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首席騎士様は、結界なんてお手の物

「すごい……」



それしか、言葉が出なかった。だって、あたしたちが通う王立魔法学校『リンケルダイト』がある王都からは、レッドラップ山なんて小さくかすんで見える程度だったのに。


麓から見上げる切り立った崖は、まるで人が入る事を拒んでいるかのよう。



「こんなの……登れるの……?」


「崖ではない部分もある。それに、君が登る必要はない」



そう言うが早いか、首席騎士様は両手を高く上げ、よく響く低い声で何か呪文を唱え始めた。早口言葉でも言ってるのかってくらい、複雑な詠唱。


悲しいけれど、あたしなんかでは聞き取ることすら不可能だ。違う国の言葉みたいに耳には入ってくるけれど、けして意味を聞き取れない。


首席騎士様の詠唱がひと際重く響いた時、空間にパリパリと音を立てながら、小さな光が閃いていく。


まるで薄い薄い虹色が輝くように、透明なような僅かに色があるような薄い膜があたしたちの周囲に張り巡らされた。



「結界を張った」


「結界……!」



転移の次は結界ときたか。どんだけすごいの、首席騎士様。


パートナーになってからまだわずか数時間しか経っていないというのに、あたしは早くも首席騎士様とのレベルの差というものを、ひしひしと肌で感じている。


なんかもうね、劣等感を感じるというレベルじゃないのよ。ひたすら「すごい」しかない。



「数日は拠点にするものだから、大きめに作っておいた」



見回してみたら、確かにあたしの寮の部屋より大きいかもしれない。なんていうか、結界って大きさまで自由に変えられるのね。そんなことも初めて知ったよ。



「確かに……しばらくここで野宿ですもんね」



討伐演習はいったん街をでてしまうと、魔物を狩るまで帰ってはいけない。帰った時点で終了したとみなされるからだ。「忘れ物した」なんて戻っちゃった日には、その時点で収穫なしとして演習終了の憂き目にあう。



「では行ってくる。君は自由にしていてくれ」


「は!? え!? ちょっと……!」



少し考え事してただけなのに、いきなりそんな事を言われて、あたしは飛び上がった。



「結界から出たら確実に魔物の餌食だ。絶対に結界から出ないでくれ」


「待って! ちょっ……」


「数刻で戻る」



それだけ言い残して、首席騎士様は結界を突き抜けると、あっという間に走っていってしまった。


目の前は崖だから迂回路でも探すんだろう、山のすそ野を尋常じゃないスピードで走り去っていく。三回瞬きする間に、もう豆粒くらいに小さくなってしまった。


何、あのスピード。


さっきまでって、あれでもあたしに速度を合わせてくれてたのか。


魔法なしでも、充分にすごい。生き物としての基本性能が違い過ぎる。


首席騎士様のあまりのハイスペックさに、あたしは彼が消えて行った山のすそ野を、呆然と見つめる事しかできなかった。

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