【首席騎士:リカルド視点】なにをやっているんだ俺は。
あれこれと薔薇を眺めては目を輝かせて「香りがすごい」「形が綺麗」「色が絶妙」と笑ってくれるユーリンを前に、俺は自分のふがいなさを呪っていた。
なにをやっているんだ俺は。
雑談もできないどころか、まともにユーリンの顔をみることすらできなくなってしまっている。せっかくユーリンが快く時間を作ってくれたというのに。
兄にもしも勝てたなら、言おうと決めていたではないか。それなのに、なんだこのていたらくは。
そんな俺に気を悪くすることもなく、笑顔で薔薇園を楽しんでくれているユーリンには本当に頭が下がる。彼女の方が絶対に懐が深いし、性格的にも侠気のようなものがあるように思う。
彼女のおかげで、俺は変われた。
演習で語らった夜、「自分を卑下するな」と彼女に一喝された時には驚いたものだが、あの夜から俺の中で少しずつ自分の中にあった負い目のようなものが薄れてきたように感じる。
きっと彼女の存在がなければ今日、兄に勝てることもなかっただろうし、そもそも試合を行う機会すら設けられなかっただろう。
勝ったんだと分かった瞬間、父よりも、母よりも、ユーリンの顔が浮かんだのは、きっと、そう。
俺は多分、ユーリンが好きなんだろう。
なんせたった十日間ユーリンと話さなかっただけで食欲が目減りしたし、ユーリンとジェードが楽しげに語らうような悪夢も見るようになった。自分からユーリンを避けていたというのに、情けない話だ。
だが、ユーリンは別にジェードのことを好きなわけではないと言っていた。それならば俺の思いを伝えたところで、ユーリンにもジェードにも不義理にはなるまい。
そう思ってさっきから彼女に思いを告げよう、告げよう、と努力しているわけだが……どうしたことか顔には血が上って尋常じゃなく熱いし、喉が詰まって声が出ない。
「気持ちいい天気ですね」
それなのに、なぜそんなに嬉しそうに笑うんだ、ユーリン……!
可愛い。
もちろん声は出ないから、何とか返事を返そうと何度も頷いた。直視できなくて目を背けたが、ユーリンはなぜかチラチラと俺を見てくる。ついに目と目が合って、熱かった顔がさらに燃えるように熱くなった。
顔を押さえるのとは逆の手で心臓を押さえれば、ようやく少し落ち着いてくる。
ふと気づけば、急に静かになって無言で薔薇を愛でるユーリンが見えて、俺は、心の中で自分を必死で鼓舞していた。
今なら言えるんじゃないか?
だいぶ落ち着いた。今なら、声も出る気がする。
大きく息を吸い込んで、ユーリン、と声をかけようとした瞬間。ユーリンがバッと顔を上げて、俺を真正面から見つめてきた。
「リカルド様!」