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王国編Ⅲ

少しグロ注意です

 『天才の誕生』。人々はそう言っている。

 今では別の言い方で『悪魔の子供』と言われもする。


 ある日、ごく平凡な家庭から生まれた子供はステータスが異常だった。

 他の赤子に比べ、3倍も差がでて生まれてきたのだ。

 両親はそれに驚き、親族に聞いても何も解決はしなかった。

 街で一番人を見てきた(おさ)に聞いてみるも『初めて見た』という返事だけ。

 話は広がり、やがて国王にも話が広がった。

 国王はその赤子と両親を城へ呼び、将来仕えてほしいと頼んだ。

 それは自分の子供の将来を決めてしまうことではあるが、この場で断ると首が飛んでしまうかもしれない。

 しかし、国王に仕えることは庶民にとっては勝ち組。親としても鼻が高いことだ。


 子供は普通に育ち、5歳を迎えた。

 他の子供と言っていること、やっていることは同じだった。

 将来の夢も『旅に出て魔王を倒す』と両親に話していた。

 両親ももしかしたらこの子ならできるかもしれない。そう思い始めていた。


 ある日、王国戦闘部隊の一人が子供に会いに来た。

 理由は国王からの命令。現状を知りたいとのことだった。

 他の子供と変わりはなく、魔王を倒すと意気込んでいる、と両親話した。

 使者はそのことを国王に伝えた。

 国王は『それなら勇者が現れた時の旅のお供にさせてもらうのがいいかもしれない』と語っていた。

 同時に使者にもう一つ命令を下した。『あの子の相手をしてやりなさい』と。


 子供は新しいおもちゃを手に入れたかのようにすごく喜んでいた。

 誰よりも早く強くなりたい、旅を出たいと思い、剣の練習や魔法の練習も進んで行っていた。

 8歳の時に起きたことだ。

 子供はいつも通り練習してくると言って外へ出て行った。

 しかし、夜になっても帰って来ない。両親は不安になり、探しに出た。

 練習をする場所を知っていたため、真っすぐにそこへ向かった。

 そこには子供と倒れていた男がいた。

 ただ倒れているだけではない。

大量の血が流れていた。

 両親は不安ながらも『どうしたの?』と聞くと子供は『襲い掛かって来たから斬った』と答えた。

 両親は初めて自分の子供に対して恐怖心を覚えた。

 自分たちでも敵わないであろう王国戦闘部隊を倒したのだ。

 これは職業という差もあってのこと。

 もし剣士になっていたら倒せるかもしれないとしても今では到底勝てない。

 職業が違うだけで敵わない相手がいる。

 そんな人を子供が斬ったと言っているんだ。


 両親は子供のステータスプレートを見た。

 職業のところは未だに空白。これはまだ職業についてない子供の証ともいえる。

 そうなると子供は己のステータス、個人の才能だけで倒したことになる。

 何より驚いたのはステータスだ。

 生まれた時は全体的に3倍だったステータスが変わっていた。

 およそ10倍までにも引きあがっていた。

 国王は事件を聞き、もし本当に襲ったのならば顔が立たないと言い、信頼のおける王国戦闘部隊隊長を向かわせた。

 両親は不安がるも王国戦闘部隊隊長のことを知っており、安堵した。

 子供は喜んでいた。無邪気な笑顔で。

 また、新しいおもちゃが手に入ったように。


 練習はさらに厳しいものとなった。

 時間は変わらないものの、剣や魔法、勉学を満遍なく高水準で行われていた。

 周りの子供たちは羨ましがるも、尊敬もしていた。

 子供が10歳になるとき、職業を選ぶ時が来たのである。

 一部の職業は選ぶことはできず、天命の如く決められる。勇者はその一つだ。

 と言ってもそれは生まれた時に既に刻まれている。

 この子は勇者ではない。けど、期待はできる。

 そんな風にみんな思っていた。


 職業を選ぶときは教会で行われる。

 神様に報告すると伝わっている。

 勇者などは神様が決めているからほかの人間のことは知らない。だから報告する、と。

 牧師が『どの職業にするか』と問うと子供は『騎士になりたい』と答えた。

 ステータスカードに文字が刻まれていく。

 しかし、そこには望んだ職業(こたえ)が刻まれることはなかった。

 そこには『堕天使』と書かれていた。


 堕天使は神に反逆し、追放された天使。

 要するに神に逆らう存在ということだ。

 そんなことを教会で刻まれたのだ。もちろん周りの目が一気に変わった。

 期待の目から虫を見るかのような目へと、変わっていった。

 このことは教会にいた者だけが知っており、内容はタブーとなった。

 しかし、国王に報告しないのは愚の骨頂。自ら首を絞めることと同じだ。

 嘘偽りなく、国王の耳へ届いた。

 国王の命令は他言しないこと。監視することだった。

 勇者が現れた時はどうするのかと質問を受けるも国王は無言。返事はなかった。


 このことは両親に話された。

 子供には酷であるとのことで子供には聞かれないように。

 しかし、不運なことにそのことは子供に聞かれてしまった。

 両親の答えはすぐ返ってきた。

 『たとえどうであれ、あの子は私たちの子。これだけは変わらない』と。

 この言葉のおかげで子供はいつも通りへの自分に戻った。


 職業が書かれた翌日。

 子供はいつも通りに練習をしに行った。

 両親もいつも通りに接した。

 また元の日に戻るようにと。

 ――そう簡単にはいかなかった。


 どこから聞きつけてきたのか分からないが、子供を手に入れようと動き始めた集団がいる。

 いつもの練習場所に人が入ってきた。

 一人二人どころではない。十人以上もいる。

 全員武器を持っている。戦闘態勢だ。

 だからと言って有利なのは子供の方。

 何せ王国戦闘部隊隊長がいる。こういう争いごとにも慣れている。

 しかし子供は手伝うといい、人生で二度目の戦闘を行った。

 驚くことに戦果は子供のほうが多かった。

 隊長は褒めようと子供に近づこうとしたが足を止めていた。

 子供は満面の笑みだった。


 それからも何度か襲い掛かってくることがあった。

 実に5年間。15歳になるまで続いた。

 隊長も原因を探るも手がかりは一つだけ。

 襲い掛かってくる者全員が前科を持っていることだけだった。

 捕らえるも何も吐かない。誰一人吐かなかった。

 何か強い権力が動いているかもしれない。

 襲い掛かる敵の方ばかりを考えている間に子供は悪魔に豹変した。


 事件は子供が王国戦闘部隊の訓練に参加したときに起きた。

 実践はもちろん、王国戦闘部隊隊長と肩を並べるほどの実力までに成長していた。

 国王も話を聞き、訓練を上から見ていた。

 報告は本当か気になり、試しに模擬戦をしてみろと命じた。

 それが不幸の原因となった。


 第一試合。王国戦闘部隊の下っ端が相手だった。

 結果は子供の圧勝だった。しかし問題が起きた。

 周りは驚き、止めに入ろうとしたがすでに遅かった。

 敗者の首を飛ばした。

 さすがにやりすぎと言っていたが、まだ実力が見れていない。

 殺すことは禁止し、次は中の上の者が相手になった。

 また圧勝。今度は首を飛ばさなかったものの、また問題を起こした。

 今度は手当たり次第に骨を砕いていった。

 死なないもの、後遺症が残るレベルで。

 これには国王は怒り、隊長を連れて来いと命令した。

 それがまた不幸を呼んだ。


 隊長が国王のもとへ行くと下が騒がしくなった。

 騒がしさの中心は先ほどの子供。

 目のまえにいる王国戦闘部隊を斬っていった。

 一人、また一人と。

 国王と隊長は動けなかった。

 ただ、子供に起きていく変化を見ることしかできなかった。

 子供には真っ黒な羽が生えていた。


 動いたときには全員が斬られた後だった。

 隊長は子供に聞いた。『なぜ皆を斬ったのか』と。

 子供は『ただ殺したかったから。血を浴びたかっただけ』と答えた。

 国王は死罪を告げ、隊長は抵抗がありつつも行動に移した。

 しかし、実行までにはいけなかった。

 子供はすでに隊長と肩を並べていたため、なかなか仕留めれない。

 隊長は隙を見つけ、剣を振ったが致命傷とまではいかないものの、右目に切り傷を付けた。

 『右目を潰した。今なら倒せる』そう思ったとき、不自然なことが起こる。

 子供の右目が治っている。魔法も使わずに。

 隊長の手が止まり、子供は反撃をして隊長を突き飛ばした。

子供はそのまま飛び去って行った。


 それから3年間。

 子供の行方を知っているものはいない。





「いい買い物したね!」


 剣を手に入れ杖を買った。

 せっかくなので剣は腰に下げておいた。

 様だけはなっているだろう。


「買い物も一通り終わったし、そろそろ帰るか」

「じゃあ馬車に戻ろうっか。長い間待たせて――」

「ちょっと待って」


 あいつは馬車から降りた時に俺たちを見ていたやつだ。

 どうしてここに?まさかついてきていたのか?

 くそっ!目があったら逃げやがった!


「サツキ、走るぞ!」

「ちょっと!どういうことなのー!!」


*


「てめえは誰だ?どうして俺たちにつけているんだ?」

「…勇者。君は圧倒的な力を手に入れてどう思った?」

「いいから名乗れよ。そっちが先だ」

「俺はガガリア・コモン。答えたぞ。俺の問いにも答えろ」

「嬉しかったよ。楽しめそうだからな」

「そうか。そうだよな。そうだよ、なぁ?」

「!?!?サツキ!!離れろ!!その物陰まで逃げろ!!」

「えっ!?どういう――」

「いいから!!早くしろ!!!」


 何だあいつは…。なんであんな笑っているんだ?

 気味が悪い…。


「っと、まだ成長も何もないな。まるで赤ん坊だ。なら少しかじるだけにしておくか」

「なにブツブツ言ってるんだ?」

「こっちの話だ。気にすることはない。それより剣を持て、死ぬぞ」

「ちっ。追いかけるんじゃなかった…」

「構え方も素人か。仕方ない。ほら、かかってこい」


 ガガリアと言っていたな。

 あいつも剣を持っていたが俺が構えると剣を下した。

 よほどなめられているな。

 剣道は授業で少しやったぐらいだが成績はそこそこよかった。

 その余裕、後悔しろ!


「うおおおおお!!」

「ふむ。攻撃力は高いな。素早さもある」

「なっ!?」


 ど、どういうことなんだ…?

 確実に心臓を狙って剣を突き刺した。

 それなのに、なぜ余裕でいられるんだ?

 …不死身なのか?


「どうした?刺したのは君なんだろう?なぜそんなに驚いている?」

「バカ言うな。人間なら剣が胸に刺さったら普通は死ぬ。人間じゃないのか?」

「いや、人間だ。『部分開示(ステータス・オープン)』」


 これはステータスカードなのか?

 名前と種族、職業しか見れないけど。

 こんな機能があったのか。

 名前に偽りはなく、種族も人間だ。


「『堕天使』…だと?人間なのにか?」

「ああ。それは俺も知らない。これで人間だと分かったか?」

「ああ、わかったよ。化け物だってな!!」

「おおー。いたいいたい。こりゃあ大けがだな」

「はっ!嘘つくなよ」


 胸に突き刺した剣を薙ぎ払った。

 穴が空いたどころではない。体が斬り落ちてもおかしくはない。

普通だったらとっくに死んでいる。

 そのはずだった。

 ガガリアの傷は目にも止まらない速さで治っていった。

 そんなケガなんて元々なかったかのように。


「まぎれもない化け物だな」

「こっちからもいくぜ。うぉら!」

「あぶなー―ぐわっ!!」

「はあ、やっぱりな。まだ駄目だ」

「どういう、ことだ?」

「勇者だからステータスもぶっ飛んでいるだろ?それに頼ってしまっている。無理もない。俺もそうだった。

 魔法もあっただろう?なぜ使わない?使っていたら多少でも傷をつけれただろう。

 ようするに戦闘慣れしていない。実践をしたことがない。そんな素人が勝てるわけがないんだ。たとえ勇者でもな。ふーん、やっぱステータスは高いな」

「返せ!」

「返すとも。こんなの貰ってもいらないかな。ついでに現実も見てみろ」



Name:ガガリア・コモン(人間)

Job:堕天使Lv.38

HP:85,000/86,000

MP:650,000/650,000

ATK:8,000

MATK:5,500

DEF:8,000

MDEF:4,500

AGI:6,000

LUK:70



「嘘だろ…」

「これが俺とお前との差だ。実力はおろか、ステータスでも負けている。てめえは過信し過ぎている。それが敗因だ」


 それも敗因の理由だろうな。

 一番の敗因は俺のこの性格だろう。

 すべてを下に見ている。それゆえに勝てるという前提で動いていた。


「今壊すのには惜しい…そうだな、しばらく待とう。次会うときは潰す。それまでには腕をあげろ」

「ぐっ…」

「いい目だ。その目を忘れるな。次会うときを楽しみにしている」


 ガガリアは姿を消した。

 負けだ。完敗だ。

 バカみてぇだ。笑いが出てくるそれほどまでの完敗だ。


「ジン、大丈夫…?」

「なあ、サツキ」

「…どうしたの?」

「俺、弱いよな」

「そんなこと…」

「弱いよ。今でも勝ちにこだわるただの子供だ。ケンカを売られれば買っちゃうし、命令をされればイラつく。だから人の上に立ちたい、そんなことずっと思っていた。…やめたほうがいいみたいだな。こんなやり方」

「…ジン、私が言えることは、ジンは仁のままでいいと思う。私を誘ってくれた仁、みんなをまとめ上げてくれた仁、そして私が惚れた仁。ジンは仁だから変わらなくてもいいって思う。前の仁ならそんなことを言わないで前に突き進んでいたと思うよ」

「……ありがとう」

「…うん」


 サツキに助けられてばっかりだな。前も、今も。

 やっぱり俺は弱い。強くなると決めたのに。


*


「『即効回復(リカバリー)』…これで回復するのかな?」

「出来ているよ。痛みが引いてきたし。それにあいつも手加減してくれていたみたい」

「そうだったのね。…ジン、ジンが強くなるなら私も強くなるよ」

「…うん」

「知ってた?ジンって隠しているつもりで全然隠せていないんだよ?」

「例えば?」

「生徒会長になった理由。あとあの神様がジンの言っていたことを真似したとき怒っていたこと」

「ははっ。自分で出来ていると思ってもダメなもんだな」

「気づいているのはたぶん私だけだと思うけどね」

「やっぱり、俺の目には狂いはなかったんだな…。よし!すっきりしたことだし帰ろうか!」

「うん!明るい方がやっぱりいいよ」

「ああ!これからは新しい俺だ」


 決意した夜、新たな自分を見た昼。

 一回の負けから自分の成長を実感した。





「どうだったガガリー?楽しかった?」

「ミネルか。また勝手に見ていたな?」

「いいじゃない。みんな気になっていたのにガガリーが抜け駆けするからよ」

「それで、ついてきたのはミネルだけか?」

「ええ。みんなお仕事で今はいないからね」


 民家の屋根の上。誰からも見られない場所だ。

 ガガリアは飛び、ミネルは水の泡に乗っかり浮いている。

 二人は悠々と街の人間を見ながら話していた。


「ミネル。たまには貴様も仕事をしろ。3人に任せっぱなしはやめろ」

「そういうガガリーも全然やらないじゃん!自分ばっかりズルいよー?」

「…ふんっ」

「あれあれ?図星?ガガリーって自分に不利になるとすーぐそれだよねー」

「黙れ。それ以上口を開くな」

「あはははっ!やっぱり消化しきれていないね。私も火増していたし、少し戦おうか!瞬間移動(テレポーテーション)


 急に二人は姿を消すと、海の上にまで移動していた。


「おい、勝手なことをするな。帰るぞ」

「ここまでして帰るの?こうすればいいかな?早く来いよ、ザコが」

「…!!てめぇ」


 ミネルはよっぽど戦いたかったのか中指を立てて挑発をした。

 言葉も重ね、ガガリアは戦闘態勢になった。


「5分だ。それ以上は続けない」

「おーけー。ほらほら、かかってきなよ」

「いい加減その口を閉じろ」

「あちちっ!もー、そんなに怒らないでよー」


 浮かんでいるはずのガガリアの下の水は蒸発している。

 しかし、ミネルはそれを面白そうに見ている。

 何より熱いと言っているも、まったくそんな感じはしない。


「『巨大水球(アクアボール)』からの『人魚化(セイレーン)』!よし!遊ぼうか!」

「『炎鎧』、いくぞ」


 誰も知らない海の上。

 そこでは人知れず人であり、人ならざる戦いを繰り広げていた。

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