王国編Ⅰ
「ここでございます。ここなら何かあった場合でも我々がすぐ動けますので。私は仕事に戻らせてもらいます。何かわからないことがございましたらそこにいる門番兵に聞いてくださいませ」
村のはずれに練習するためのスペースがあった。
使い古された練習用の人形。敵が入ってこないための柵。村でも訓練を怠らないようにしているようだ。
後は裏に新しく書かれているのを確認してから練習するだけだ。
俺にはそんな説明なかったからよくわからないが、これも勇者のおかげなんだろう。
えっと、確か裏には威圧しかなかったけど
◆
・戦闘スキル
『火炎魔法Lv.5』『水魔法Lv.5』『雷魔法Lv.5』
・付属スキル
『威圧Lv.2』『能力向上Lv.3』『飛行Lv.1(MAX)』『高速思考Lv.3』
・常用スキル
『瞬間移動Lv.1』『倉庫Lv.1』
・耐性
『全物理攻撃耐性Lv.2』『全魔法攻撃耐性Lv.1』『武具拒否無効Lv.1(MAX)』
◆
レベル0の時に見た時とは全然違っている。
なによりさっきとは違い、増えたおかげか各項目で分けられている。
見やすいには見やすいけど何があるのか全然わからない。
俺はこんな感じだけどサツキのほうはどうなんだろう?
同じ勇者だから似たような感じだとは思うが。
「どうしたの?お互いに見せ合う?」
「出来ればそうしたい。まだ何もわからないからね」
「いいよ。はい」
◆
・戦闘スキル
『火炎魔法Lv.5』『水魔法Lv.5』『雷魔法Lv.5』『土魔法Lv.5』『風魔法Lv.5』
・付属スキル
『回復Lv.5』『能力向上Lv.1』『飛行Lv.1(MAX)』『高速思考Lv.2』
・常用スキル
『瞬間移動Lv.1』『倉庫Lv.1』
・耐性
『全物理攻撃耐性Lv.1』『全魔法攻撃耐性Lv.2』
◆
「どうやら俺は武器を持つスタイルでサツキは魔法ってことか」
「いろいろ書いてあるけど、結局何が何だか分からないね。聞いてみたほうがいいのかな?」
「そうだね。すみませーん!」
「どうかなさいましたか?」
「これについて教えてもらいたいんだけど…」
「それでしたら見たい項目を触れば文字が変わっていきます」
「そうなの?ありがとう」
まるで小さなスマホだな。しかもめちゃくちゃ薄いタイプ。
項目を触ればいいんだよな?
さて、どんな魔法を使えるんだ?
◆
ジンの戦闘スキル
・火炎魔法
『火球』『火柱』『爆炎』『火炎牢獄』
・水魔法
『水圧砲』『脱水』『湖化』
・雷魔法
『雷撃』『麻痺』『電撃玉』
サツキの戦闘スキル
・火炎魔法
『火球』『火柱』『火の海』『爆炎』『火炎牢獄』
・水魔法
『水圧砲』『脱水』『海化』『雨』『氷結』
・雷魔法
『雷撃』『麻痺』『電撃玉』『放電』
・土魔法
『岩石飛ばし』『土人形』
・風魔法
『風圧』『竜巻』『斬風』
◆
けっこうあるな。せいぜい2、3個かと思ったけどさすが勇者だ。
これは覚えるほうが大変そうだな。
使っていって慣れていくしかないな。体で覚えらせた方が早い。
それにしても俺よりサツキのほうが使える魔法が多い。
俺とは違って多種多様な技を使えることになる。正直羨ましい。
組み合わせによっては化けるかもしれない。
ここまでぶっ壊れてるんだ。俺の方も期待しておこう。
「さっそく使ってみよう。これなんかどうだ?火球」
目のまえに火が現れた。
単に魔法名を言うだけで発動された。
…それにしてもおかしい。火の球というより業火だ。
魔法攻撃が高いとこうなるんだろうな。
「すごいねジン。私もやってみようかな。火球!」
俺より魔法攻撃が高いだけあって俺のより断然でかい。
恐ろしいものだ。ステータスがすべてを言う。そんな風に言われているみたいだ。
まだほかにも魔法はある。時間もある。
もう少し試してから戻ろう。
*
「勇者様方。お忙しいところでございますが、こちらをお読み下さい」
「手紙?誰から?」
「国王からでございます。勇者様方はご存知でしょうか?」
「いや、何も情報が入ってこないところで育ったんだ。周りのことは全然知らないから少しでも知りたい」
「さようでございますか。では軽くご説明いたします。私たちの村はアストロール王国に帰属しております。ここで起きた出来事は必ず報告しなければならないため、勝手ですが勇者様方のことを報告しました」
「勝手にねぇ…」
「大変申し訳ありません。そうしないと私たちの村は崩壊してしまうのです。勇者が現れた際はすぐに報告せよという決まりなのです。そうしないと魔王に怯え、滅んでしまいます」
「…そうか。それなら仕方ない。何も知らないで言っちゃってごめん」
「いえいえ。滅相もございません」
やっぱり威圧は使わないようにしておいてよかった。
何より印象が悪くなるからな。
っと、手紙を読まないと。
えっと、予約すると『勇者になれておめでとう。余の国でみんなを歓迎したい。使いもよこすからぜひ来てほしい』か。
この”ぜひ”はほぼ強制的なものだろうな。
「村長。村の入り口に馬車とか来てるんじゃない?」
「よくご存知で。さすが勇者様です」
「どういうこと?」
「この手紙の返事を書けないからもう使いを出しているんだ」
「…うーん?」
「相手は国王。理由はともあれ押し通すだろう。何せ周りはそれに従わないといけないみたいだからね?」
「…さすがです。国王がお決めになったことに歯向かうと命がなくなることもあります」
「ひどい国王じゃない!」
「まあまあ。ここで俺たちが断れば村長のほうが危険になる。もし村長に何かあったら勇者の悪い噂でも流すんだろう。何も知らない状態で行けばゲームオーバーだ。もう行かざるを得ない」
またか。あいつにかかわってから嫌なことが多い。
だからと言って逃げるのも愚策だろう。自分で自分の首を絞めることだろうし。
しゃあない。さっさと行って要件を済ませよう。
「じゃあいこうか。サツキは準備が終わったら声かけて」
「あー、ジンもだけど新しい服が欲しいかな。この服だと目立つし…」
「それでしたら村でご用意いたしますよ」
「ありがとう!ジンも一緒に行きましょう」
*
「お待たせしましたサラウディ様」
「ああ、ご苦労だった。そちらが?」
「勇者様のジン様とサツキ様でございます」
「勇者様方、初めまして。私はアストロール王国戦闘部隊隊長のサラウディ・シンドロールと申します。王国まで私が護衛いたします」
「ああ、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いいたします。では早速ですが行きましょう。お話は移動中にいたします」
気が早いな。もしくは国王の命令か何かだろう。
それとも村長の前で言えないことでもあるのか?
別に王国まで安全にいけるならそれに越したことはない。
どっちにしろ、行かないといけないだろうしな。
よくよく考えればそのうち必ず会うし、それなら早く終わったほうがいい。
「思っていた馬車よりガタガタするね」
「道路は舗装されてないし薄いクッションを敷いただけだからな。つらいなら無理するなよ?」
「うん。ありがとう」
「申し訳ございません。これでも最上級の馬車でございます。貴族の方もあまり好まれないようで…」
「ごめん、別に嫌味で言ったわけじゃないんだ。そんなに頭を下げないでください」
「頭を下げている理由はもう一つあります。この度は国王様がお待ちになっておりますと書かれておりましたが、実は今、国王様は他国との会議の為、王国におりません」
「え?それじゃああの手紙はどうしたの?」
「あれは元々国王様が書置きされたものでございます。このような場合を予想しており、古いものを出さないよう毎週毎週書かれておりました。
それでお聞きになったんですが勇者様方は情報をお求めになさっていると聞きました。アストロール王国ではたくさんの書物がございます。他にも外に出ればたくさんのお店もございます。国王様がお戻りになるまでどうか王国に滞在してもらいたのでございます」
「俺は情報が手に入ればいいけど、サツキはどう?」
「私はお店に興味あるかな。村長からもらった服いいにはいいけどこれだけじゃあね…」
「ご安心ください。王国には貴族もいるため服はたくさんございます。もちろんお金は必要ございません」
すげえVIP対応だ。
偉い人はいつもこんな風に扱われたのか?羨ましすぎる。
来いと言われて行ってるんだがこんな対応されたのは初めて。気分がいい。
お店もたくさんあるしこっちで将来の勉強をする必要はない。
ただ魔法やスキル、武器について学ばなければならないけどね。
せっかくだし国王が返ってくるまでゆっくりしよう。
「ちなみにいつぐらい戻ってくるの?」
「恐らく数日もしないうちに帰ってこられます」
「わかった。俺たちは無一文だから頼むよ」
「お任せください。こちらですべてご用意いたします。王国へ着くまでごゆっくりどうぞ」
ごゆっくりどうぞって言われても…。
ガタガタだから寝るに寝れない。
尻もいたいし出るに出れない。
早く着いてくれーー!!!
*
「勇者様方。王国が見えてまいりました」
「ん?ああ」
「んー…?」
「サツキ、起きて。そろそろ着くよ」
「ふぇ!?!?私寄りかかっちゃってた!?」
「そうみたい。俺も寝ていたから今気づいたけど」
「ご、ごめんね…?」
「別に構わないよ。よく寝れたみたいでよかったね」
生徒会の時もそうだったけど普通に女子とはしゃべれていた。
けどこんなに近くだと流石にドキドキしてしまう。
なんせ相手が学校のアイドル的存在だったし好みだし。
もしかしたら俺、顔が真っ赤になっているかもしれない。
「勇者様方…。よろしいでしょうか…?」
「「大丈夫だよ!!」」
「さ、左様でございますか。街中で降りますと目立つのでいったん城まで向かいます。よかったら窓から街をご覧くださいませ」
「おお!」
「すごいな!」
現代的とは程遠いが中世の街中みたいだ。
まさにゲーム、RPGと言わんばかり。
観光にはもってこいな場所だな。
「あちらに見えるのが今向かっている城でございます」
「勝手に客をいれてよかったんですか?」
「すべて国王様があらかじめ命じておられたので大丈夫でございます。自分の家だと思ってください」
「家って…。こんな大きな建物に入るのすら初めてなのに…。ジンはある?」
「あるにはあるけどその時は観光だからな。家だとは思えないや」
「そうよね…」
さすがの俺でもすぐは慣れなさそうだわ。
トイレに行くのも迷いそう。
「それではまずは城の中をご案内いたします。あとは城のメイドが案内をしますので私はこれで」
「お疲れさまでしたサラウディ様。あとは私たちメイドがご案内いたします」
一言で言うなら広すぎる!
なんでこんなに広くさせたんだよ!
メイドが多いおかげか各部屋隅々まできれいに保たれている。
それでも絶対に使わないだろう部屋もあった。
何だよ、第12応接室って。一部屋で足りるだろ。
やはり迷子になることがあるらしく、俺たちは迷子にならないメイン通りに面した部屋となった。
メイン通りってのがある時点でおかしいと思うけど。
「いい時間ですので夕食はどうでしょう?」
「そういえば夜から急に昼になってそれからずっと食べていなかったね…」
「じゃあごちそうになろうか」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
*
「豪華だったね…」
「ああ…どこかの高級ホテルみたいだったよ」
まさかのフルコース。ここで食べられるとは。
城に住む者は毎日食べるとのこと。
と言っても城に住んでるのは国王だけであとの人は普通のごはん。
フルコースは美味しかったが、毎日続けるのは遠慮して普通の食事にしてもらった。
普通の方でも美味しそうだったし、俺もサツキも同意している。
「確かここよね」
「ここだね。それじゃあまた明日」
「おやすみなさい」
さっきは中までは見なかったけどドア感覚的に広そう。
またそういう部屋なのか。
荷物があったら大きい部屋だとありがたいけどないから少し寂しい。
「やっぱ広いな…。着替えて明日に備えて早く寝るか」
いろいろと家具や鏡まであるな。
そこらへんまでそろえているのはさすが城と言ったところか。
こっちには本棚。こっちには荷物を入れるクローゼット。
この扉はなんだろう?横に広いけど外でも見れるようになっているのか?
「えっ…?」
ドアを開けたら着替え途中のサツキがいた。
…どういうこと?ちょっとまって、思考が追い付かない。
確か横に長い扉があったから開けた。そうだ、俺は扉を開けたんだ。
「…あまりジロジロ見てないでほしいんだけど」
「ご、ごめん!」
いつまでも見ているわけにはいかないよね。見ていたいけど。
それにしてもなんだよ、この設計。
ミスじゃないのか?扉だけで区切るって。
ああ、主と護衛が使うような感じなのかな。
それだと俺たちには当てはまらないけど。
「ジン、ちょっといい?」
「はい…。どうぞ」
「おじゃましまーす。私の部屋と同じね」
「…ごめん」
「もういいわよ。私も驚いたけど、ジンだったからよかったわ…」
「俺だったから…?」
「もうその話は終わり!ちょっとまだ寝れなかったからね。部屋が広くて落ち着かないの」
「たしかに。広すぎると妙に落ち着かなくて全然寝れないよね」
「ちょっと眠くなるまで話でもしよ!この前美羽がさあ――」
その後、1時間ぐらい話をしてしっかり扉を閉めてから寝た。
どうしてなんだろうか。
今まで特に何もなかったのにサツキを目で追ったりしている。
話しているときもいつもより楽しく感じる。
ああ、そうなのか。
いつもは何かに頼るとずっと頼りっぱなしになる。
縋るとずっと縋ったまま離れられなくなる。
自分に言い続けていた。
自分に不利になることはしない。
あいつも言っていたな。君も離れるのは嫌だろうって。
やられたな。これに関しては俺の負けだ。
認めざるを得ない。
俺はサツキがいないとダメみたい。
自分が思っている以上に好きみたいだ。
傷ついてほしくない。でもあいつに言われっぱなしにはなりたくない。
あの時断ればよかった。でもそうなればこの感情に気づかなかった。
じゃあどうすればいい?もう後戻りはできない。
なら俺が強くなればいい。誰よりも強くなればいい。
そうすれば、傷つかない。
俺は新たな決意を胸に抱くと深い眠りについていた。
………
……
…
《新しいスキル『勇者覚醒』を会得しました。効果は危機的状況に陥ると全ステータスが2倍になります。同時に『愛の加護』を会得しました。効果は愛する者が危機的状況になると全ステータスが5倍になります。
2つのスキルは【特殊能力】に属します。ステータスカードには書かれませんが、特殊能力を見たいときはMPを少し消費することで見ることができます。
また、この報告は特殊能力取得時の一度限りです》