首席騎士様は、父の言葉をかみしめる
修練場の真ん中では、ようやく結界の中の雷魔法が収束しようとしていた。
今さらだけど、あんなヤバい魔法をお兄さんに直撃させなくて良かった。止めてくれたお父さん、英断です。
グスグス鼻を鳴らし、ハンカチの端で涙を拭きながらも、なんとかリカルド様を見守っていたら、お父さんはなぜかこちらに視線をくれた。
お母さんを見ているのかな? と思ったけど違う。なんでだろう、あたしを見てる?
「ユーリン嬢の言ったとおりだったな。もし戦場へ出たならば、リカルドはこの国で最も力を発揮し戦果をあげる戦力となるだろう。ソルトでも、私でも遠く及ぶまい」
「そんなことは……!」
「いや、事実だ」
目を見開いて異を唱えようとするリカルド様を目顔で抑え、お父さんはさらに言葉を継ぐ。
「魔法の腕もさることながら、お前には幼き頃より鍛えてきた身体能力がある。ユーリン嬢が言うように、そのどちらもを使いこなしているからこその強さだ。リカルド、お前はもっと誇っていい」
自分よりもすでに大きくなった息子を少し見上げながら、お父さんは破顔した。
これまでの威厳ある雰囲気が急に崩れて、目尻にできた笑いじわが優しい雰囲気を醸し出す。お父さんはリカルド様の肩をポンポンと軽く叩いて「強くなったなぁ」となんだか感慨深そうだ。
「ありがとう、ございます……!」
リカルド様の目からゆっくりと涙が落ち、頬を伝ったのが見える。お父さんはそんなリカルド様の頭に手を伸ばしてクシャクシャとかき混ぜている。
もう、あたしも涙が溢れるのを抑えられなかった。
「良かった……」
安堵で思わず声が出る。リカルド様のお母さんが貸してくれたハンカチももう涙でぐしゃぐしゃだ。あたしの顔も随分酷いことになってるだろう。しゃくりあげるレベルでぼろ泣きしていたら、優しく背中を撫でられた。
どう考えてもこの手はお母さんだ。女神か。
「あ、ありが、とう……ごさい、ます」
グスグスと啜りあげる合間をぬってなんとかお礼を言ったら、お母さんから聖母のような微笑みを向けられた。
「お礼を言うのはこちらのほうだわ。ねえ、あなた」
お母さんがそう声をかけると、お父さんも深く頷く。
「ああ、ユーリン嬢の言葉がなければ、こんな機会を持つことは難しかっただろう。本当に感謝している。ありがとう、ユーリン嬢」
まさかのストレートな感謝の言葉に、あたしはもうどうしていいか分からない。「とんでもない、あたしなんか」って言いたいのに、こみあげてくる涙でうまく言えなかった。