現。でも、その手はすでに一度見せている。

 自らの足下に風球を放ち、その風に乗ってヨシアキは高く跳び上がる。その跳躍はジークフリートを軽々と跳び越える。

 ミナスも同じように跳び越えようとしたけれど、その時とは高さが違う。読んでいても届かない高さまで跳んだヨシアキはそのまま背後に着地した。

 その着地際を狙い、素早く反転したジークフリートはさらに距離を詰めようとするけれど、それをさせまいとヨシアキは火槍を放つ。

 これがファイアボールならジークフリートも無視して突っ込んでいたかもしれない。でも、理解してなのか放ったのはファイアランス。

 そのダメージは流石に無視できないジークフリートは咄嗟に足を止め、大盾で受ける。

 その間にヨシアキは距離を取り、一度詰まった距離は再び開いた。

「案外いい勝負だねぇ」

「そうね」

「どちらが優勢なんですか?」

「現時点だけで言うのならヨシアキが少し優勢ね」

「ダメージを与えているからですか?」

「そこは問題じゃないわ。あの程度のダメージはジークフリートの攻撃力を考えれば一撃でひっくり返るわ。問題なのはジークフリートに攻撃手段がない事よ」

「彼には遠距離攻撃の手段がないみたいだからねぇ」

 とはいえ、今のところ上手くしのいでいるみたいだけれど、ヨシアキは綱渡りをしているようなもの。さっきの回避も少しでもタイミングが狂えば捕まってしまう。

 それに、ヨシアキの攻撃自体も上手く当たらなくなっている。そこに焦って攻め急いでしまえば一気に逆転してしまうかもしれない。

「ヨシアキの魔法のレベルがもっと高ければ有効な魔法もあるのだけれどね」

「魔法のレベルって見ただけでわかるんですか?」

「矢の数を見ればわかるわ。矢はスキルレベル×3本。ヨシアキが放ったファイアアローは十五本だったからスキルレベルは5ね」

 もう一つレベルが上なら一気に優位は傾くのだけれど。

 それでも、現状はギリギリでヨシアキが有利。この状況が続けばヨシアキが勝つ可能性の方が高いでしょう。

 だからこそ、自分から動くべきではない。

「そう言うのは簡単なのだけれどね」

 与え続けられたプレッシャーにヨシアキは勝負を急いでしまった。

 一定の距離を保っていたヨシアキはジークフリートから大きく距離を取り、リング際まで下がる。

 今までよりも長い詠唱。

 ヨシアキが何を放とうとしているのかは予想がつく。一気に勝負を決めるべく、範囲魔法を使うつもりだ。


「ファイアストーム!」


 気持ちが高まった時の癖なのか、本来は必要としない魔法名を叫び、炎の嵐を放つ。

 炎の嵐は瞬く間に広がり、ジークフリートを飲み込んだ。


『ヨシアキ選手の魔法が直撃!全身鎧を着たジークフリート選手ではロータス選手のような回避はできないでしょう!これは勝負あったか!』

『いやいや、まだッスよ』


「魔法を妨害する様子もなかったねぇ。むしろ、これを待っていたように感じたよ」

「そうね」

 重戦士のMIDの低さを考えれば直撃すると一撃で勝負が決まりかねない。だというのに、それを待っていたという事はそれをどうにかする術があるという事でしょう。

 まだ勝負が終わっていないというのは同意見ね。

 だけれど、炎の嵐にジークフリートが飲み込まれるのを見たヨシアキには一瞬気の緩みが生まれてしまった。

 その瞬間、炎の中からヨシアキに向けて黒い塊が飛び出す。

 飛び出してきた黒い塊。漆黒の鎧に身を包んだジークフリートにヨシアキは驚愕の表情を浮かべる。


「ブレイブソ──」


 それでも、ヨシアキもここまで勝ち進んだ猛者。咄嗟に自身の切り札たるブレイブソウルを発動させようとする。しかし……。


「ガアァァァァァ!!」


 ジークフリートから発せられた恐怖を掻き立てるような咆哮にヨシアキの体が硬直する。

 それは決定的な隙。これまでにも見せたフロントステップ、ランスチャージ、フロントステップの連続アーツによって正面から炎の嵐を突破したジークフリートは勢いそのままに騎乗槍をヨシアキの胸に突き立てた。

 物理特化のその一撃の威力は凄まじく、一撃でHP全損とはいかずとも、ヨシアキに直撃してなお勢いは衰える事なくそのままリング外へと突き出した。


『試合終了!見事な逆転劇を収め、ジークフリート選手が決勝へと駒を進めました!』

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