首席騎士様は、なにかを悩む?
お母さんはとても嬉しそうに笑ってくれるけれど、ぶっちゃけあたしがリカルド様を助けられることなんかほぼない。なんせ基本的なスペックが違いすぎる。
「いやぁ、リカルド様に助けて貰ってばっかりで、あたしが出来ることなんて小指の爪の先くらいなんですけどね」
「そんなことはないわ。リカルドがどれだけ貴女に助けられたか……きっと、貴女が思っているよりもずっと大きな助けなのよ」
正直に自己申告したというのに、お母さんは「そんなことはない」と力説してくれる。さすがにリカルド様のお母さんだなぁ。優しさがハンパないんだけど。
お母さんの懐の深さに感動しているところで、扉のほうから控えめなノックの音が聞こえた。
「母上、入ってもよろしいですか」
リカルド様だ!
無条件に胸が高鳴る。そして一方では、一気に肩の力が抜けるような安心感も感じていた。
そりゃあね、どんなに優しい方だと思っていても、好きな人のお母さんだもの。しかも上位貴族だって分かってるし。二人っきりで緊張しないはずがない。
お母さんに許されて入室してきたリカルド様は、あたしを見て目を細めた。そして口角もちょっとだけ上がった。
うん、嬉しそう! 良かったなぁ、なんかスッキリした顔してる!
「ユーリン、待たせてすまなかった」
「いえいえ、おかげさまで美味しいお菓子と紅茶までいただいちゃいました」
「母上も、ありがとうございました」
「ふふ、わたくしもユーリンさんとゆっくりお話が出来て楽しかったわ。うちは男の子ばっかりでしょ、女の子とおしゃべりするのってこんなに楽しいのね」
にっこりと笑ってくださるお母さん、マジ女神。いやぁ、リカルド様が優しいのって絶対にお母さん譲りだよね。うちのお母さんなんてめっちゃ下町の肝っ玉母さん風味だから、こんな上品なお母さんとか憧れちゃうなぁ。
「ユーリンさん、また遊びに来てちょうだいね」
お母さんの笑顔に見送られて廊下に出てそのまま帰るのかと思いきや、なぜかリカルド様はエントランスでピタリと足を止める。しかも悩んだような眉間のまま、顔を上げたり下げたりしはじめた。
どうした、リカルド様。さっきまであんなに晴れやかな顔をしていたのに。
しかしあたしもリカルド様の動きにはだいぶ慣れてきた。これくらいで慌てたりはしない。なにが気にかかってるのか知らないが、ゆっくりと悩むが良い。
広い心で見守っていたら、そのうちリカルド様が意を決したように顔を上げた。
そして、真剣な顔であたしを見る。
「ユーリン、その。もう結構な時間を使わせてしまったとは思っているんだが……帰りは馬車で送るから、もう少しだけ時間を貰ってもいいだろうか」