016
前半はプロローグと同じですが後の方は普通に新作です。
読み飛ばさないでね
「てめぇ! よくも沙羅を!!!!!!!!!!!」
かつての友人であり今となっては敵でしかない。
豊の通信が響く。
豊の顔は見えないが豊の乗る黑い人型の機体から煙が立ち上る。
確か俺たちの乗る機体は痛覚こそは繋がっていないが体の延長だとか言ったか実の分かりやすい反応だ。
これで豊の機体が真っ赤になれば完璧なんだが。
「とどめの一発を打ち込んだのはお前だろ? 豊」
沙羅の無残に爆散した機体の残骸に視線を飛ばしつつ道端のゴミのように残骸を蹴り飛ばし。
たっぷりと嫌味を込めた俺の言葉の尾尻は僅かに高くなる。
俺の言葉には嘘偽りはない。
だからこそういったのだ。
最愛の恋人を自ら止めをさすのはさぞ辛い事なのは言うまでもない。
「ぶっ殺してやる!」
「おいおいお前だってわかってるだろ? この戦いに負けても死にはしない。ただどん底に落ちるだけだ俺のようにな!」
「黙れ! 俺たちの幸せな未来をよくも!」
激昂する豊の様子に口元がつり上がる。
「残るはお前だけだ! これで俺の復讐は終わる! 豊ぁあああああああああああああ!!!!」
俺は自分の分身たる機体で二振りのナイフを構える。
豊は銃だ。
豊の奴いい能力を当てたものだ。
遠距離からなら勝ち目は薄いがこの距離なら十分勝機はある。
「ハチの巣にして地面にばら撒いてから、形がなくなるまでお前を機体事ぶっ壊してやる!」
その言葉に思わず俺の口もとはさらにつり上がった。
このスリルと緊張感、そしてそれを乗り超えた勝利した時にすっかとした気持ち。
実に復讐が無意味であるというのが戯言であると実感できる。
誰しも心のどこかでわかっているはずだ。
恨みを怨敵の返したいと。
そして多くの奴らが分かっていない、それがどれだけ爽快な気持ちであるかと。
憎い相手を殴る事と八つ当たりで自分より弱い奴を殴る事は、全く違う心境をもたらせてくる。
その爽快な気分は八つ当たりなどでは決して味わえない一級品だ。
それを享受するためには勝たなければいけないが。
まぁ勝てばいいだけのことだ。
豊の機体の持つ両手の銃の射線軸は真っ直ぐ俺の機体の頭に定めた。
どうやら距離を取る気はないらしい。
好都合だ仮に距離を取ろうとしてもこの距離なら問題はなく接近戦に持ち込めるだろう。
――――――――暫しの沈黙にらみ合い。
豊の機体から煙は立ち上るのを止めた。
冷静になったかいい判断だ。
さらに数呼吸後豊が先手を取った。
俺は引き金を引く気配を感じてから。
先にお互いの刃が届いたのは――。
豊かだった。
豊が手にもつ銃はスナイパーライフル。
先ほど俺を狙った銃だ。
だがその程度の銃では俺の感覚超活性Sでぎりぎり見切る事が出来るはずだった。
俺は一瞬何をされたか分からず。
穴の開いた、右肩に手を添わせる。
何をされた?
発射音の後気づいたら肩に穴が。
俺が見切れない弾丸?
それとも俺の感覚超活性Sで強化された眼でも見切れない、単純な弾速が?
どちらにせよ。
俺は走り出したこの接近戦に持ち込める距離を保ちつつ。
豊の周囲を円を描くように。
同時に砂塵操作Sで右肩の弾を砂塵を使い押し出し、壊れた部分を砂塵を固め応急処置をする。
走りながら右肩を回してみる問題ない。
「逃げるな! 泉ぃいいいいいいいいい!!」
「何だお前も気づいたのか!」
「当たり前だ! 沙羅と健一をピンポイントで狙う奴はお前だけだ! お前以外であの二人を両方とも知っている奴はいない!」
豊は連続で銃を発砲、だがおかしい。
発射音に対して見える弾丸の数が違う。
同時に足元に届いている弾丸と、宙に留まっている弾丸それが二つある。
遅い弾丸、最高の硬度で作ったナイフを当てる。
当てるというより置くというのが正しいか、感覚超活性Sは体の機能を何倍にもする能力ではない。
感覚が主だ。
感覚が超活性される事で視界にあるモノをスローモーションのように見ることができる。
その鈍足に見える攻撃を最低限の動きで交わすことができる。
これが攻撃が足らないからくりはこれだ。
そのため自分の体は同じく鈍足、いや僅かに補正が入るのか相手より僅かに早い程度だが大きな差ではない。
だからナイフを置いたのだ。
次にナイフに弾丸が当たった。
バキーーーーーーン! 金属音が聞こえナイフは跡形もなく砕け散った。
何だこの威力尋常じゃない……沙羅を豊かにやらせて舞い上がって少し浅慮がすぎたような。
どうやら威力のある弾丸と弾速がとてつもない弾丸が放てるようだな。
いやおっさんをやった時の事を考えると通常弾も打てるわけか。
だが距離を取れば弾速の早い弾で狙い撃ちされる。
「ちょこまかと!」
豊のスナイパーライフルが光に包まれ、ショットガンに変わった。
「これならどうだ!」
やはり豊は弾速の早い散弾を使ってきた。
無造作の撃つ散弾は滅茶苦茶で、冷静な豊かにしては珍しい。
ショットガンの散弾の範囲攻撃+弾速の加わった豊の攻撃は完全に避ける事は出来ない。
だが、俺は砂塵操作Sで体に薄い流動する砂の膜を作り防御する。
流動する砂の膜が散弾の威力を相殺しているのだ。
「健一は可哀そうな奴だった! 親に恵まれず金に恵まれず! 金を無心し続ける両親の為に働かねばならず学校も通えず! 幼少からバイト生活! アイツはいい奴だった!」
さらに散弾をばらまく豊。
だが早いだけで威力のない散弾では俺の砂の幕は破れない。
「沙羅は可哀そうな奴だった! 容姿に恵まれず! 両親に虐待されて育った! 小さい頃から何度も両親に体を売らされた! だから沙羅は汚れ醜い自分を嫌いは美に憑りつかれた!」
「だからどうした! いくら不幸だからって! 他人を不幸にしていい理由にはならんぞ!」
「ああその通りだ! だが俺たちみたいなドブネズミには、奪う道しかない! だからい奪ってやった! まず最初に俺たちを苦しめた親の命を! だがまだ足りなぇ! 俺はお前を倒しそれで得た金運と願いを叶え! 俺たちは幸せになるんだ! 健一沙羅お前らの運、俺が元に戻してやるからな!」
だからどうしたとあえて言わない。
豊もわかっているのだろう。
もうお互い引けるわけがない。
どんなものを背負っていても――。
どんなものを求めていても――。
どんな希望を持とうと――。
全てはたった一人勝利した先にしかない。
「泉さん最終手段を使いますか?」
「ピクティ却下だ」
「何故ですか?」
「ピクティは言ってた過度の干渉は自分の存在を消去されると、俺は最終手段なんて用意してない。あるとしたらピクティだけだ。そんなのは許可できない。君は見ていてくれ! 絶対勝つから! 負けるとしても記憶に残るように派手に負けて見せる!」
「了解しましたそれは保留します」
「何をべらべらと! これならどうだ!」
豊が出してきたのは大型のガトリングガン。
これは――。
「これでそこに隠れている奴らとお前をぶっ壊す!」
やはり気付いていたか、俺の後方のクレーターの中に隠れている奴らを、そりゃそうですよねー。
ちらちらこっち覗いてんの丸見えだもん。
よくこんな奴らが生き残ったもんだ。
つーかこの戦いを見てリタイヤしない……自信があるのかそれとも。
とりあえず砂塵操作Sで奴らの上空に刃を落とす狙う気はないが、クレーターから追い出すように右から左へ連続して刃を落とす。
「うお!」
「やべ出ちゃったよどうしよ!」
「だから言ったじゃんこの隙にリタイヤしようって!」
「お前がいうよな! 後半漁夫の利を得るってその気だったじゃん!」
「もうやけくそだ! 皆行くぞ! 武器を出せ!」
そこの黄色い3人囮になってもらうぜ!