首席騎士様は、印象を語る
「リカルドのことを庇ってくれたのでしょう? ありがとう」
「いえ……あたしったらつい、むきになっちゃって」
ほんと今となってはむしろ冷や汗ものだ。だってこの由緒正しい騎士の家だよ? ご家族の前でリカルド様を庇う言動って、「女に庇われるとは軟弱な」的な展開になったっておかしくなかった。
ていうかそもそもあたしは庶民でリカルド様たちはバリッバリのお貴族様だ。リカルド様が優しくってなんとなく対等に扱ってくれるもんだから、あたしったら感覚が麻痺してたんだ、きっと。本当にあたし、考えなしだった。
ちょっとシュンとしていたら、お母さんがあたしを見てふと微笑んだ。
「リカルドのパートナーが貴女で良かったわ」
「ええ!? いえ、とんでもない! あたしなんて学校で一番の落ちこぼれで、リカルド様の足をひっぱってばっかりで!」
あたしのカップにもう一度紅茶を注いでくれたあと、お母さんはゆっくりと対面のソファに腰掛ける。そして、いたずら気な顔でこう言った。
「あの子が演習から帰ってきて、パートナーが初対面の女の子だったって聞いたときは心配したのよ。あの子、他の学生から怖がられているんでしょう?」
なんと答えづらいことを聞くんだ、お母さん!
いやまあ、首席騎士様なんて呼ばれて確かに怖がられてますけども。あたしも、ぶっちゃけ最初はビビりまくりでしたけれども。
「ふふ、やっぱり。最初はね、パートナーがジェードくんだといいと思っていたのよ」
「あ、多分本来ならその筈だったと思います」
「あの子ったら体は大きく育ったけれど、人見知りで人とのコミュニケーションが苦手でしょう。ジェードくんはそれでも世話を焼いてくれるんだってリカルドから聞いていたから」
なんと、お母さんは名前どころかジェードさんとリカルド様の関係性まで、かなり良くご存じだったみたいだ。
「むしろジェードくん以外だと、何日も一緒にいて演習するだなんて大丈夫かしらって、少し心配していたのだけれど……でもあの子ったら、パートナーの子がとてもいい子だったって嬉しそうに言うんですもの。本当に驚いたわ」
「えっ」
「だから、どうしても貴女に会ってみたくなってしまって……我儘を言ってごめんなさいね」
お母さんがにっこり微笑んでくれるけれど、どういう顔をしたらいいのか分からない。リカルド様、あたしのこと「いい子だった」って言ってくれてたんだ……。
ちょっと前までリカルド様に避けられてばっかりで、嫌われてたのかなってナーバスになってて。
このところやっとまた話せるようになったのだって、ちょっと無理矢理感あったよねって内心思ってただけに、なんかもう胸が熱くなってしまう。
よかった。本当に、嫌われてたわけじゃなかったんだ。