001
「青井君どうしたのよ? 暗い顔して」
やめてくれもう見たくない。
その悲痛な叫びは聞き受けられない。
最愛の恋人であった星上沙羅との逢瀬の日々。
確かに昔俺は幸せだった。
「なんだ痴話げんかか? 泉」
泉俺の名前を呼ぶな健一!
俺の怒気の籠った声も健一二は聞こえない。
かつての友陸道健一はそのままお茶らけて。
「冗談だって俺とお前の仲だろ? 怖い顔するなって!」
「悪い遅れたなんだ泉? 怖い顔して折角のイケメンが台無しだぞ」
「おう聞いてくれよ! 金無こいつなんか機嫌悪くてよ!」
金無豊最後の怨敵。
もうみたくない認めたくない。
そう必死に繰り返す。
しかし、この光景は事細やかに3人をくっきり映し出す。
決して許すな決して忘れるなと俺の奥から怨嗟の念はとめどなく湧き上がる。
人形のように整った顔に艶やかな黒髪が美しかった最愛の恋人であった沙羅も。
いかにも体育会系の顔立ちで密かに憧れていた鍛えられた健一の体躯も。
抜群の知性を持ち金銭以外のすべてを持っていた俺の最高の友人だと思っていた豊も。
今となってはスベテが憎い。
俺は全て奪われた。
金も女も友人も両親も会社も全てこの3人に……。
ああまたかこの光景なのか何度も繰り返し見た夢これから見せられるのはその運命の日。
俺が全てを失った日。
――――――――幸せだった日々はいつもたわいない日々。
その日は熱い夏の日だった。
俺はいつもと同じく4人で遊んでいた。
俺たちの通う大学は丁度夏休みで課題も終え後は大学の8.9月の長い休みを満喫する予定だった。
「ねぇ青井君今年の夏休みはどこに連れて行ってくれるの?」
「だから名前で呼べって付き合ってんだからさ」
「ごめん青井君どうしてもそう言っちゃうのよ」
俺たちのいるカフェは俺お気に入りの行きつけで空調もたっぷり効いている。
俺はいつもと同じくコーラを注文していて外の熱さを思い出し一気に半分飲んでしまった。
健一と豊はそんな俺たちをにこやかに見つめている。
「まぁいいかどこに行きたい?」
「じゃあ青井君だけで行ってくれない? 地獄へ」
一瞬何を言っているか分からなかった。
「そうだぞお前は地獄に行くべきだ。イケメンのルックスに金持ちなんて即地獄行だ!」
それに続く健一、俺はどうとらえればいいか分からず豊に視線を飛ばす。
「泉冗談だと思っているともうが全てマジだ」
「ねぇ豊ネットバンキングと銀行の通帳の口座の残高全て移せた?」
「おう、全てこっちの裏口座に移動済みだすでに複数の海外の口座に分割してある。これなら全て取り返すのは不可能だ」
「やりい! これで俺も高級車が買えるぜ!」
「ねぇ豊こいつが未だに理解できてないから教えて上げれば?」
「沙羅も残酷な奴だな。俺たち付き合ってんだ」
そのまま沙羅を抱き寄せ口づけを交わす。
どういうことだ。
理解が追い付かない。
なんで俺は名前で呼ばないのに豊にだけ?
「貴方のお父さん相当の馬鹿ね! 私が股を開いたら重要な情報全て教えてくれるんだもの!」
「ひでー女だな。やった後酒に脱法ハーブ入れて通帳の隠し場所ゲロさせたくせに」
「うるさいわよ健一! やる事やったんだからいいのよ!」
「これでまた整形すんだろ」
「仕方ないじゃない! 女の美の欲求は永遠なのよ!」
「泉知らなかっただろ? 沙羅の美貌は全て作りもんだ。お前だけにこいつ股開いてねーんだよ! ひーでだろ」
「そういうわけよ! 私みたいに普通の女の子がこんなに可愛くなるにはお金が必要なの! だから貴方の家のお金沢山使うね! 今だったら一回ぐらいシテあげてもいいのよ?」
「駄目だぞ沙羅お前は俺のもんだ」
「豊ったら」
「こんな整形モンスターのどこがいいのかね」
「だって可愛いだろ!」
「へい、へい、のろけ、のろけ」
「豊こいつ固まちゃったよ?」
「大丈夫そろそろ効いてくるはずだ」
何がどうなってんだ?
だんだん頭はぼんやりして視界が暗くなっていく。
聞きたい事も言いたいことも山ほどあるのに口に出す力が出ない。
「まじで効くのか豊――薬?」
「成分的には適量の――大体こいつが――キロだからさっきのコーラにいれた薬を――して」
「ねぇこいつ――はどうするの――して始末するの?」
「流石に――は足がつきそうだから――俺はパスだぞ」
「最後にかける情けだ。命は取らねーよ。俺たちの大事なご友人様だからなははははは」
豊の声だけは何故かはっきり聞こえた。
その言葉と高笑いに怒りという感情が一瞬揺らめいたが。
そのまま俺の思考は暗転し意識の底に消えていった。
結構すぐにゴールドラックは開始します。
密度高めです今回の作品