首席騎士様は、力を解放する
「今のはちっと効いたぞ」
お兄さんが、ニヤリと口の端を上げて笑う。そういえばお兄さんは口数も多いけど表情も豊か。リカルド様とは正反対だ。余裕があるような素振りで話すけれど、明らかにリカルド様よりダメージを受けてるように見えるし、氷に閉じ込められた影響か小刻みに震えている。
リカルド様、チャンスだよ、多分!
「やるじゃねえか」
「今度は魔法を……本気で使います」
剣を鞘に納め両手をゆっくりとあげながら、リカルド様が静かな声で宣言すると、お兄さんは噛み付くようにこう言い放った。
「やってみろ! てめえのヘナチョコ魔法なんざ怖かねーんだよ!」
そう叫んで斬りかかろうとしたお兄さんの前で、リカルド様は一瞬で右手に魔力を集中させて大きな火球を生み出すと、牽制するようにお兄さんへと投げつける。
「うおっ、危ねっ」
飛び退って火球をなんとか避けたお兄さんの足元に、お腹に、頭に、次々と火球が襲いかかる。それをなんとか避けていくところを見るに、お兄さんもさすがに反射神経がいい。
「ちょ、おっと、お、わっ!? 」
器用だな、ぜんぶスレッスレだけど避け切ってる……と思ったら。
「ぅ熱ちぃっ!」
ついにかすった。しかもリカルド様ったら眉毛ひとつ動かさずに右手にポコポコと生まれる火球を虫でもはらうかのような気軽さで投げまくっている。
「ちょ……待っ……魔法ってこんな連射出来るモン!?」
「剣と同じで鍛錬すれば可能です」
イヤイヤイヤイヤ、リカルド様こともなげに言ってるけど、お兄さんの驚愕も無理ないからね?
普通はあんな息するようには魔法撃てないから。リカルド様を全力で応援してはいるけど、ちょっとお兄さんが可哀想になってきた。リカルド様、マジでスゴイ。
リカルド様から放たれる火球に追い回されて、お兄さんはもはや反撃どころじゃない。ついには鍛錬場の端の方まで追い詰められてしまった。そして、逃げ惑っていたお兄さんが、一瞬硬直したように動きを止める。その顔は幽霊でも見たかのように青ざめていた。
「ってか、お前! 左手のソレはなんだ!!!?」
あ、気づいちゃいましたか、お兄さん。
右手から次々に生まれ出ては投げつけられている火球と同じ勢いで、実は左手には雷が生み出されているんだよね。そして放出されずに貯まる一方の雷は、巨大な塊となってバチバチと激しく光を放っている。
「見ての通り雷です。魔法はこれまで兄さんの前では控えていたのですが、せっかくなので難度の高い魔法をお目にかけます」
「待て! そんな気遣いは不要だ!」