雑貨屋
「じゃあ、簡単に説明するわね」
受付の前から移動した俺達はギルド内の空いていた席に座って向かい合っていた。
「ああ、頼む」
「まあ、そんなに難しい事はないわ。一つはランクについて。ランクはさっき貰ったカードに書いてあった通り最初はEランクから始まるわ。最高はSランクよ。ランクを上げるには依頼をこなしていけば勝手に上がるわ」
「ランクが上がると何か変わるのか?」
「受けられる依頼には制限があって自分と同じランクのものしか受けられないわ。高ランクの依頼の方が報酬もよくなるからそれが利点と言えるかもしれないわね。でも、大事なのはもう一つの方ね」
「ふむ」
「行動制限。ランクを上げないと入れないエリアがあるのよ。ちなみに、Aランクになると王城とかにも出入りできるようになるわよ」
「入れるからといってあまり入りたいとは思わないな。緊張しそうだ」
「まあ、Aランクなんてずっと先よ。それで、依頼だけどあれ見て」
マーネの指差す方に視線を向けると何人かの人が見上げている掲示板があった。
「あれが依頼を張り出している掲示板よ。あそこに張ってある紙を受付に持っていけば依頼を受けられるわ」
「へぇ」
「わざわざそんな事はしなくても受けられるけどね」
「そうなのか?」
「ええ、メニューを見てみて」
言われるままメニューを開いてみるとそこにクエストという欄があった。
それを開いてみるといくつかの依頼が表示された。
「プレイヤーはメニューで依頼を受けられるって事はあそこにいるのは住人って事か」
「そうとは限らないわ」
「プレイヤーもいるのか?」
「雰囲気を楽しむためだったり受付嬢と仲良くなるためだったり色々よ」
まあ、楽しみ方は人それぞれという事か。
「む?なんか☆がついている依頼があるんだけど」
そんな事を考えながら依頼を眺めているといくつかの依頼に☆のマークがついてるものがあった。
「ああ、常設依頼ね」
「常設依頼?」
「常に受けられる依頼よ。他の依頼は住人だったりプレイヤーが出している依頼だから誰かが受けると受けられなくなるの。でも、常設依頼はギルドが出している依頼だからなくならないの」
「ふむ……あ、消えた」
メニューを見ていると表示されていた依頼が消えた。
これは誰かが依頼を受けたという事なんだろう。
改めてギルド内を見回してみると虚空を眺めている人が何人かいる。
あれがプレイヤーで依頼を見ているという事か。
「依頼を受ける利点は報酬ね。例えばこの角兎の肉を納品するという依頼があるでしょ」
「ああ」
「角兎の肉五つ納品で報酬が750D。店で売った場合の相場は一つ100Dだから一つにつき50Dお得って訳」
「なるほど」
大した額でもないように感じるがこれがもっと高ランクの依頼になると変わってくるのだろう。
それに報酬がお金以外のものもある。そこで貴重なアイテムが貰える事もあるのかもしれない。
「じゃあ、とりあえず依頼を受けてみて」
「どれを受けたらいいんだ?」
「常設依頼にゴブリンの討伐があるでしょ。それを受けて」
「わかった」
言われた通りゴブリン十体と討伐という依頼を受ける。
〈ゴブリン十体の討伐の依頼を受諾しました〉
すると、インフォが鳴って視界の端に『ゴブリン0/10』と表示された。
「できたみたいね。じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「ん、ああ」
立ち上がって歩き出したマーネについて俺はギルドを後にした。
「外に行く前に雑貨屋に行くわよ」
「ん?ああ」
ギルドを出てすぐそう言って歩き出したマーネの後に続き、一件の建物に入った。
「ほぉ」
そこは様々な物が棚に並べられた店。現実で見た事あるような物から何に使うのかすら見当がつかない物まで本当に様々だ。
店の中には何人かの先客がいてプレイヤーだけでなく住人もいるようだ。
正直未だにプレイヤーと住人の区別はつかないから確実にそうだとは言えないけどな。
判別するには視てみればいいらしいけど、無闇やたらに他人を視るのはマナー違反らしいからな。
特別知りたい訳ではないのだから今はいいだろう。
俺が店の中を興味深げに眺めているとマーネが俺の前に並べらていた緑色の液体が入った試験管のようなビンを引き抜いた。
「それは?」
「ポーションよ。いわゆる回復薬ね。視てみなさい」
「ふむ」
[ポーション]品質D
薬草を用いて作られた回復薬。効果はあまり高くない。
効果:HP10%回復。再使用時間9分
「この再使用時間って?」
「この手のアイテムは一度使うともう一度使うまでに時間が必要なのよ。ポーションの品質が上がれば回復量は増えるし、再使用時間は減っていくけど、住人の店売り品としてはこんな物でしょうね」
「品質がそんなに高くないのに結構売れているんだな」
綺麗に並べられているポーションだが、スペースの割にポーションの量が少ないところを見るにすでに結構な数が売れているのだろう。
「必須アイテムだもの。当然でしょうね」
「その割に今さら買うんだな」
「私達に必要だった?」
「ふむ?」
思い出してみるとマーネはダメージを受けていない。俺のHPは減っていたがあれはわざと減らしただけで攻撃は受けていない。
「必要なかった、か?」
「あの辺りで狩りをしている分には然程必要ではないわね。それでも一応買っておくってわけ。あと買うのはテントとかかしら」
「キャンプでもするのか?」
「間違ってはいないけど、たぶん貴方が想像しているのとは違うわよ」
頭の中で川辺でバーベキューをするイメージしているとマーネから否定された。
「ログアウトは街中かセーフティエリアじゃないとできないの。でも、テントを使えばそれ以外の場所でもログアウトできるようになるのよ。序盤の移動は徒歩が基本になるから途中野宿が必要になる時があるからその時のためにね」
そう言ってマーネはテントを手に取り、俺に渡してきた。
「あ、お金」
串焼きの時に奢られたのだからここは払わないといけないと思い、手に持っているテントに視線を落とした。
『30000D』
俺の記憶では初期資金は1000D。
おかしい。
全然足りていない。
「この辺りで狩りをするなら必要ないアイテムだもの。もっと遠出するくらいにレベルが上がれば問題なく買える値段なのだれどね」
「むむ」
「気にする必要はないわよ」
「まるで自分がヒモになった気分なんだけど」
「なら、ポーション代を払ってちょうだい」
「いくらだ?」
「一本200D。五本で1000Dちょうどね」
そう言ってマーネは持っていた五本のポーションを振ってみせた。
「仕方ないか」
どうしたってない袖は振れないのだ。ここは妥協するしかない。
俺が納得いっていないのが丸わかりなのだろう。そんな俺の様子にマーネは小さく微笑を浮かべ、レジに向かっていった。




