首席騎士様は、きつくきつく抱きしめる
なんでそんなにびっくりするの、リカルド様。そうでもなきゃ、あんなに避けられてまで会いにいくわけないじゃない。
わかってないなぁ、って思ったけど。
リカルド様がすごく嬉しそうだから、なんかもうそれでいいかな。
「そ、そうか。その」
「はい!」
「その」
「はい!」
「……っ」
まだ何か言いたげなリカルド様に元気よく返事をしていたら、何故かリカルド様の目がすごい勢いで泳ぎはじめた。こっちの目まで回っちゃいそうだけど、もう目が離せない。
さっきからあたしの両手をしっかり掴んで見つめ合うっていう、リカルド様らしからぬ状態だったんだけれど、ついにそれに気づいちゃったんだろうか。
視線が落ち着かないどころか、顎があちこち動き始め、冷たかったリカルド様の手が汗ばんできた。多分緊張マックスだ。挙動不審感がハンパないけど、それも愛しく思えてしまうんだから、あたしもかなり末期だ。
申し訳ないけど、その様子が可愛くて、ついついめっちゃ見てしまう。
「もう、無理だ……っ」
小さな声とともに、急に視界が暗くなる。
気がついたら、あたしはリカルド様にしっかりと抱き込まれてしまっていた。
「~~~っ!?」
驚きすぎて身じろぎしたら、さらにきつく抱きしめられる。さすがに恥ずかしくって落ち着いていられない。
だって、リカルド様の逞しい腕から感じる熱も、厚い胸板の奥から響く尋常じゃない打ち方をしている心臓の音も、ダイレクトに伝わってくるんだもん。
「リ、リカルド様」
話しかけたくて上を向こうとしたら、リカルド様はさらに上から覆うように体を曲げて、それを阻止してくる。
これはヤバイ。
待って。
リカルド様、気づいてないでしょうけど、密着度スゴイからね!!!?
「あまり、見ないでくれ……」
恥ずかしい、と蚊の鳴くような声が頭上から聞こえた。
乙女か。
思わず心の中でツッコミを入れたら幾分か落ち着いてきた。ていうかリカルド様、むしろこっちの方が心臓飛び出るようなことされてると思うんですけど?
「ユーリン」
囁くように小さな声が、あたしを呼ぶ。返事をしようと身じろぎしたら、またもリカルド様の腕にぎゅっと力が入った。どうやら、あたしはとにかく大人しくしている方がいいらしい。
仕方なく、そっとリカルド様の胸に頭をコツンとあてて、あたしはリカルド様の言葉を待った。
「顔を見るととても言えない……頼むから、そのままで聞いて欲しい」
もう声を出すのすらはばかられて、あたしはリカルド様の腕の中で、コクリと小さく頷く。それを感じ取ったのか、リカルド様の心臓の音が、さらに大きく、激しくなった。