【首席騎士:リカルド視点】全力を尽くすと誓う②
「胸を借ります」
「ふん、魔法など使う暇は与えんぞ。格の違いを思い知るがいい」
威圧感をさらに濃くし、兄が静かに剣を構える。両腕を上げ剣先は俺の顔へと向ける、攻めとともに防御にも優れた型だ。スッと伸びた背筋が美しい。兄は剣士にしては珍しく饒舌なタイプだが、剣を構える時の静謐なたたずまいには、いつも見惚れてしまう。
剣に関して、やはり兄の右にでるものは多くないだろう。俺とてこれまでは兄に勝つなんておこがましいことだと、想像したことさえなかった。
物心ついた頃には兄との身体能力の差は明らかだったし、兄の剣術の才は俺から見てもずば抜けていて、剣の神に愛されているんだろうといつも羨ましかったのだ。
「リカルド様、頑張って!」
ユーリンの必死な声が聞こえる。まだ始まってもいないのに、こんなに一生懸命応援されているということは、きっと不安にさせてしまっているのだろう。
だがユーリン、安心してくれ。
不思議なことに今日は兄の姿がいつもより小さく見えるんだ。強者のオーラは炎のように兄の体を包んで巻き上がるように強く見えているというのに、それでも勝てない敵ではないと俺の本能が告げている。
君の言う通り、俺の全力を尽くせばいい勝負ができるだろう。
安心してくれるようユーリンにひとつ頷いてみせてから、俺は鍛錬場の真ん中に向かう。右手で剣を構え、左手は遊ばせる騎士らしからぬ構えだ。
兄や父は嫌がるだろうが、これが俺の今の戦闘スタイルであり、俺のこの試合にこめた決意の形でもある。
「……ふん、騎士の流儀も忘れたか」
「俺なりの、戦闘に特化した最高の構えです」
案の定、兄があからさまに眉を顰める。だが、もうその威圧に気圧されるつもりはない。
火花を散らす俺たちの間に、静かに三つめの剣がおろされた。
この勝負の裁定を務めるのは父だ。俺と兄の間を別つ父の剣が振り上げられた瞬間、勝負が始まる。そう思うと否応なく緊張感が高まっていく。
ああ、心地いい緊張感だ。
「言葉は不要だ。自らの主張は、剣で語るが良い」
父の重い声が響く。俺も兄も、言葉を発しなかった。
「始め!」
父の剣が振り上げられると同時に、凄まじい勢いで兄の剣が振り下ろされる。片手で止められるほど兄の剣は軽くない。だが、これは想定通りだ。兄は昔から、初撃に渾身の一撃を放ってくる人だった。
右手の剣で初撃を受け止めた瞬間、兄の腹めがけて思い切り衝撃波を打ち込む。
兄は驚くほどあっけなく、鍛錬場の端まで吹き飛んだ。